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ルティナの意志

ルティナの隣に立ったユウはアテルではなくフィルスに視線を合わせた。

「俺としては、基本的にルティナの事はルティナの意志に任せるつもりですけど、悪いけど、少なくとも今はバーランド家に返すつもりはありません。色々と危ない事も有るみたいだし、ルティナとも約束してしまいましたからね」


その言葉に反応しかかったアテルは、フィルスの鋭い視線に気圧され、唇を噛んだ。

「くっ」


「ユウ様…」

ルティナはユウの言葉を注意深く聞いている。


そんなルティナに一瞬目をやってから、ユウは言葉を続けた。

「ルティナの事は拘束するつもりも、もちろん奴隷として扱うつもりもありません。けれど、しばらくは俺と一緒に来てもらって、探しモノを手伝ってもらおうと思っています」


「しばらくではありません。ずっとです」

ルティナはユウが言葉を切った瞬間を狙って、すぐに訂正した。


「姉さん…」

そんなルティナの事をアテルが微妙な表情で見つめている。

ルティナの気持ちをどういう風に理解していいかわからないでいるのだ。


それに気づいたルティナが諭すような口調でアテルに言う。

「私は衆目の面前で、ユウ様と共にある事を神に誓ったの。もしそれが例え無理やり言わされたものだとしても、誓った以上、その誓いを破る事は出来ないのは、アテル、あなたにもわかるでしょう?」


「あんなのは姉さんの本音じゃない。誓いは無効だ」

そう言い返すアテルの声には、先程までの勢いはない。

神と言う言葉に怯んでいる様にみえる。


「そんな言い訳が通る訳がないでしょう? あれだけの人の目の前で宣言したんだもの。でも、大丈夫。あれが無かったらユウ様に置いて行かれていたかもしれなかったと思うと、姉さん、今はあの場で神に誓わされた事、逆に感謝しているくらいなの」

ルティナはそう言ってユウを振り返って見つめた。


その横からフィノが口を挟んでくる。

「そんな事ないわよ、ルティ。仮に神に誓っていなかったって、ルティが居たいって言っているのに、ユウは追い出したりしないもの、ねっ、ユウ」


ユウはこの二人の圧力を二人と目を合わせないようにして切り抜けようとする。

「う、うん。そ、そうだね。どこへ行くのか決まっている訳じゃないから危険が無い訳じゃないし、何より俺の勝手な思いで動いている訳だから、申し訳なくは思うんだけどね」


しかしフィノは念を押す様にさらに言葉を重ねてくる。

「でも、ユウは私達の事を置いて行ったりしない。だから、私とルティはいつまでもユウと一緒」

その発言の中には自分だけの事ではなく、ルティナの事も含んでいる。


「なるほど、そう言う事ですか…」

しばらく黙っていたフィルスが、ここで小さく頷いた。

すぐ目の前にいたアテルがそれを聞きつけ問いかける。

「え、どういうこと?」


しかしフィルスはそれに答える事も無く、二人から目を逸らす為にたまたまフィルスの方へと顔を向けていたユウと視線を合わせた。

「ユウさん、私が言える筋合いではないのですが、この娘も望んであなたの元にいるようですし、改めて、ルティナの事、よろしくお願いします」

その声は真剣で、ふざけた響きは全くない。


「父さん…」

「どのみちこの娘が何といおうと、この娘をこの家に戻す事は出来ないのです。バーランド家を潰してしまっては、今は此処にいないこいつの兄や姉、いや、それだけならまだいいのですが、彼等の率いている部隊の同僚や部下、嫁ぎ先の家族にも迷惑をかけかねない。実際、そういう圧力も掛けられているのです」


フィルスの拳は血が滲むほどに握りしめられている。

ルティナの事を差しださなければならない程の圧力をかけられた位なのだから、もしかしたら他にも何か言われているのかもしれない。

もっとも、だからと言って売られたのでは、たまったモノではないのだが…。


「………」

何も言えずに黙っているアテルを見て、妹のラビアが声をかける。

「アテル兄さん、大丈夫よ。ルティナ姉さん、全然つらそうじゃないもの。むしろ、この家にいた時より楽しそう」


ラビアはルティナの腕に抱かれている間に、その事に気づいていた。

ルティナの身体からは、悲しい波長は伝わってこなかったからだ。


「ありがとう、ラビア。そう、私は大丈夫よ。それよりも…、あなた達の方は大丈夫なの?」

ルティナはラビアがわかってくれた事を嬉しく感じ、と同時に、逆にラビアの事が心配になってきたので聞いた。


だがその問いは、フィルスの堅い声に阻まれた。

「こちらの事はお前は心配しなくていい。お前はもうバーランド家とは関係ないんだ。自分の事だけ考えていればいい」


「それは無いんじゃない。ルティだって…」

その冷たい言い方に思わずフィノが食いついた。


しかし、ルティナはそれを遮って、フィルスに対して詫びてくる。

「いいの、フィノ。……。ごめんなさい、余計な事を言ってしまって…」


ルティナはフィルスが自分を巻き込まないようにしている事を感じ取っていた。

確かに、ルティナの力では何もできないし、それどころか下手に動けばかえって事態を悪化させかねない。

どのみち父に任すより他方法はないのだ。


「フィルスさん、少し二人で話せませんか?」

突然、ユウがフィルスに申し出た。


「ユウ?」

「ユウ様?」

何を言い出すのかと訝しむフィノとルティナにユウが指示を出す。

「フィノとルティナは此処で待ってて。っていうか、アテルやラビアの話し相手になってあげててよ。ルティナには積もる話もあるだろうし、この後またこの街を離れる事になるかもしれないから、今のうちに、ね?」


その表情からフィノは、ユウが何かを企んでいる事を感じ取っていた。

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