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フィルスの事情

ユウは助けを求める者が声をあげれば、その声を聞くことができる。

しかし、声をあげていない人の声は、当然ながら聞こえない。


だが、相手が明らかに困っていて、助けを求めているのなら、出来るだけ助けてあげたいとも思っている。

とはいえ、いくら相手が困っていたのだとしても、他人の助けは求めていない場合も考えられる。そう言う場合に動く事は、下手をしたら親切の押し売りになりかねない。

ユウはそれを確かめたいと思っていた。

その場にルティナはいない方がいい。そう思った為、ユウはフィルスと二人きりになりたかったのだ。


フィルスは少しの間何か迷っている様だったが、やがてゆっくり話し始めた。

「本当は、あなたの様なバーランド家とは関係のない方にお話しする事ではないのですが、今さら隠し立てする様な事は何もありませんし、ルティナがお世話になっている事を考えれば、知っておいてもらってもいいかもしれませんね…」

フィルスはそこまで言って一旦話を区切り、そして一つ大きなため息をついた。


そうやって気持ちの整理をつけてから、話を続ける。

「ユウさんも恐らくお察しの通り、バーランド家には今、全く収入はありません。ラプス王が即位して以降、領地も領民も全て召し上げられてしまいました。それでいて、出るモノは出続ける。王主催の晩さん会等には、貴族として出席しなければなりませんからね。それでも今までは、以前持っていた財産を売る事で何とかやって来れたのですが、正直、それもそろそろ限界かもしれません」

フィルスは視線を落とし、両の拳をグッと握りしめている。

バーランド家がそんな状態に陥っている事が辛いのだ。


「そんなに大変なら、貴族なんてやめてしまえばいいのではないですか?こんなに大きなお屋敷があるのですから、これを売って家族だけで小さな家に移り住めば、お金のやりくりに苦しむ事も無くなると思うのですが…」

ユウは思いついた事をそのまま口にした。


すると、フィルスは顔を上げ、ユウの目を見て言ってきた。

「それがそうはいかないのです。ユウさんが何処までご存じかはわかりませんが、この国では勝手に貴族を止める訳には行かないのです。そんな事をしたら領民たちがひどい目に合います」

その表情は真剣で、なかなか鬼気迫るものがある。


ユウにはフィルスが嘘をついている様には見えなかったが、だとすると一つ疑問が湧いてくる。それをそのままぶつけてみる事にする。

「でも、さっき、領民は召し上げられた、と言っていませんでしたか?」

領地を失ったのであれば、良くも悪くも元領民との関係は無くなってしまっているはずで、そうであるならバーランド家が貴族の地位を失っても関係ないのではないかと思ったのだ。


しかし、フィルスは、頭を横に振ってくる。

「私の領地が実質的に召し上げられてしまった事は事実です。ですが、名目上、バーランド侯爵領という名前は残っているのです。そして、その名前が無くなるという事は、その地が空域になるという事を意味します。そうなったら、もう早い者勝ちです。周囲の貴族でその地を奪い合い、バーランド侯爵領は戦場と化してしまうでしょう。だから、何としてもバーランド家は維持しなければならないのです」


「でも、その領地にも今は実質的な統治者がいるんでしょう? その人は何もしてくれないのですか?」

「今、バーランド侯爵領は事実上王の直轄地になっています。ですが、そこへ派遣される官僚は王都では役に立たない様な者ばかりです。彼等にとっては着服や横領は当たり前、私腹を肥やす事だけしか考えていないのですからね。しかし、ラプス王はそれを見て見ぬふりをして放っておいている。王都の周りではそんな事は無いようなので、王都以外の領地経営にはあまり興味がないのかもしれません。ですが、そんな理由も有って、直轄地とはいえ少なくとも王家に入る実質の収入としては、貴族に管理させ間接的に税を取った場合とあまり変わらないようなのです。なので、王にとってみれば誰か他の貴族がその地を奪い、治める事になっても構わないと思っているのだと思います。しかも、最近のラプス王は、わざとそういったイベントを起こしたがっている節がある。ルティナの件もそうなのですが、そうやって他人を争わせて面白がっている様なのです」

フィルスは話しているうちに次第に興奮してきたようだった。


「何だかひどい王様だな。他の人に代わってもらう…、なんて、そう簡単には行かないか…」

ユウはそんな無責任な提案をしてしまいそうになり、途中まで話したところで、それに気づいて言葉を濁した。

例えどんな国王でも、簡単に王を変える事など出来ない事は、さすがにユウにもわかっている。


フィルスはそんなユウの反応など気にせず、続けてくる。

「カプア王の治世では、貴族が領地を失う様な事は全くなかったので、そんなしきたりも形骸化したものと思っていたですが、ラプス王に代わって以降、既に三回、そう言う事がありました。その領地の荒れようと言ったらひどいモノです」

それを見ているからこそバーランド家をなくしてはいけないと思っているのだ。


バーランド家の現状はここまでの話で大体分かったと言っていいだろう。

ユウは本題に入る事にした。

「なるほどね…。ところで、この街の郊外に森がありますよね。あの先の草原って誰の領地になるのですか?」


フィルスはユウの話が突然変わった事に戸惑いながらも、丁寧に答えてくれる。

「ああ、街の東の草原の事ですね。あの辺りも含め、この街の近くは全て王の直轄地です。ですが、あの辺りは人がほとんど住んでいませんから、実質管理されているのは、草原に入って少し行った所位までですね。その先は、実質、何も管理されていないと思います」


「ならあそこで獲れた鉱物は誰のモノになるの?」

「鉱物、ですか?」

「はい」

ユウがあまりはっきり肯定するので、フィルスは少し戸惑った。


しかし、すぐに平静に戻り、答えてくれる。

「そうですね。農地や家など誰かの所有物になっている場所以外であれば、最初に見つけた者のモノになりますね。ただし、鉱物に限らず、そこで得たものを売って利益を得た場合、その利益の三割は領主、草原でしたら王家に税として納めなければなりませんが…」


ユウは少し考えを巡らせた。

税を収めなければならないのは仕方がないが、バーランド家が直接あの場所を管理するのは、少なくとも今の状況では難しいだろう。

いくらこれは自分の物だと言い張ったところで、位置だけ知られて見張り小屋さえ作れないのでは、泥棒すら防げない。

仮にそれはうまくやったとしても、王に知れれば、それをネタにまた何か難題を押し付けてくる可能性もある。


「うーん。まあ…、いいか」

しかし、このまま何もしないでいるよりは、やれる事はやった方がいい。


「フィルスさん、一つ提案があるんだけど…」

ユウはユウなりにまとめた考えを、フィルスに披露することにした。

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