ミッション終了
ラビアローナは森と丘の境にある少し大きな岩の前に、小枝と草で小さな寝床を設けていた。
そこは森側は岩で遮られ、丘側は視界が開けている為、何かあった場合でも対応しやすいと考えたらしい。
ユウは二頭のユニコーンと共にその寝床まで移動し、そこで彼等と少し話をすることにした。
ラビアローナはユウの事を信じるとは言ったものの、まだやや疑心暗鬼な所がある為、その不安を払拭させてあげようと考えたのだ。
ユウはそこでラビアローナにここに来るまでの経緯を話した。
すなわち、ラビアローナがいなくなって困っていたバールリッツの声が聞こえ、話を聞いて、バールリッツと共にラビアローナを探して一緒に行動してきた、という事だ。
ラビアローナはユウの話を初めは黙って大人しく聞いていたが、ラビアローナの残した毒溜まりに気付いたのがアーダだと聞くと、アーダの事をまた舐め回し始めた。
感謝の意を表しているつもりなのかも知れないが、体の大きなユニコーンに舐められるのは、犬や猫に舐められるのとはわけが違う。
いくらスラム街にいた時よりもマシだとアーダが言っても、傍から見ればある意味いじめのようにさえ見えなくもない。
フィノやルティナも同じように感じたのか、代わる代わる身代わりになるのだが、そうすると一時的にはフィノやルティナにその対象を移しはするものの、またしばらくするとアーダの方にちょっかいを出し始める。
何が決め手なのかはわからないが、少なくともここにいる三人の中では、彼等はふたりとも何故かアーダが一番気に入っている事に間違いはなさそうだ。
ユウは、話の最後に、そのアーダを含め三人の女の子についても、元々はバールリッツ同様、声が聞こえた事がきっかけで、行動を共にする事になったと付け加えた。
それを聞いたラビアローナはそれまでで一番大きな反応を示した。
『そうなんだ。って言う事は、この娘達の事もあなたが助けたって言う事なのね』
つい先程まで感じられた少しトゲトゲした感覚もきれいになくなり、雰囲気もガラッと変わっている。
「ま、まあ…ね」
その変化に少し戸惑ってしまった所為で、ややおざなりの相槌となってしまったユウに、ラビアローナはわざわざその正面まで回り込んできてから言った。
『…わたったわ。信じてあげる。確かにあなたからは警戒するべき匂いの様なモノは、全く感じ取れないものね。それに、今ここにはバールリッツもいるから、万が一の事があっても、守ってもらえるはずだし…。ね、そうよね、バールリッツ』
そして、最後はバールリッツに振った。
バールリッツはすぐにそれに反応した。
『もちろんだよ。仮に、ユウや、俺達が大好きなアーダが裏切って襲って来たとしても、俺はラビアローナを守る事を優先させる。たとえその所為で、ユウやアーダを殺さなければならなくなったとしても、俺はラビアローナを守ると誓う』
その言葉を聞いたラビアローナは満足そうに頷くと、ユウの方へと視線を戻してから言った。
『バールリッツのその言葉を信じて、私も納得する事にします』
「いや、そもそも俺達はおたくらに危害を加えるつもりなんて、全くないから」
ユウとしてはそれだけは言わずにいられなかった。
誤解され、殺されたのではたまらない。
ラビアローナはそんなユウを見て、小さく頷いた。
『わかってる…けど、なんていうか…、確証といえるようなものが欲しかったのよ』
そして、少し照れた様子でバールリッツに目配せしてみせる。
そのバールリッツはというと、なんだか妙に胸を張っていて、随分と威張っている様に見える。
恐らくはユウに対するアピールなのだろう。
ラビアローナに頼られている事を自慢したいのだ。
ユウは、何気ない動作を装ってそんなバールリッツから視線を外した。
そして、これでこのミッションは終了したと判断し、早々にこの場を去ることに決めた。
「でもまあ、これでバールリッツの困り事は解決したって言う事でいい訳だよね。…だったら、俺達はすぐに発つ事にするよ。その方がラビアローナもより安心できるだろうし、それに、解決したのなら、北に向かって発とうかと思うんだ。北からも声が聞こえていたからね。きっと誰かが助けを求めていると思うんだ」
その声は初めて聞こえてからはもうかなりの時が経ってしまったが、その後も事ある毎に何度も聞こえて来ている。
という事は、その声の主は今、即刻命にかかわるような状態ではないのかもしれないのだが、逆にそんな風に長い間ずっと助けを求めているという事は、それだけ重大な事に巻き込まれているような気もするので、その声の主を探す事は止めたくないし、止めてはいけない気がして仕方がない。
しかし、そう思って言った言葉にラビアローナは微妙な反応を返してきた。
『え?』
何か言いたげな視線でユウの事を見下ろしている。
ユウはそれを、助けを求める新たな声が聞こえたのかを問われている、と受け取った。
「いや、今聞こえた訳じゃあないんだけど、ここへ来る前にも何度か北の方から声が聞こえた事があるんだよ。だから、とりあえず北に行ってみようと思ってね。そうすればもっとはっきりその声が聞こえるようになるかもしれないからね」
それを聞いたラビアローナはバールリッツと目を見合わせ、ふたりでしばらく見つめ合った。
その様子から、どうやら戸惑っているようだとわかる。
「どうかしたの?」
ユウが聞くと、その問いにはラビアローナではなく、バールリッツが答えて言った。
『ユウ、北に行くのなら湖の西岸を回った方がいい。人だけで東岸を北上するのは無謀だ』
「どういう事?」
『この先は毒沼が迷路のように張り巡らされているんだ。毒に弱いお前達が、超えて行ける場所のようには到底思えない』
つまり、この場所から直接北へと向かうのは止めた方がいいと言っているのだ。
思っても見なかった現実に、頭の中が纏まらなくなる。
ユウは思わず毒沼上空の淀んだ空を仰いだ。
その後ろでは、話の聞こえていないはずの三人も、困った様な微妙な表情で、お互いに目を見合わせていた。




