ユウの提案
二日後、ユウはリスティの北街区を北へ向かって歩いていた。
もちろん、フィノとルティナも一緒だ。
「でも、久しぶりよね。ユウが声を聞いたのって」
「巨人の所へ行った時以来ではないでしょうか。と言う事は、六日ぶりになりますかね」
フィノとルティナが話しているのはユウが明け方に聞いた声の話だ。
彼女達が話している通り、ユウは今朝、久々に声を聞いた。
といっても、実は声をはっきり聞き取る事が出来た訳ではない。
ただ、北の方角から声と思しき何かが聞こえたような気がしたのだ。
しかし、方角がわかると言う事は恐らくはそう言う事なのだろうと言う事で、その方向、すなわち北へ向かって歩いている。
近づけばもっとはっきりわかる場合もあるからだ。
ちなみに声はこの世界に来るきっかけとなったあの声とはちがっている。
声の質や雰囲気があの声とは違うものだったのだ。
リスティの北街区の特に北側に当たる場所には、貧しい人が多く住んでいる。
その為、ルティナや、ルティナが優勝報酬とされた闘技会の事なども知らない者も多い。
だからと言って、ユウが並んで歩いていては誰かに見つかった時に上手くないので、ユウだけ一歩先を歩き、フィノとルティナは並んで歩くようにしている。
その所為もあり、二人は仲良く話しながらユウの後を付いて来ていた。
「今度は誰に会えるのかな。なんだかドキドキしてくるわね」
「そんな事を言ってはいけませんよ、フィノ。声の主は困っている人のはずなのですから」
この辺りの街の雰囲気もおかげも有り、二人はすっかり普通に話している。
ユウはふと、何だか自分一人だけ取り残されたような気になってしまい、考えてみれば声に集中するためにはむしろ好都合だったと気づき、すぐに声の方へと意識を戻した。
二人の話は続いている。
「大丈夫よ。ユウと会えばきっとみんな解決するもの。ルティだってそう思うでしょ」
「そうですね。解決…というか、それ以上かもしれません」
ルティナはそんな風に言いながら顔を上げ、遠くの空を見上げた。
二日前のあの夜、フィノとルティナの所へ戻ってきたユウは、涼風達に教えてもらった石炭の採掘権を、バーランド家の名義で昼間別れたばかりの商人ビスクに売る事を提案した。
バーランド家が炭鉱を持ったとなると、また何か因縁を付けられる可能性があると言う事で、権利ごと売ってしまおうと考えたのだ。
採掘権がバーランド家の物ではなく、一般の商人の物であるなら、他の商人の例を見ても、王もそこまでは手を出さないと考えられる。その為、ビスクに一枚噛んでもらおうと考えたのだ。
バーランド家の人々にその事についての異論が出る訳もなく、その提案の通りに進めることになったのだが、しかし、ビスクはその日のうちに街を出ると言う話を聞いていたので、急いで探さなければならない事態となった。
とはいえ良く考えれば、ビスクもユウが助けた声の主の一人であったため、その時点でまだ街を出ていなかったビスクとは簡単に連絡を付けることができた。
ユウが念声を使ったからだ。
念声でのやり取りは初めてだったビスクは、最初少し戸惑っていたようだったのだが、助けられた時の事を思い出し、納得して受け入れてくれた。
そしてビスクは、その後向かう予定だった商談を一つ棒に振って残ってくれ、商談はすぐにまとまった。
その翌日、つまりは昨日、ユウは早速その場所をビスクに教えに行き、今日、ビスクは既にそれを売る算段を進めているはずだ。
金銭の受け渡しについてはビスクと相談の上、その月に採れた分に応じてその二割をバーランド家の取り分とする事に決めた。
このほかに王家に払う税金分の三割を差し引けばビスクの取り分は五割となり、そこから人件費等様々な経費を差し引けば純粋な利益はそう大きくはならないものの、それでも充分儲けになると言う。
しかもそのやり方なら、支払上はビスクが炭鉱を一度に買い上げる訳ではないので、ビスクのリスクも小さくなるし、バーランド家の得る収入も各月に入って来る事になる為、双方にとって都合がいい、と言う訳だ。
これでバーランド家には少なくともある程度の収入が入って来る事になる。
それで生活が一気に改善する訳ではないだろうが、それでもだいぶ楽になるだろう。
フィルスはさかんに恐縮していた。
「でも、ルティはちょっと帰りたくなったりしたんじゃない?」
ルティナがバーランド家に思いを馳せている事に気づいたフィノは、少しだけ意地悪な笑みを浮かべ、ルティナの顔を窺いつつそんな風に聞いてきた。
この二日間、ユウもフィノもルティナと共にバーランド家に泊まらせてもらっている。
屋敷に入るまではルティナはユウとフィノに付き従う召使い然として振る舞っているが、屋敷の中では普通に生活で来ている為、この二日間でラインラとも十分に話をすることができたし、アテルやラビアとも楽しい時を過ごすことができた。
その為、そういう思いが湧いて来てもおかしく無い。
しかし、ルティナはすぐにそれを否定した。
「それは有りません。むしろ、余計にユウ様の側を離れられないと思う様になりました」
「ふふふ。ルティがそう言うのはわかっていたわ。だけど、ちょっと聞いてみたかったの。確認みたいなものよ」
フィノの目はルティナが答える前から笑っている。
それに気づいたルティナは恥ずかしそうに目を逸らした。
「もう、フィノったら」
そして二人は大きな声で笑い出し、周りの目が集まるのを見て慌てて両手で口を押えた。




