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狩りの成果

その日フィノは譲り受けた巨大な剣を駆使して十分な成果を上げ、上々の機嫌で戻ってきた。


「ユウ、見て! あの立派なワニ、ちょっと苦労したけどレダス達と協力してやっつけたんだ!」

フィノの指差すその先ではカージュがワニの尾を持ちその巨体を引きずっている。

つまり、巨人が引きずる程の大きさのワニだという事だ。とても普通の人間が相手を出来る代物ではない。

それをフィノはまるで猫が鼠を捕まえたくらいの軽い感覚で言っている。


カージュはワニを長老の家の前に放ってから、ユウの前までやって来て言った。

「お前、あの(むすめ)の男なんだってな。だったらせいぜい怒らせないよう注意した方がいい。あれは普通の人間では相手にならないはずだ。お前なんか一瞬でぺちゃんこだぞ」


「こら、カージュ! ユウの事を私がぺちゃんこにする訳ないじゃない! 変な事、言わないでよね!」

その後ろにいたレダスの肩の上から、フィノが身を乗り出すようにして叫んでいる。今にもカージュに飛び掛かりそうな勢いだ。


「はは、怖い怖い。とっとと退散しないと、俺がぺちゃんこにされてしまいそうだ」

カージュはそう言ってどこかへ消えていった。


ユウとルティナが今いるのは、長老の家のすぐ前の比較的小さな木の枝の上だ。

巨人には細すぎて登れない小さな木なのだが、ユウ達が枝の上に座るにはちょうどいい。

足をぶらぶらさせながら、ルティナとここでフィノの事を待っていたのだ。


レダスはルティナとは反対側のユウの隣にそっとフィノを降ろし、それからユウに謝ってきた。

「アイツもフィノの凄さに驚いただけで悪気はないんだ、許してやってくれ」


「いや、カージュの言う事も半分以上事実だし、怒ってないよ」

ユウがそう応じると、フィノが我慢できずに言ってくる。

「そんな事ないでしょ! 私は絶対ユウに酷い事なんてしないもの!」


「そんなに怒らなくてもわかってるって。カージュだって多分冗談で言っただけだよ」

ユウがフィノの背中を叩いて宥めると、フィノは少し矛を収めたようだったのだが、それでもまだ収まりきれないのか、拗ねた口調で言ってくる。

「それはどうだか。だってアイツ、チュラとべティールに振られた腹いせに私の事を苛めて面白がっている節があるんだもの」


「でもまあカージュもフィノの強さは認めたっていう事だと思うぞ。俺達と同等の活躍が出来る人間がいるなんて、俺も考えた事が無かったからな」

レダスがそんな風に褒めてくるという事は、フィノは彼等に認められる働きをしたという事なのだろう。フィノもレダスに褒められ、さすがに嬉しそうな表情になった。


が、すぐに真顔に戻って言ってくる。

「でも、それはこの剣のおかげでしょ。この剣が無かったら、私なんて只の足手まといでしかなかったわ」


「その剣を扱える事が既に人間離れしているという事だ。あ、いや、フィノの事を悪く言っているのではないぞ、感心しているんだ。きっとカージュも同じ気持ちだと思う。ある意味尊敬していると言っていいかもしれない」

「それならそうとはっきり言うべきだわ」

そんな風に言いつつもフィノの機嫌がだいぶ戻って来ているのがわかる。


このままカージュの話題をしていると、また機嫌が悪くなりかねないので、ユウは何気に話を戻すことにした。

「で、その様子だと、剣の感触は良かったみたいだね」


ユウのその言葉を聞き、フィノはユウの事を見てにこやかに微笑んだ。頭の中は昨日もらったばかりの巨大な剣の事に切り替わっている。

「うん。持ち歩くにはちょっと邪魔だけど、私との相性はいいみたい。私の思った通りに、ううん、思った以上に的確に剣を振るう事が出来る感じなの。持っているだけでなんだか強くなったみたいに感じるし、私にとっては最高の剣かもしれないわ」


フィノは剣の話しを嬉しそうにしていて、そんなフィノを見るとユウも嬉しくなってくる。

それほど相性のいい剣に出会い、しかもそれを貰えたというのは幸運だったとしか言いようがない。


「確かに…、俺達が使った時よりもフィノが使った時の方が剣が生き生きしている様に感じたよ。でもまあ、そのおかげで今日は久しぶりに大猟だ。うまく加工すれば、しばらく狩りに行かなくても大丈夫かもしれない」

レダスはそう言って長老の家の方を見た。巨大なワニは誰かが何処かへ移動したようで、長老の家の前にはなくなっているが、他にも何か獲って来たような言い方だ。


「大猟って、あのワニ以外にも何か獲ってきたの?」

ユウが聞くと、レダスはちらとフィノを見て、それから胸を張って言ってきた。

「ああ、大鹿が三頭と烈牛が二頭、持って帰るのが一苦労だったぞ。チュラとべティールはもう調理に入っているはずだ」

それがどれほどの獲物なのかはユウにはわかりようも無かったが、その態度を見ればなかなかの大物を仕留めたのだろうという事はわかる。


「ユウ、行ってみない?」

「そうだね、行ってみよう」

ユウは枝から飛び降りると、飛び降りるのを少し戸惑っていたルティナを煽って自分の上へと飛び降りさせ、フィノと三人手を繋いで長老の家へと走った。

その後ろ姿をレダスは目を細めて見つめていた。

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