小人の村
その老人は初めだいぶ警戒した様子を見せていたものの、ユウが念の声で『助けを呼んだのはあなたですね』と声をかけた事で何か悟ったらしく、すぐにユウの事を受け入れてくれた。
老人はこの村の長老だそうで、その長老がユウ達の事を受け入れた事で、村人達も概ね好意的に迎え入れてくれる事となった。
アーダの傷も、それに気づいた長老の指示により、この村の医師の治療を受ける事となり、アーダは今、この村で一番大きな建物である集会所の建物の中で眠っている。
この村の建物は、その集会所の大きさでも、ユウ達の中で一番小さなアーダの身体でギリギリ入るくらいの大きさしかないので、他の三人では当然建物の中に一緒に入る事は難しい。
それもあって、アーダの看病は小人たちに任せる事となったのだ。
彼らにアーダを任せる事については、不安に思う気持ちもない事も無かったのだが、彼等は総じて親切で、邪悪な気配も感じられない為、大丈夫だと判断した。
ユウは医学に明るい訳ではないのだが、彼等の医療のレベルは少なくともリスティ並みにはありそうだとわかった事も、任せていいと思った理由の一つになっている。
取り急ぎリスティまで戻っても、同程度の治療しか期待できないと思われるからだ。
アーダは疲れたのか、今は眠ってしまって全く起きる気配はない。
ラビアローナの槍はアーダの寝る建物の煙突に刺してある。
眠る前にアーダが、槍はせめて自分の見える場所に置いてほしい、と言った為、村長にお願いして煙突の中に立てかけさせてもらったのだ。
なのでアーダは、目を覚ませば横になった状態でも、槍の存在を確認できるはずだ。
一方、ユウ達他の三人も、小さな村人達に大いに歓迎される事となった。
アーダ以外は、屈んで小さくなっても屋敷に入るのは一人がやっとだという事で、屋敷の前の広場でという事にはなったものの、村中総出で歓迎の宴を催してくれるほどの歓迎ぶりだ。
その歓迎の宴が始まると、村長は早速料理を勧めてきた。
「どうぞどうぞ。どんどん召し上がってくださいな」
村長の名前はバウジフ。
バウジフは常に村人達の中心にいて、皆に信頼されている事が良くわかる。
彼等の作る料理は、実際どれも食材の良さを最大限に引き出した、素朴だが美味しい食べ物ばかりだった。
しかし、当たり前のことかもしれないが、如何せん量が少ない。
大概のものは一口食べれば無くなってしまう位の量しかないのだ。
それでも美味しい物が食べられるというのは嬉しいもので、気持ちも自然と軽くなる。
「アーダの傷を治してもらっただけでも有難いのに、こんなに美味しい御馳走まで頂いて、本当にありがとうございます」
ユウが素直にお礼を言うと、バウジフは凄く喜んだ。
「いやいや、それは良かった。我々も、あなた方の様な人達が現れてくれるのを待っていた所だったのでな。これくらいの事はさせてもらって当然の事。気になさらんでくだされ」
しかし、そんな風に言われると逆に怖くもなってくる。
何か大変な事を頼まれるのではないかと勘繰ってしまいたくなるからだ。
とはいえ、そもそもそのために苦労してここまで来たわけだし、そうでなくともアーダの事で世話になっている訳なので、彼らの話を聞かない訳にはいかない。
ユウは覚悟を決めて、話を切り出した。
「それで、あなた方が助けて欲しい事ってなんなのですか?」
すると、バウジフは明らかに表情を変えた。
周りの村人達も一斉に話を止め、静かになる。
さわさわと、湿気の少ない乾いた風が広場の上を通り過ぎていく。
少しして、バウジフはゆっくりと口を開いた。
「…実は、この村の平穏はもはや風前の灯での…。何とかしてこの状況を打開せねば、この先我々は生きてはいけんのじゃ」
「…どういう事…です?」
「…もう一月近く前の事になるのかの。とあるカラスにこの村に結界を張るための宝具を奪われてしまったのじゃ。結界は二重に張られていて、宝具はカラスごときが入れるはずのない場所に置かれていたにもかかわらずにじゃ。あれがないと、いずれこの村は獣の群れに襲われる事になる。だからと言って、仮にここを逃れて他の場所に移り住もうと思っても、結界が無ければ同じ事。せいぜいその地に住むモノの庇護を受け、そのモノの下位の存在として生かされる存在、つまりは奴隷か家畜のような存在として生きるより仕方がなくなる。我々はそれほど弱い存在なのじゃ」
バウジフはそこまで言って、大きく一つ息を吐き出した。
そうやって、一息ついてから俯いていた顔を上げる。
「じゃが、あの宝具さえ取り返せば、また平穏な暮らしが続けられる。我等は、他の種族に干渉するつもりはない。我々が生きていくのに必要な最低限の命は頂くが、それ以外の殺生は例え獣相手でもせぬようにしているし、増してや他人の縄張りに干渉するような真似は絶対にしない。ただここで、平穏な時を過ごしたいだけなのじゃ」
「つまり…その宝具を我々に取り返して来てもらいたい、と言う事ですか?」
その先を察したユウが問いかけると、バウジフは申し訳なさそうに目を伏せた。
「我々には力がない。今はまだもう一つの結界が何とか効果を保っているので、村にいる限りは問題ないのじゃが、村から出たら簡単に獣どもの餌食となってしまう事じゃろう。だから、申し訳ないが我々はここから動く事が出来ないのじゃ」
周りを見ると、沢山いる小人達の全員が、顔を伏せ俯いてしまっている。
バウジフの言う獣というのは、ユウ達も襲われた巨木の森にいたあの獣たちの事だろう。
確かに、あのビグーやガリーボックに彼等が太刀打ちできるようには思えない。簡単に殺られてしまう事だろう。
だからこそ、彼等には結界が必要なのだ。
ユウの心は決まっていた。というか、元々そのつもりでここへ来たのだ。
ここで断る選択肢はない。
それに、考えてみればカラスが取って行ったその宝具とやらを取り返して来ればいいだけの話なのだ。
別にビグーやガリーボックと無理に戦う必要もない。
「わかりました。やってみます」
ユウがそう言ってバウジフの手を取ると、周りの小人達からは一斉に歓喜の声が湧き上がった。




