ユニコーンの好物
ユウとフィノに宥められ、何とか落ち着いたユニコーンは、彼が今困っている事について教えてくれた。
ユニコーンの名前はバールリッツ。彼は、友人に呼ばれしばらくこの地を離れている間に行方不明になってしまったという妻のラビアローナを探しているのだそうだ。
バールリッツはラビアローナを愛する妻だと紹介し、「彼女がいない生活など考えられない」とまで言っているのだが、つい先程のフィノに対する行動を見た後だと、それがどの程度本気のものなのかと、疑問に思う気持ちも湧いてこないではない。
だが、良く考えれば、そんないい加減な思いから出た言葉がユウに届くわけがない。
そう思って納得しようとしている所に、遅れていたルティナとアーダが追いついて来た。
その途端、バールリッツの態度が豹変する。
まだ話の途中だったにもかかわらず、話し相手のユウの事はそっちのけにしてルティナとアーダにすり寄って行く。
特にアーダに対しては執拗に絡んでいき、その小さな体をかなりの高さまで放り上げたりしている。
その所為でアーダは解放された後もしばらくはふらふらになってしまい、すっかりおとなしくなってしまったくらいだ。
敵意がない、というよりは逆に好意を持ってくれている事はわかるのだが、どう考えてもやりすぎだ。
ユウは言わずにはいられなかった。
「おい、バールリッツ。お前、本気でラビアローナの事を探しているのか? そうやって他の女性と遊んでいるのを見ていると、さっきのお前の話を疑いたくなってくるぞ」
ところが、ユウのその言葉を聞きつけたのであろうルティナは、納得したという様に大きく頷き呟いた。
「なるほど…」
そして、ユウがその声に反応し、疑問の表情を浮かべている事に気がつくと、それに煽られるようにその理由を話してくれる。
「巨人の里の書庫にあった本で読んだのですが、ユニコーンは、その…、女の子が好きみたいなんです。ですから、その昔はその習性を利用して、娘をエサにして捕まえようと企てた者もいたと、記されていました。それはうまくいかなかったようですけど、それほど女の子の事が好きみたいなんです」
「そう言う事…」
確かに、ルティナの言っている事が本当なら、バールリッツの行動にも説明が付く。
しかし、ふと見るとルティナはまだ何か言いたげな表情をしている。
「どうしたの?」
「…いえ、…その…、書物によると、ユニコーンが好きなのはただ女性なら誰でもいいという訳では無くて、その…、ユニコーンは…処女…が好きなのだそうです」
ルティナはそれだけ言うと、手で顔を覆う様にしてユウに背中を向けてしまった。かなり恥ずかしく思っているらしい。
バールリッツが悪びれずに付け加える。
『それはまあそうなんだが、そんな中でも俺は特に綺麗な娘が好きなんだ。その点、この三人は文句がない。特にその紫色の肌の小柄な娘。この娘は最高にいい女だ。こんな綺麗な娘を三人も侍らせているお前が羨ましい』
つまり、ただ美しいというだけではなく、三人とも処女であったことがバールリッツが彼女たちに擦り寄って行った理由だったという事だ。
アーダの事を特に気に入っているように見えるのは、バールリッツにも好みはあるという事だろうか。
しかし、それよりもユウには気に掛る事があった。
『お前、俺達の言葉がわかるのか?』
バールリッツはルティナの言葉を引き継ぐようにして話してきた。
そんな事が出来るのはルティナの言葉がわかるから、としか思えない。
バールリッツはユウの事を見下ろす様にしてそれに答えた。
『まあな、と言ってもしゃべる事は出来ないから聞くだけだけどな』
という事は、やはりバールリッツはユウ達の話している事がわかるという事だ。
そのいかにも大した事ではないという態度は、もしかしたらユニコーンからしてみれば当たり前の事なのかもしれない。
ユウの隣では、ルティナとフィノがアーダの身体を抱きしめている。
二人とも、ユウがユニコーンと念を使って会話している事を察し、黙ってくれているようだ。
ユウは、話を元に戻すことにした。
『それはそうと、お前は本当に奥さんの事を探しているのか? やたらと他の女にちょっかいを出しているように見えるんだが…』
ちょうどそのタイミングでルティナとアーダが着いたという事もあるのだろうが、ラビアローザの話を聞いている最中に二人にちょっかいを出すという事は、ラビアローザの事よりも二人と遊ぶ事の方が優先するとも受け取れなくもない。
だが、バールリッツはそれをきっぱり否定した。
『馬鹿な事を言うな。俺達は皆、人間の生娘の事が好きだが、さすがに妻として迎えられる訳ではないし、俺にとって一番愛おしい存在は、ラビアローナ以外にはいない。そ、そうだ、早く見つけてあげなければ…。もしかしたら何処かで俺の助けを待っているかもしれない』
そして話している途中で思い出したかのようにラビアローナの事を探し始める。
ユウは慌ててそれを引き止めた。
『待ってくれ。俺達はお前の声を聞いてここに来たんだ。だから、きっと何かお前の助けになる事ができるはずだと思うんだ。一緒に探させてはくれないか』
ユニコーンから見ればユウを始め三人の娘達もあらゆる意味で非力な存在にすぎない。
だが、バールリッツはユウのその言葉をバカにはせず、真剣に耳を傾けてくれている。
バールリッツは大きな顔をゆっくりとユウに近づけ、探る様にその目を見つめた後、少しだけ顔を遠ざけてから言ってきた。
『ありがとう。よろしく頼む』
その顔はユウには微笑んでいるように見てとれた。




