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変化

アーダの身体は見事な変貌を遂げていた。


たったの数日で、少女から、美しい大人の女性へと変貌を遂げるなど、普通では考えられない事だ。

しかも、その見かけは以前のアーダからは想像が出来ないくらい、洗練されている。

いや、洗練されているというか、まさに大人のレディー、という出で立ちで、フィノやルティナにはない妖艶ささえ感じられる。

尤も、正しくレディーというのには、服装と口調は改めなければならないのだろうが…。


ともあれ、この変化は一体どう考えれば良いのか。

そもそも、人が変態する事など、ユウは考えた事も無かった。

例えば蚕が繭を破って蛾となる事と比べれば、アーダはそこまで見かけが変わった訳ではないので、そのメカニズムは恐らくそれとは違うのだろうが、どんな仕組みによるものなのかはユウには全く想像がつかない。


それはアーダ自身も同じようで、訊ねてみても、わからない、と言うだけだった。

考えてみれば、蚕も自分の変化のメカニズムを知っている訳ではないだろうから、アーダがわからない、と言っているのもおかしな事ではないのだろう。


そんな中、只一つわかった事があるとすれば、アーダが心の内から湧き上がる本能のようなモノに従って動いていたという事だ。

この小人の村に着く直前位から身体の中が熱くなり、何かに包まれたい、という思いが強くなっていったのだという。


繭の中にいた時にユウと念声(こえ)を交わした事については、直前のもの以外は何となくしか覚えていないらしかった。

その間自分の身体がどうなっていたのかも、全くわからないらしい。

ガリーボックにやられた傷が綺麗に無くなっている事の理由もはっきりしない。

治療を受けていたとはいえ、痕ぐらいは残っていてもおかしくない、というか、あれだけの怪我ならば残っていなければおかしいはずなのだが。


わからない事だらけだが、アーダがわからないという事をそれ以上追及しても仕方がないので、恐らくはユウやフィノと同様、アーダ(もしくはアーダの両親)も、元々は別の世界からやってきた人間で、だからこそ、アーダはこの世界の住人とは見かけもだいぶ違っていたのだろう、という推論を結論とする事にした。

多分に安易な考えかも知れないが、自分達がそうであるであるからか、そう考えると納得がしやすかったのだ。


そう無理やり結論づけた後、ユウ達は皆で館の屋根の修理に取り掛かった。

無事にアーダが戻ったと考えれば、先を急ぎたい所ではあったのだが、とはいえここを立ち去る前にアーダが壊してしまったお屋敷くらいは直していかなければならないだろう、という話になったのだ。


「でもこれで、いよいよ旅が続けられそうね」

屋根の上で小人達が持って来た板を打ちつける作業をしていたフィノは、隣で同じ作業をしているルティナにそんな風に話しかけた。

ルティナが作業の手を止めて、心配そうにフィノの顔を見つめてくる。


「だいぶ時間が経ってしまいましたけど、大丈夫なのでしょうか?」

ルティナが心配しているのは、ユウが追いかけている声の主の事だ。


「大丈夫よ、きっと」

フィノはルティナとは対照的に意外にあっけらかんとしている。


「なぜ、そんな風に思うんです?」

「うーん。上手く口では言えないんだけど、何となくそう思うの。なんていうのかな、私にはその声は聞こえないけど、私達が今追いかけている声って、特別なんだと思うのよね。だってそうでしょ、ルティの時もそうだったけど、私もアーダも、他の皆も、ユウが気付いてくれた後は、すぐに助けてもらえたし、助ける事が出来たでしょ。だけど、ユウの追っているその声だけは追いかけても追いかけてもなかなか追いつけないし、追いつけないから助けられない。でも、時々だけど声は聞こえ続けている。例え、途中で別の声に遮られても、それが収まれば、また聞こえてくるようになる。私、その声の主って、他の声の声の主とは違う次元にいるように思えるのよね。何ていうのかな、私たちよりももっと高位の存在っていうか…、言ってみれば神様に近い存在の様な、そんな感じ」


「神さま…ですか…」

「私が勝手にそう感じているだけだから、本当の所はどうか、わからないけどね。…そんな事より、私、あれ、ちょっと気に入らないんだけど」

フィノは突然屋根の下を指差して、強引に話しを収束させた。

その目つきは随分と厳しい。


フィノの視線の先にいたのは…、アーダだった。

アーダがユウにべったりくっついて、一緒に木を張り合わせて屋根の部材を作っている。


子どもだった以前のアーダなら、そんな風にしていても、可愛らしいだけですんだのだろうが、モデル体型の大人のアーダがそうしていると、さすがに和んでばかりはいられない。

生まれ変わったアーダが醸し出す色艶が、どうしても癇に障ってしまうのだ。


「でも、私達もあの時ちょっとはしゃぎすぎちゃった訳だし、アーダはしばらくユウと別れて寂しかったんだろうから、少しくらい甘えても、仕方がないんじゃない? 順番だし」

ルティナがアーダを弁護する。


しかし、ルティナもフィノと同様、実は、胸の内にもやもやしたものが溜まっているのは同じだった。

仕方がない、という表現を使っているのがその証拠だ。


「前のアーダならそれもわかるんだけど、あんな風に女を前面に出して甘えられると、なんだか無性に腹が立ってきちゃうのよね」

フィノは依然アーダを見つめたままでいる。

フィノの中の女の本能が警鐘を鳴らしているらしい。


フィノの怒りが昂って来るのを感じたルティナは、話を変える事にした。

「とにかく、早く作業を終えてしまいましょうよ」


「それもそうね。とっとと仕事を終えて、私達もユウの隣に戻りましょう」

意外にあっさりフィノはその提案に乗った。

視線を手元に戻し、作業を再開させる。


その隣で同じ作業を行いながら、ルティナは自分の中のもやもやも意外に収まっていない事に気づき、密かに戸惑っていた。

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