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β47 むくちゃん★僕達は君の幸せを祈るよ

□第四十七章□

□むくちゃん★僕達は君の幸せを祈るよ□


   1


「すっかり、遅くなっちゃって」

 日菜子にウルフとマリアは、すまなそうにしていた。


 三人を団地の出入口迄、土方家が送った。

 むくちゃんも置いて行けないので、当然、一緒だ。

 美舞と玲は、お揃いのマフラーをし、むくちゃんは、うさぎちゃんの上着を着ている。

 これは、かなりあたたかいし、重宝していた。


 ウルフとマリアもいただいた帽子とストールをしていた。


「いやいや、楽しい一日でしたし……。おもてなしもしなくて……」

「又来てね……。待っているよ……!」

 玲と美舞は、何もお構いしていなくて、申し訳がなかった。

 又、名残惜しくもあった。


「今日は、随分と月明かりがいいですな」

 月のモノに魔の息子と言われたウルフが、天を仰いで言ったから、ちょっと運命的だった。


 それだからか、にわかに、その明かりは、雲の間に隠れたり覗いたりした。


「明日になれば、日が昇りますよ」

 日のモノの娘マリア、聖なる娘マリアが、又、ちょっと運命的に言った。


「――そう、日は又昇る」

 ぽつりと聞こえた声に美舞は、玲の言葉だと気付いた。


「冷えて来たわね。じゃあ、そろそろ。又、お邪魔させてね」

「そんな、母さん。遠慮はなしだよ。玲も僕もいつでも歓迎なんだよ。むくちゃんもね」


 それから、美舞は、千切れる程手を振って三人を見送った。

 玲は、むくちゃんの手を小さく振ってお別れをした。


   2


「玲、お茶にする?」

 送った後、四〇一号室に戻って、美舞がお湯を沸かそうとしていた。


「いや、ベランダに行かないか?」

 居間の隣にある6畳間から、掃き出し窓を空けて促した。

「うん、良いけど」

 手を拭いて、キッチンから、部屋迄出て来た。

「むくちゃんにも聞いて欲しい話があるんだ」

 まだ、うさぎちゃんの上着を着て玲に抱かれていた。

「そうなんだ。じゃあ、僕が抱いてみるよ」

 腕をゆっくりと伸ばした。

「気を付けてな」

 そっと、むくちゃんを渡した。

「俺だけ悪いけど、水汲んで来ていいか?」

 美舞は、むくちゃんを抱いたまま、黙って頷いた。


 赤ちゃんとその両親で、ベランダに来た。

「少し冷えるね。むくちゃんは、大丈夫?」

 美舞が、優しく声を掛けた。

「優しいな、元の美舞は……。本当に良かったな」

 妻と子に微笑む。


「ごめん。本当に僕の黒歴史だよ」

 しょんぼりとした。

「ブラックなだけにな。辛かっただろうな」

 心配は要らないよと言う顔であった。


 玲は、美舞を見つめて、少し頬に紅を帯びた。

 それに連れられて美舞は、自身の顔をむくちゃんの顔に寄せて、赤くした。


   3


「あれは、夢ではない筈だ……」

 玲は、大きく空を仰いだ。先程の月明かりが雲から少し覗いていた。

 

「むくちゃんは、こうして、聖の力を二つ持っている。仮にX染色体とY染色体の上にでもだ」

 玲は、カップに入った水を両手にした。

 カップを持っていた左手がX染色体、添えた右手がY染色体を示唆した。


「俺達が見た高校生位のむくちゃんは、確かに居た。これから、話すから、聞いてくれな」

 コップを覗き込んだ。

 すると、月明かりで、水がまるでレモンティーの様であった。


「俺達には、このむくちゃんの姿が如何様にも見えた。しかし、そう見えただけで、その幻想と言うか妄想に近いものを自分達の目に焼き付けていたんじゃないか?」

 コップの水を吹くと波紋ができた。

 月に色とりどりの妖精が宿った。

 仇討ちをした時の敵を思い出す程、六色に縁取られた。


「美舞の世界観を壊さない様に、だけど、赤ちゃんのままでは、気絶しているまーまの力になれないと苦労したのだろう?」

 あの娘は、優しいからと呟きを添えた。

 すると、水に宿っていた妖精達が、ざわめき、くるくると回りだした。

 色が渦を巻いた。


「それで、自分をまーまに似せて、お役に立ちたいと思った」

 あの時の時計城の様子を思い出していた。

「そんなに、僕に似ていたの……。段々と記憶が、薄れているみたい。忘れさせる教祖が、自分から、忘れていくなんて、皮肉だね」

 玲は、見た物、聞いた物を信じるたちだからフォローを入れた。

「多分、手術のショックで、少し変わってしまったのかな? 大丈夫だよ、美舞」

 ふわっと肩を抱いた。


「それで、あの姿は、むくちゃんの力で見せた影だった。実際に、三面鏡が光った時、体が透けていた。赤ちゃんの体は、虚数空間か、さもなくば、自然に祭壇の裏にあったのであろうな」

 水を飲もうとしたら、驚く程の満月がうつり込んでいた。

 はっとして、月を見た。

 しかし、一瞬で、まるで新月の様になっていた。


「マリアばあばを心配させない様に、マリアお義母さんが、美舞が家に居てくれたらいいと思われれば、むくちゃんは、団地に影をよこして、横たわっていた」

 玲も美舞も吐息を夜風に染めた。


「そう……。月の様に。影を作ったりなくしたり。日の光も月に従ってそうかも知れない」

 今の月の様子で、思う所があった。

「そうか……。そうなんだね」

 美舞は、玲の話に妙に納得した。

 あの、仇討ちに、月のモノも日のモノも、父さんと母さんについて、言っていた。


   4


 そこ迄話すと、夜風に当たりすぎたので、二人は、居間のむくちゃんのベビーベッドの所に来た。


「俺は、そう思う」

「うん、僕もやっと納得が行ったよ」

 美舞が、起こさない様にベビーベッドに寝かせて、うさぎちゃんの上着を脱がせ、布団を掛け、柵をした。

 そして、よしよしと頭を撫でた。


「この娘は、心の優しい天使なんだ……」

 悪魔の訳がないと言いたかった。

「天使だね。そうか! そうだったんだ!」

 美舞は、玲の何かを見ていた。

 今が、この人の大切な時間。

 大事な事を話しているから、今は、貴方を聞きたかった。

「玲……」

 やはり貴方の事を愛しているからと、口にしかけた。


「むくちゃんは、天使としか、思えない。俺達のかけがえのない娘だ! 天使と言ってもおかしなものではなく、その様な存在と言う事、分かるだろ、美舞……」

 少し疲れたのか、玲は、うっすらと泣いていた。

「勿論、分かるよ。僕は、玲やむくちゃんを知りたかったし。以前よりもね」

 美舞も玲の涙に誘われて、ほんのりと潤んだ。


「僕のブラックな教祖降臨は、嫌だったけど、天使誕生は歓迎だな」

 玲を後ろから抱き、あたためた。


「むくちゃんは、天使だよね」

 美舞は、にこりとした。


   5


「天使の笑顔は、いつ、見せてくれるのかな? 玲」

「そうだね、美舞」


 美舞が、むくちゃんの左手を優しく触って五芒星にキスをした。

 玲は、同じく、右手にキスをした。


「所で、美舞。母親らしい呼び方は、決まったの? 結構重要なのですが……」

 ゆっくりと、笑顔を取り戻した。


「さあ……? まーまになっちゃうのかな? うん……」

「はは。じゃあ、俺は、ぱーぱだよ。むくちゃんのお望みでな……」


 二人してくすくす笑い合った。


「これから、沢山、お話ししてくれるよ、美舞まーま」

「楽しみだね、玲ぱーぱも」



「はい、まーまよ、むくちゃん」


 むくちゃんに最高の笑顔で、ご挨拶。


「むくちゃん、まーまだよ、むくちゃん」


 まーまだよ。


「随分とねんねしているね、むくちゃん」


 まーまですよ。


「起きたら、まーまが、お世話するね」



「…………」

「…………」


 玲は、美舞の手を取った。




 ――むくちゃんの前だけど、二人でキスを交わした。





 ……僕達は、君の幸せを祈るよ……






「愛しています」


 ぱーぱとまーまより




 ふと、むくちゃんの笑顔が見えた気がした。





***

□第二部□ 完

□エピローグ□へと続きます。

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