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バーランド家のお屋敷

門を入ると、そこは荒れ果てた庭だった。


広い敷地にたくさんの植物が植えられているのだが、手入れがされていないのだろう、まるでちょっとしたジャングルの様になっている。

さすがに、普段人が通っているであろう門から玄関に至る道はそこまでひどい状態ではないが、それでも一歩外れると雑草がそこかしこに茂っている。

門を入るまでそれに気が付かなかったのは、壁やついたてを使って上手い事外から見えないようにしているからだ。


ラインラが申し訳なさそうに言ってくる。

「お恥ずかしい所をお見せしてしまって、すみません」

「いえいえ、お気になさらずに」


ユウは平然を装い、周りをあまりじろじろと見ないよう心がけた。

門の外からは立派なお屋敷に見えた為、少し驚いたのは事実だが、ルティナに聞いていた話から察すれば、このくらいの事になっていてもおかしくは無い。


恐らくは庭の手入れをする者がいないのだろう。

そうなると広い庭がかえって邪魔になる。

少し手入れをしたくらいでは全然追いつかない広さなのだ。


「私がいた時よりもさらにひどい事になっています」

ユウの後ろでルティナが呟く声が聞こえてくる。

ルティナがこの館を出てまだそんなに時は経っていない。

それなのにひどくなっていると言う事は、あの後もこの家の状況は決して好転していないと言う事なのだろう。


敷地の中の、一般市民の感覚では充分長い距離を歩いて行くと館の玄関が見えてきた。

さすがにその辺りは小さな花が飾られていたりして小奇麗にしてあるのだが、館は不気味なほどに静かな事もあり、かえって恐ろしく感じられる。

人の気配が全く感じられない事がそう感じる要因になっているようだ。


ラインラはそんな玄関の大きく重厚な扉を全身の力を込めてゆっくり開き、ユウ達を館の中へと導いた。

そこはやはり人の気配のない大きな吹き抜けの広間だった。


さすがに館の中は庭の様に荒れてはいない。

綺麗な風景画が飾られ、正面の階段の入口には彫刻も立っている。

少なくとも見える範囲は綺麗に整えられている様だ。


「こちらへどうぞ」

ラインラは、正面の立派な階段には向かわずにユウ達を右手の扉の先へと案内した。

その先の廊下を少し進み、見事な飾り彫りのなされた二つ目の扉を入ると、そこはお客様を歓待する為の部屋のようだった。


革張りの立派な造りの椅子が二列に並び、その間に立派な彫刻の施されたテーブルが置かれていて、壁際には何だか良くわからない動物の彫刻が置かれている。

そして、その壁の上には、そこに飾られている事を誇るように、十数枚の人物画が飾られていた。

彼等は皆、肩にも胸にも宝石やら勲章やらを付けていて、誇らしげに微笑んでいる。

しかしユウにはなぜか泣いている様にしか見えなかった。


ラインラは冷えた空気のその部屋に入るとすぐに、それまで我慢ししていた涙をいっぱいにためた目で、ユウの目を見つめて来た。

すぐにラインラの言いたい事を察したユウが、ルティナを前へと押し出してやる。


それを待ち構えていたかのようにラインラはルティナに駆け寄った。

「ルティナ…」


「義母さん…」

直前で一度止まったルティナがラインラの胸へと飛び込んでいく。


ラインラは本当にルティナの事を心配していたのだろう。

実の我が子を見ているかのような優しい目でルティナの身体を抱きしめている。


だがその直後、部屋の中に大きな音が響き渡り、と同時にラインラはルティナから身体を離した。

見ると、フィノが申し訳なさそうに首をすくめている。

どうやら開いていた扉を閉めようとしたフィノが、その扉を勢いよく閉めすぎたようなのだ。


しかし、それを謝って来たのはラインラだった。

「すみません、その扉は私が閉めなければいけませんでした。実は、その扉は動きが硬くなってしまっていて、閉めるのに要領がいるのです」


そして、フィノに謝る事で少し落ち着いたらしいラインラはユウの方へと向き直った。

「あなたが、ルティナの…」

しかし、そこまで言った所でラインラは言葉を詰まらせた。


それを見たユウは説明してあげることにした。

「ラインラさん、確かに私はあの闘技会で優勝したフィノに代わってルティナの事を報酬として受け取りました。ですが、私はルティナの事を拘束するつもりはありません。枷は今外すと悪目立ちをしそうですし、そうするとご実家にも迷惑がかからないとも限らない様なので、外していませんが、少なくとも私と、ここにいるフィノはルティナの事を奴隷として扱おうとは思っていません」


それにルティナが付け加える。

「そうなの、お義母さん。ユウ様とフィノには、私、すごく良くしてもらっているの。感謝しても感謝しきれないくらい。だから、今は凄く幸せなの。だから、心配しないで。私、それだけは言っておきたかったの」


ラインラは初め半信半疑の様相で二人の話を聞いていたようだったが、やがて大きく頷いた。

「ここへ来るまでのこの方たちの行動を考えてみれば、ルティナ、あなたの言う事が嘘だとは思えません…、でも、何というか…、信じられません」


「私とルティは、ユウとずっと一緒にいる事を誓ったの。だから、ルティの事は私達に任せておいて」

「えっ、それはどういう…」

フィノのルティナに出した助け舟のつもりの言葉の意味を、ラインラが尋ねようとしたちょうどその時、誰かが扉を叩く重厚な音が部屋の中に響き渡った。


扉の外にはこの屋敷に来て初めての、人の気配が二つ感じとれた。

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