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巨人の里

それから少しして、不意にユウの目の前の視界が開けた。

レダスが森を抜けたのだ。


と言っても良く見ると森を完全に抜けた訳ではない事がわかる。そこは周囲を森に囲まれたちょっとした広場と言う感じの場所だった。

その広場の所々に幹の太い広葉樹が生えていて、その樹をうまく利用してその根元に家が造られている。

そんな家が十数軒集まっているこの場所こそ、彼等の住む村だったのだ。


「着いたぞ。ここが俺達の村だ」

レダスの言葉にユウが応じる。

「森の中にこんな場所があるなんて、驚きだな」


初めはさほど感じなかったが、近づくとこの付近の樹は一段と大きい。大きいと言ってもむやみに上に伸びている訳ではなく、太い幹から枝が広く伸びていて、中には隣の樹と繋がって見える樹も幾つかあるようだ。


ユウから見て一番手前の樹がまさにそんな感じの樹で、それが村に入る為の門の様にも見えなくもない。

二本の樹の根元には、それぞれ樹の幹を背にする格好で小さな家が造られている。

小さいとは言えユウから見れば巨大な家なのだが、その縮尺を別にすれば、ユウのイメージの中の小さな家と同じ、ドアと窓が一つづつある、特別に豪華でもない、どちらかと言えば質素な感じの家だ。


その家の方に近づいていくと、生い茂った葉で日差しが遮られ、空気が爽やかに感じられるようになった。森の中よりも周りの空間が大きいため、空気の流れが起こる様だ。


そんな空気に導かれるように、ふと上を見上げると、レダスが手を伸ばせば届くくらいの高さに太い枝が四方に伸びているのが目に入って来た。

その枝の一つから、大きな人影が落ちてくる。


その人影は地面に降り立つと、平然と立ち上がり、レダスの前に立ちはだかった。

「おう、レダス。今日はずいぶんと平穏なお帰りだな。珍しいじゃねえか。俺はまた、ヘロヘロになってチュラかべティールのどっちかに引きずられて帰って来るのかと思っていたぜ」

それはレダスと同じくらいの年に見える、筋骨隆々の男だった。


「うるせえ。お前には言われたくないぜ、カージュ」

相手が仲間だからか、レダスの言葉遣いはユウに対する時とは違う。

カージュはそれに普通に言い返そうとし、その目をレダスの肩で止めた。


「なんだ、人じゃねえか。おまえ、また性懲りもなく人を連れて来たのか」

カージュはユウに対して見下すような視線を浴びせて言ってきた。


レダスが慌てて否定する。

「この人達は違う。この人達は俺の事を助けてくれたんだ」

「こいつが? お前を? 俺にはこいつがそんなに強いようには見えないがな」

助けたと言っても、力で助けた訳ではないのだが、カージュはそう受け取ったのか疑わしいものを見る様な目つきでユウの事をねめつけてくる。


と、その目が急に逸らされ、レダスの目を見つめた。

「この人達? 」

カージュの目にはレダスとユウしか入っていなかったのだ。


「ああ、あと二人女性がいる。チュラとべティールが一人づつ連れて来てくれている」

レダスがそれを教えると、。カージュは絶句した。

「ええ? チュラとべティールが?」


カージュはユウ以外にも人がいる事にも驚きはしたのだが、それよりもチュラとべティールが一緒に居る事を驚いたようだった。

そこへタイミングよくチュラとべティールが追いついて来た。女同士の話に夢中になり、少し離れてしまっていた様だ。


「あら、誰かと思えばカージュじゃない。こんな所で何やってんのよ」

チュラが話しかけるとべティールがそれに言葉を重ねる。

「こいつの事だから、あたしたちの負けた方に優しくして、あわよくば…、なんて下らない事、考えていたに違いないわ。残念でした、あたしとチュラはこの人達に学ぶことにしたから、もう喧嘩はしないわよ」


カージュはさらに頭を捻っている。

「どういう事だ?」

「もう誰の得にもならない様な事はやめたって事よ」

チュラはそう言って、肩にちょこんと座っているフィノに向けてウインクした。

その仕草は以外に愛らしいものではあったのだが、その愛らしい姿はカージュの目には入っていないようだった。


そんな事よりもこちらの話の方が大事とばかりに、すぐにチュラとべティールを交互に見ながら聞いている。

「なら、どっちが今フリーなんだ?」


すぐにべティールの顔色が変わった。

「何そのどっちでもいいような言い方、だからあんたはダメなのよ。残念でした、どちらもフリーではございません」

チュラもさげすむような視線をカージュに向けている。

「ほんっと、あんたって私達の事バカにしているわよね。振られたところを優しくすれば落ちると思ったら大間違いよ」


二人とも余裕な表情でいる意味がわからないのだろう、カージュは怪訝な表情をしている。そんなカージュに二人はさらに付け加える。

「そうそう、私達は私達を守ってくれるような強い男が好きなの」

「そう、それでいて私達には決して手を上げない、そう言う人が好みなのよ」

訳がわからないまま小どんどんさくなっていくカージュを尻目に、チュラとべティールの勢いは増していく。


慌ててレダスが割って入った。

「頼む、その辺にしておいてくれ。それより、ユウ達を長老に紹介したいんだ。早く行こう」

そして、まだ何か言いたげな二人を強引に引っ張って、広場の中心の一段と大きな樹に向かって歩き出した。


長老の家へと向かう三人(と、もう三人)の後ろ姿を見送りながら、カージュはがっくりと首をうなだれるのだった。

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