枝の上の落し物
結局、ユウはそれ以上神についての話はせず、ジュナと世間話をして時を過ごした。
良く考えたら神がどんな存在であろうと、今ユウ達がしようとしている事には関係が無いことに気付いたのだ。
とはいえこの世界にいる以上、全く関係が無いわけでもない事も事実なので、追々考える事が必要になるかもしれないのだが、それはあちこちで情報を集めて行けばわかるだろうと考える事にした。
声の主を助けた後も、このままこの世界に住み着く事になるのだとしたら、その時にでも調べればいいだろう。
ユウがジュナと話をしている間、ルティナはひたすら巨人の本を読んでいた。
どうやら何か興味をそそる内容のものがあったらしく、ルティナは本を読む事に夢中になっていて、ユウとジュナの話し声さえ耳に入っていないようにみえる。
本を読むために日の当たる場所へと移動した所為で、ルティナの髪は柔らかな金色の光を放ち、それが何処となく気高く、それでいて優しい雰囲気を醸し出している。
ユウはジュナと話しながら、真剣な表情で本を読んでいるルティナの横顔と、その周りの優しい空気をたまに眺め、心を和ませた。
ルティナがあまりに夢中で本を読んでいるので、ジュナが、昼食を作って持ってきます、と言って一旦その場を立ち去ると、書庫に残ったユウは事実上一人きりの状態になった。
ルティナは集中していて声を掛けられる雰囲気ではない。
やむなくユウは書庫の中を見て回ることにした。
しかし書庫の中には本以外にはさして見るものが無い。
そこで、小屋の外へと出てみると、足元の枝の上は木漏れ日の絨毯が敷かれ美しく輝いていた。
その上を爽やかな風が流れて行く。
ユウは体を反らすようにして、大きく深呼吸をしてみた。
頭上にはたくさんの枝が折り重なり、たくさんの葉が風に揺れている。
ユウは、ふと、重なり合う枝のその先に、木漏れ日の光ではない何かの光を見た気がした。
他の柔らかな光に比べてそこだけが尖った光だったように思える。
その光に誘われるように、ユウは枝の上をその光が見えた方向に歩き出した。
少し行くと、足元の枝は次第に細くなり、元は巨人が乗ってもびくともしないような大きな枝だったものが、ユウが乗っただけでしなるくらいに細くなってきた。
そして、もうこれ以上進むと枝が折れてしまうのではないかという太さの所まで来た時、その光の源がわかった。
枝のある一点から鋭い光が発せられているように見えるのだ。
光に向かって枝の上を這うようにしてさらに近づくと、そこには何かが落ちているのがわかった。
よく見るとそれは鏡だった。
ユウが気になった光は鏡が反射した光だったのだ。
こんな所にジュナ達が鏡を置くとは思えないので、恐らくはカラスの様な鳥が巣へと運ぶ途中ででも落としたものなのだろう。
その鏡は、そもそもジュナ達巨人族が使うにはサイズ的に小さすぎる。
ユウの握りこぶしほどの大きさでしかないからだ。
ユウは枝に這いつくばりながら腕を思いっきり伸ばしてその鏡に手を掛けた。
そして、指先に引っ掛けるようにして手繰り寄せる。
それは円くて小さな銀色の立派な鏡だった。鏡の裏面には立派な彫刻もなされている。
そして、円い鏡の縁の一カ所には小さな穴が開いていた。
そこにひもを通して吊るすのにちょうどいい大きさの穴だ。いい長さのひもを使えば首に下げて持ち歩けるかもしれない。
この世界では鏡はあまり頻繁には見かけないので、そんな風にして持っていれば重宝するかもしれない、ユウはそう思い、持ち帰ることにして、懐に入れた。
巨人の誰かが意図的に置いたものだとすると、勝手に持ち出してはいけないのかもしれないが、大きさといい、枝の上に無造作に置いてあったことといい、あまりそうとは思えない。
なので構わないだろうと判断したのだ。
その後、枝がある程度の太さになるまで後ろ向きに這って戻り、もう大丈夫だろうと思った所でユウは立ち上がった。
と、その瞬間に、後ろから声が掛けられる。
「ユウ様、こんな所で何をやっているのですか。急にいなくなるから探してしまったじゃないですか!」
振り返ると、少しお怒り気味のルティナがすぐ後ろに立っている。
予想していなかった声がすぐ後ろから聞こえた事に加え、ルティナが予想以上に近くにいた為、驚いたユウは危なく枝から足を踏み外しそうになってしまった。
普通の木なら落ちても尻餅をつくくらいで大した怪我はしないのだろうが、この枝は巨人が手を伸ばしても届かない程の高さにある。落ちたりすれば下手をすると命に関わる事だってあるかもしれない。
慌てたユウは手を振り回し、たまたま手に触れた人の腕程の太さの細い枝につかまる事で、何とか落ちる事だけは免れた。
「だ、大丈夫ですか、ユウ様」
自分のせいでユウが落ちそうになっている事に慌てたルティナが、必死の形相でユウの腕を掴んでくる。
そして、死んでもこの腕は離さない、とでも言うように、目に半分涙を溜めながら、全身の力を込めてユウの腕を自分の胸に掻き抱くようにして引き寄せて、そのまま枝の上へと倒れ込んだ。
「ルティナ、大丈夫だから慌てないで」
ユウが宥めても、ルティナは気が動転しているのか、今度は自分が枝から落ちそうになっている事さえ気づいていない。
そんなルティナの身体を、ユウは必死に支えなければならなかった。




