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対決

ユウに睨みつけられてもサントは決して笑みを絶やさなかった。

穏やかな表情を保ったまま、ややトーンを下げた冷たい口調で言ってくる。


「まあ、ユウさんには随分と楽しませてもらいましたから、そんなに望むのなら扉を開けてあげない事も有りませんがね」

そしてここで一息入れて、ユウが何も言い返してこない事を確認してから先を続ける。


「ふふ、ならばこれから私と戦って、あなたが勝てばあの扉を開ける、という事にでもしましょうか。…ただ、あなた一人では私に勝つ見込みは有りませんから、それでは面白くありません。ですから、面白くする為に少しハンデを差し上げる事にしましょう」


サントは言うなり右手を天に掲げると、そのままそこで固く拳を握った。

すると、その拳の指と指の隙間から、強い光が漏れ出して、行く筋もの光の束となって四方八方へと伸び始める。

そして、その内の特に眩く光る二本の光の束が大きく弧を描いて降りてきて二つに分かれた下の広場に突き刺さった。


「何をする」

「ふ、言ったでしょう? ユウ、あなたにハンデを差しあげると」


「ハンデ?」

「そうです。たった今、あの子達には石に戻ってもらいました。あなたのお仲間たちは今、突然の出来事に面食らっているようですが、すぐにこちらに向かって来るでしょう。ですから、彼女達がここに来るまで持ち堪える事が出来れば、あなたはぐっと有利になるという訳です」


「待ってくれると言うのか?」

「いえ、それでは面白くありません。彼女達の役割はあくまでも援軍です。あなたが彼女達がここへ来るまで持ちこたえる事が出来なければ、援軍は無意味になりますので、頑張ってくださいね。さあ、話はここまでです、始めましょうか」


サントはそこまで言うとその表情から笑みを消した。

と同時に、元々サントの纏っていた高尚な空気が急激に大きくなっていく。

気が付くとサントはいつの間にか刀身の長い日本刀に似た剣を持っている。

対してユウの得物は短剣だ。


「ハンデをくれるんじゃなかったのかよ」

これでは、どう見てもユウの方が不利だ。

文句を言うユウに対し、サントがわずかに笑みを返す。


「これでも随分と譲歩しているつもりなのですよ。でないと面白くありませんからね」

言いつつ、サントはその刀を軽く振った。

だがその剣筋はフィノの剣を見慣れているユウから見ればそんなに速いようには思えない。

しかも、ユウはまだ刀の間合いにも入っていないので、本来なら避ける必要すらないのだが、ユウは半ば反射的にサントの振った刀の軌道から跳んでいた。


その軌道の延長線上を、黄色い光が通り過ぎる。

その光は、ユウの後ろの祭壇を真っ二つに斬り裂いて、そのまま彼方に消えて行った。


ユウは思わずその光を目で追って、すぐにそんなモノを見ている場合ではない事に気づいてサントの方へと視線を戻した。

「なるほど、ハンデがないと面白くないとか言って油断させておいて、一刀両断と言う訳か」


サントは無防備のユウに追い打ちをかけるでもなく、真顔のままユウの事を見つめている。

「いやいや、まさかこんなに綺麗に避けられるとは思いませんでしたよ。私の予想では今ので手か足の一本くらいは削れるのではないかと思っていたのですが、あなたという人は予想以上に面白い存在ですね」


どうやらサントのユウに対する評価がまた一段上がったようだ。

が、ユウがあの光を避けたのは偶然で、狙った訳ではない。

そう何度も避けられるモノではないだろうし、ましてや反撃など出来ようはずもない。

いや、あんなものは、さすがのフィノでもそうそう避けきれるものではないだろう。

サントの言うハンデなど、ただの方便だと考えざるを得ない。


であるならば、フィノ達が来る前に対応策くらいは見つけておかないと、サントに嬲られて全滅する。

ユウは深く考えるよりも前にサントに向かって突進していた。

祭壇を真っ二つにしたあの光を喰らうよりは、あの刀とまともに打ち合った方がまだマシだと直感したのだ。


だが、そんなユウの姿を見てもサントに慌てた様子は見られなかった。

冷静に構えを取って、もう一度刀を振ってくる。


ユウはその刀をギリギリの所で持っていた短剣で何とか受けた。

物理的な攻撃は普通に受けられる様だ。


そのまま剣を滑らせてサントの脇にもぐり込むべく動こうと考えたユウだったが、サントの力は予想外に強く、受けるだけで精一杯で、短剣が届く所にまで近づく事は出来ない。

今ここにフィノかアーダがいれば、この間にサントにダメージを与える事が出来たのかもしれないが、フィノもアーダもまだユウから見える範囲には姿を現していないので、残念ながらそれも期待する事は出来なそうだ。

ここはやはり自力で何とかするしかないという事になる。


ユウは持っていた短剣に出来る限りの力を込めた。

その短剣の向こうでは、サントが口もとに薄い笑みを浮かべている。


「楽しみです。ユウさんはこれをどう避けるのでしょうね」

サントは言いながらユウの短剣を押し返すと、ユウと刀を合わせたまま、一方の掌をユウの顔に向けてきた。


何だかわからないが、とてつもなく嫌な予感がする。

ユウは咄嗟に、サントと剣を合わせたままの状態で、その場に滑り込むようにして身体を沈めた。


直後、掌から出た稲妻がユウの髪の毛を掠って通り過ぎる。

幸いにしてユウは何とかその稲妻を避ける事には成功したものの、結果、サントに完全に上を取られる事となってしまった。

このまま体重を預けられれば、ユウの力ではとても耐えきれそうもない。

ましてや剣をはねかえす事など不可能だ。


しかし、だからと言ってここであきらめる訳にはいかない。

ユウは手にしていたクリスタルの短剣に可能な限りの力を込めて押し返した。

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