謎の石塊
その夜、ユウ達一行はバーランド家にしては豪華な夕食を御馳走になった。
レーティが持って来た差し入れによるものだという。
ビスクからの入金も徐々に入ってきている事も有り、レーティの差し入れ分くらいは皆がいる間に豪華に食べてしまおうと言う事になったようなのだ。
少し危惧していたアーダの事も、その容姿が改善されていた所為かどうかはわからないが、アテルやラビアにも普通に受け入れられた。
ルティナやフィノが間に入ってくれた所為もあるのだろうが、かなり良くしてもらっているように見える。
アーダの肌が改善している理由について、ルティナはユニコーンのおかげだと考えているようだった。
巨人の書庫で読んだ本の中に、ユニコーンの唾液には人の肌をよい状態に保つ力がある、という記述があったのだそうだ。
しかし、その本はかなりあいまいな表記が多かったらしく、なのでルティナはあまり信じていなかったようなのだが、改めてよく考えてみると、ルティナ自身、あれ以降明らかに肌の調子が良くなっているらしい。
ルティナの肌はもともと綺麗だったので、ユウの目にはあまり変わりがあるようにも見えないのだが、本人がそう言うのであれば、恐らくはそうなのだろう。
それにはフィノも同意していて、という事は、その話の信憑性は高いのではないかと思われた。
そんな話の流れもあって、ラビアやレーティ、それにラインラまでが、アーダ達の周りに集まり、お互いの肌を触り合って、その感触を確かめたりしていた。
彼女達からしてみれば、特別おかしなことをしているつもりではないのだろうが、衣服の間に手を差しこんでその感触を確かめているその姿は、見ている方が恥ずかしくなる。
なのでユウは彼女達から視線を外す様にして、反対側を向いた。
そんなユウの隣に、やはり所在なさげなフィルスが静かに近づいてくる。
しかも、フィルスはそこで腰を降ろさず、逆にユウを立たせて部屋の隅の飾り棚の前へと誘った。
この時、仮にユウが部屋から出て行っていたら、フィノもルティナもすぐに気付いてユウを追いかけたのかもしれないのだが、隅とはいえ部屋から出て行った訳ではなかったため、皆、特にユウを気に掛ける事も無く、その場で談笑を続けていた。
フィルスはそんな女性たちの方をちらと見てから、ユウの前に顔を近づけ、他の者に聞こえない様配慮した小さな声でユウに言った。
「ユウさん、これを見てください」
フィルスが棚の上から取り上げたのは、手のひらに乗るサイズの立方体の木箱だった。
パッと見何の装飾もない普通の木箱だ。
フィルスはおもむろにその木箱を開けると、その状態でユウの方へと差しだした。
覗いてみると中に入っていたのは、ちょうど野球のボールくらいの大きさの、しかし、どう見てもただの石ころだった。
とても木箱に入れてしまっておくような代物の様には思えない。
「なんですか、これは。宝石や貴金属にも見えませんし、もしかして希少な鉱石か何かとか?」
ユウが聞くとフィルスは小さく頭を振った。
「いえ、どうやらその辺に落ちているただの石ころと変わらないものみたいです」
「そんなものを何故大事そうに箱に入れて持っているのです?」
二人の後ろではフィノが何やら騒ぎたてたのをきっかけに、皆でフィノを囲んで集まっている。
ユウとフィルスのいる方を気にする者は見受けられない。
フィルスはもう一度そちらの方を軽く眺めてから、ゆっくりユウの方へと向き直った。
「実は…、この石の入った木箱は、二日ほど前に送られて来た物なのです」
「送られて? 誰に?」
「それが…、送り主が誰なのかはわからないのです。ですが、ここを見てください」
そう言ってフィルスが示したのは木箱の蓋の裏側だった。
そこには、うっすらと三本の矢が交わった様な直線的な印が彫りこまれている。
しかし、何かのマークの様なその印はユウの記憶しているものの中に合致するものはない。
「これは?」
なのでユウがそう尋ねると、フィルスはもったいぶった様に一拍置いてから答えた。
「前王カプア様の印に似ています」
「似ている?」
その微妙な言い方にユウは反射的にフィルスを見つめ、聞き返していた。
フィルスにふざけている様子は見られない。
「はい、槍の先の部分がすこし削れて消えているのですが、何かの拍子に削れてしまったと考えれば…。しかし、仮にこれを先王が送ったモノだとして、何の意味があるのかは全く分かりません」
フィルスはそう言うと、木箱の中からその石ころを取り出した。
取り出してユウの目の前でくるくると回してくれるのだが、フィルスが言うようにその辺に落ちている少し大きめの石ころと何ら変わりがないように見える。
「確かに…。特に高価なもののようには見えないし、所有者が王家の者である事を証明する物の類でもなさそうですしね」
「ユウさんに見せればもしかしたら何かわかるかもしれないと思ったのですが…」
どうやらフィルスは、それを期待していたようなのだ。
しかし、仮にこの石が普通の石とは違う何か特別な組成のものであったとして、ユウからしてみれば、自分の知識の中にある物がこの世界にもあるとは限らない訳だし、逆に自分の知らない物がこの世界には存在するかもしれないので、期待されても困る、としか言いようがない。
「すみません。残念ながら私にも只の石にしか見えません」
なので、ユウはそう答えるしかなかった。
「そうですか…」
ユウの反応にフィルスはがっくりと肩を落とした。
フィルスがあまりに落胆しているので、ユウは少し手がかりになりそうな事を聞いてみた。
「送り主は先王、と考えて良いのでしょうか?」
先王はもう半年以上前に行方不明になっていると聞いている。
石が先王から送られたのが確かなら、何らかの意味を持つものである可能性は高いと言える。
しかし、フィルスは力なく頭を振るだけだった。
「いえ、それも何とも…。ふたの裏の印には先王の印と微妙に違っているようでもありますし、そもそもその印が先王のものだとしても、先王が送って来たとは限りませんしね。ただ、何となく気持ちが悪いのであまり大っぴらにはしない様にして保管しておこうかと思っているのです。ユウさんもあまり他人には言わないでくださいね」
確かに、いくら気持ちが悪いからと言って捨ててしまうのも良く無いだろう、とはユウも思う。
だとすれば、少なくともこの石が何なのかがわかるまで、公にしないでおく事は賢明な事だと言えるだろう。
「わかりました」
ユウは頷いて、何かわかった時にはフィルスに連絡できるよう、この石の事について、頭の隅に記憶しておくことにした。




