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ユニコーンの住処

バールリッツの言う住処は三方を崖で囲まれた森の中に造られていた。

その入り口に当たる場所に岩などを配置し、簡単には中が見えないようになっている。

人の背丈の三倍ほどもあるその岩を、軽く飛び越えるようにして中に入ると、そこには外からは想像がつかない程、美しい風景が広がっていた。


まず目に入って来たのはその空間の半分以上を占める草地だ。

その横には小さな森も有り、端には湧水も湧いている。

確かに大方の事はこの区域の中から出ないでも出来そうにみえる。


バールリッツはその草地を奥まで進み、一番奥に一本だけ生えている樹の脇まで来て、そこでユウ達の事を降ろした。

樹の脇には小さなくぼみがあり、そこに草が敷かれていて、その周囲を小枝などで囲んでいる。

恐らくここが彼等の寝床なのだろう。彼等がふたりで作ったのだ。


バールリッツは四人を降ろすと、辺りを見回しながら言った。

『ここが俺達の住処だ。入口の岩を越えなくても、大概の事は事足りるように造ってある。もちろんラビアローナだってあの岩を超えて向こう側へ行く事は出来る。だから、彼女も外へ出る事くらいは有ると思うのだが、それにしても、もう結構長い間、ここへ戻って来た形跡がない。それで心配してあちこち探しまわっていたという訳なんだ』


バールリッツのするようにユウも辺りを見回してみた。

だが、もうだいぶ日が傾いてきている所為で、暗くてよく見えない場所がたくさんある。

結局、調査は明日からにする事にして、バールリッツが何処からかとってきた獣の肉を焼いて夕食にし、この日は早めに休むこととなった。


翌朝、ユウが目を覚ますと、アーダはすでに起きていて、バールリッツを後ろに従え住処の中を散歩していた。

ユウが彼等の姿を見つけたのは、実はバールリッツの方が先だった。

木々の手前を歩いているバールリッツを見つけたら、バールリッツの鼻先にアーダの姿があったという訳だ。


そのまま少し黙って見ていると、バールリッツは、時折アーダの体を大きな舌で舐め上げたりしている。

アーダはそれを鬱陶しそうに手で押し返しながらも、ある程度好きにさせているように見える。

夜のうちに、ルティナから説明を受けた所為も有るのだろうが、ふたりはいつの間にか随分と親しくなったようだった。


とはいえ、アーダにやたらとちょっかいを出しているバールリッツをいつまでも放っておく訳にもいかない。

ユウは二人のいる所まで駆け寄ると、アーダの方に声をかけた。

「アーダ、大丈夫か?」


アーダはユウが近づいて来るのに気付き、微かに笑みを見せたものの、すぐに真顔に戻して答えてくる。

「だ、大丈夫だ」


しかし、アーダがそう言っている間にもバールリッツの大きな舌はアーダの身体を舐め上げている。

「あーもうっ、鬱陶しい」


その横顔をアーダは力いっぱい押し返す。

が、バールリッツはそんな風にされてもなお嬉しそうにしている。

「バールリッツ、お前、ラビアローナの事を探しているんじゃないのかよ。今のお前の姿をラビアローナが見たらどう思うんだろうな」


ユウとしてはバールリッツの行為を止めさせるために、少し意地悪を言ったつもりでいたのだが、バールリッツは全く堪えていないようで、それどころか、平然と言い返してくる。

『もし今ここにラビアローナがいれば、きっとおれと同じ事をするはずだぞ。彼女と俺の好みは一緒だからな』


その答えはユウの予想の範囲外のものだったのだが、何とか持ち直して言い返す。

「…にしても、今はラビアローナを探す事に集中しないといけないんじゃないか? アーダにちょっかいを出している場合じゃないだろう?」


すると、その言葉にはアーダが反応した。

「あたしの事なら心配いらないぞ。ちょっと鬱陶しいけど大丈夫だ。こいつも手加減してくれているみたいだし、スラムにいた時の事を思えば可愛いものだからな。それより、妙なものを見つけたんだ。ちょっと来てくれないか?」


そしてユウの手を引き、ずんずん歩いて行く。

アーダの言葉が気になったのか、バールリッツももうちょっかいを出すのをやめてついて来る。

アーダは、バールリッツが最初に超えた大きな岩の壁の手前までユウの事を連れて来ると、その隅にある小さな水溜りを指差した。


「これなんだ」

それはよく見ると、いや良く見なくても明らかに普通の水溜りではなかった。

水は不自然なほど黒く濁っていて、近づくと卵の腐ったような嫌な臭いがする。


「うっ」

無警戒のまま近づいてしまったユウは、その悪臭に顔をそむけた。

それを見たバールリッツは頭を下げ、その長い角の先を軽くその黒い水溜りに触れさせた。


「あっ」

アーダが小さく声を上げる。


見ると、たった今まで黒く濁っていた水が綺麗に透き通った水に変わっている。

ついさっき嗅いだばかりの嫌な臭いももうしない。


『我々ユニコーンに毒は無意味だ。簡単に浄化することができるからな』

バールリッツはそう言って、その行為を自慢するかのように胸を張っている。

アーダの前で格好を付けたつもりなのかもしれない。


だが、当のアーダは今までにない鋭い目つきでバールリッツの事を睨みつけていた。

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