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貧民街の孤児

フィノはすぐに戻ってきた。


といっても手ぶらで戻ってきたわけではない。

その腕には、みすぼらしい布で包まれた大きな塊を抱えている。

フィノはその塊に衝撃を与えないよう慎重に扱いつつ、瓦礫の山を飛び降りてきて、ユウの前にそのぼろ布にくるまれた塊をそっと降ろした。


「?」

その意図がわからず首を捻るユウ。


その様子を見たフィノは驚いたという表情になった。

「違うの?」


その一言で、フィノの意図に気づいたユウは改めてそのぼろの塊に神経を集中させた。

そこからは微かに、だが確かに声の主の気配がする。


『……な、なんだ…、なんなんだ…』

小さな声だが、はっきりと声も聞き取れた。


「ありがとうフィノ。正解みたいだ。でも、良くわかったね」

ユウが改めて見てみると、その塊は意外に大きい事に気づいた。

フィノがあまりに軽々と持ってきた為、初めはそうは思わなかったが、猫にはそこまで大きなものはいないだろうし、犬だとしても余程の大型犬でなければその大きさにはならない。

尤も、大量のぼろ布に包まれていると考えれば、小さな生き物である可能性もあるのだが…。


「へへへ、あの瓦礫の山の上に行った時、この子が動いたのが見えたんだよね。だから、この子が声の主なんじゃないかと思って…」

ユウの助けになった事を喜びつつ、フィノはユウの前に降ろしたぼろ布の塊をこの子と呼んだ。その様子から、フィノはこの塊が何だかわかっている様だとわかる。


「この子?」

「うん。ほら、立って」

ユウが聞くと、フィノはぼろ布の塊の中に腕を突っ込み、その中から枯れ木の枝のようなものを掴んでグッと引き上げた。


すると、そこからぼろ布の塊は解け、ぼろ布の間から手と足がぬっと伸び、下げていた頭も控えめにだが上げられて、ユウの肩の高さほどの背丈の人の形となった。

フィノの握った枯れ木の枝の様なものは腕だったようで、フィノに腕を引っ張られ、無理やり立たされたような格好だ。


「ひっ」

その子の顔を見たルティナは思わず上体をのけぞらせた。

渋々あげたその顔は、痣だらけで、頬などは腫れて紫色に膨れ上がっていたのだ。


「どうしたんだよ、それ」

驚いたユウが思わず聞くと、その子はぼさぼさの髪の毛の間から覗く、切れ味鋭いナイフのような厳しい目でユウの事を睨みつけてきた。


「ふん、何言ってんだ。あんたらもどうせあたしで憂さ晴らし、するつもりなんだろ」

「憂さ晴らし?」

ユウが少し気圧され気味に聞き返すと、その子はユウの事を鋭くにらみつけたまま、吐き捨てる様に言ってきた。


「すっとぼけやがって。なんだよ、あたしに親がいないからって…、肌の色が他人とちょっと違うからって…、ゴミ扱いしやがって。覚えてろよ、あたしにこんな事をした事、後悔させてやるからな」

そしてユウに飛びかかろうとした様なのだが、フィノに腕を掴まれていたのでは動ける訳がなかった。

足をじたばたさせるくらいが精いっぱいだ。


「何を勘違いしているのかわからないけど、警戒しないでいいよ。俺達は君の事を助けに来たんだから」

ユウが務めて優しく諭すのだが、なかなか信じてもらえない。


「ふざけるな。この前の奴みたいに、そんな事言って油断させてからぶんなぐるつもりなんだろう。騙されるもんか」

「そんな事されたのか?」

「うるさい、…?」


まだ何か言って来ようとしているその子を、ユウはいきなり抱きしめた。

いきなり抱きしめられたその子は、ユウの腕の中でしばしの間バタバタと動こうと試みていたが、ユウがギュッと抱きしめたまま那なさないでいると、しだいに抵抗するのを諦め、大人しくなってきた。

それどころか、徐々にユウにその身を預け始めている。


近くで見るその子の肌はボロボロだった。

恐らくは殴られたり蹴られたりでもしたのだろう、顔だけに限らずあちこちに腫れが有り、また、その肌には血が流れた痕を伴う傷なども見られるようなのだが、それだけではなく、肌そのものが纏っている衣服同様、ボロボロの状態だったのだ。


加えて、色も全体的に薄紫色をしているように見える。

殴られた痕が紫色に腫れあがっているのではなく、肌全体がややくすんだ紫色なのだ。

そんな肌の色の人はこの世界でもこの子以外に見た事がない。

もしかしたら、それもこの子がいじめられる原因の一つとなっているのかもしれない。


ユウは、その子がだいぶ落ち着いてきた事を感じながら、そのままの状態でしばらく待った。

フィノがユウの顔を覗き込むようにして言ってくる。

「落ち着いたみたいね。さすがユウだわ」

確かに、ユウが見ても先程までの尖った気配は収まってきているように思える。


「この後どうするつもりなの?」

続けてフィノが聞いて来る。

ユウは空いている片方の手でフィノの頭を撫でてやった。

「少なくともここに置いて行く訳にはいかないだろう?」

「そうだけど…。一緒に街まで戻るのは難しいかもよ」


何処かに宿をとるにしても、そこへ行くまでに繁華街を通る事は避けられない。

この子を連れて歩くとなると、結果的にルティナまで目立ってしまう事になる。


ユウが考えを巡らせていると、遠くで慌ただしい動きが感じられるようになってきた。

それに気づいたルティナが言ってくる。

「そろそろこの場所から移動した方がいいのではないでしょうか。もしかしたら人が集まってくるかもしれません」


ユウはすぐに決断した。

「わかった。とりあえず、街を出てしまおう」


ユウが立ち上がると、その子もユウに倣って立ち上がった。

ユウはフィノとルティナに付いて来るように言ってから、その子の事を脇に抱える様にして、元来た道を街道まで戻る事にした。

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