神殿
扉の先は石造りの大きな広間になっていた。
その広間の先に見るからに重厚な建物が建っている。
建物の前にはユウ達の今居る広間よりも一段高くなったスペースがあり、そこへ登る階段の手前には大きな犬の石像が二体向き合う様にして座している。
どうやらここは神殿らしい。
という事は、もしかしたらここは神の住処なのかもしれない。
だとするならば、いよいよだという事だ。
気が付くとユウは、その神殿の正面に広がる広間の端の部分に投げ出されていた。
フィノが血相を変えて駆け寄って来る。
「ごめんユウ、少し力を入れすぎちゃったみたい。怪我してない?」
「大丈夫、何ともないよ。それよりも、扉の中に引きずり込んでくれてありがとう。そうされていなかったら今頃どうなっていたかわからない」
「ユウの意図がわかったから従ったけど、あまり危険な真似はしないでよね。私達にはユウが必要なんだから。ユウがやられたら意味がないもの」
「意味がないなんて言うなよ。心配してくれるのは嬉しいけどさ」
そこへ少し遅れてルティナとアーダが駆け寄って来る。
「ユウ様、大丈夫ですか」
「鼠は一匹も通さなかったからな。とりあえずは一息つけそうだぞ」
「助かったよ、二人ともありがとう」
「いえ、無事だったのはユウ様の機転のおかげです。ちょっと危なかったですけどね、でも、フィノなら何とかしてくれると思っていました」
「少し勢い余った感はあるけどな。まあ、ユウに怪我がないのなら、特に問題はないだろ」
ユウはゆっくりと半身を起こしていった。
そして、ルティナの手を借り立ち上がる。
「俺の事より、ルティナの方が怪我をしているんじゃないのか?」
「私の事なら大丈夫です。アーダにも助けてもらいましたし、これくらいは平気です」
とはいうものの、ルティナの腕には痛々しい傷が残っている。
大きな怪我ではなさそうなのはよかったが、ユウよりも怪我をしているのは間違いない。
にもかかわらず、ユウの事を一番に心配してくれている。
フィノもアーダも同様だ。
二人もルティナ程ではないにしろ、あちこちに傷を負っている。
しかも、二人はルティナよりも更に危険な場所を受け持ってくれた。
危険と言う意味では二人の方が直面する場面が多かったはずなのだ。
そういう風に考えると、今回の事だけではなく三人の力に頼っている事を痛感させられる。
「みんな、ごめん。俺のわがままの所為でみんなを傷つけてしまって…」
改めて考えると、三人はユウに付き合っているだけで、本来、こんな所に来る必要はなかった訳だし、来なければ余計な怪我だってしなくて済んだはずなのだ。
そう思うと、急に罪悪感が襲ってくる。
特に傷だらけのルティナを見ると、そんな思いが強くなる。
様子のおかしいユウを見て、ルティナが明るく言ってくる。
「何を言っているのですか、ユウ様。私達はユウ様の助けを求める声の主を助けたい、と言う思いに賛同して一緒にその声の主を助けたいと思っているのです。その為ならこのくらいの傷は何ともありません」
「けど、その傷を見たら…」
「それくらいの事はみんな覚悟の上だろ。あたしもユウのその行動に助けられたクチだしな」
「そうそう、私たちは皆ユウに助けられたのだもの。ユウの為なら多少の傷は覚悟しているわ。ルティナだってきっと同じ。だから、ユウはそんな事、気にしなくていいの」
アーダもフィノも少々多少呆れている感がある。
いまさら、だという事だろう。
もう既にさんざん連れ回しているのだから、そう思うのも当然の事なのかもしれない。
「けど、やっぱりみんなには怪我はして欲しくないんだ。だから、みんな自分の身の安全の事を第一に考えて欲しい」
言われた三人は相互に目を見合わせた。
「わかったわ。でもそれは、ユウが無事でいる事が大前提」
「本当にヤバくなった時には皆で一斉に逃げればいいだろ、今回みたいにな」
「だからユウ様も自分が犠牲になろうなんて考えないでください」
三人の意志は固そうで、あまり頑なな事を言っても逆効果になりかねない。
それよりはユウが皆の行動に注意を払った方が良さそうだと判断する。
「わかったよ。でもみんな注意しておいて。俺達は声の主を助ける目的で来たのであって、たとえそれを阻むものであっても、襲ってきた敵を倒す事が目的じゃない。だから、その事に固執しないで、時には逃げた方がいい場合だってあると思うんだ。無理して全て排除する必要はない」
「わかったわ。でも、ずっと追いかけてきた念声の主の事は何としても助けたいでしょ。せっかくここまで追いかけて来たのだから…。…って、そうだ、ユウ、念声はまだ聞こえてこないの?」
「あ、ああ、残念だけど…」
「けど、終着点は意外と近いんじゃねえかな。 少なくともその「珠」の光が導いているのはあそこまでみたいだし…」
アーダがそう言って前方のとある一角を指差してくる。
アーダが示しているのは二体の石像の真ん中奥に見える祭壇だ。
「どういう事だ?」
「どういう事も何も、ユウには見えていないのか? その「珠」の光の一部があの祭壇に向かって伸びて行っているのをさ」
そう言われてよく見てみると、三百六十度全方向に向けて光っている「珠」の光の中で、祭壇のある方向を照らす光だけが、うっすらと一筋のライン状に濃くなっているのがわかってくる。
光の濃度が違うのだ。
「あたしはユウに行く方向を決めてくれって言われてから、ずっとこの光の筋を追いかけて来たつもりなんだけど、その筋もあの祭壇の所で収束しているみたいだし、っていう事は、あそこがその「珠」が導く最終地点なんじゃねえのか?」
確かに、うっすらと見えるその光の筋は真っ直ぐ祭壇の方へと向かっている。
口ぶりからして、アーダには少なくともユウよりははっきりと見えているらしい。
なるほど、アーダは分岐点毎に「珠」の光の方向を目印に進むべき方向を決めていたという事の様だ。
ユウがその光の筋を見失わないよう慎重に追いかけていくと、その光の筋は祭壇の少し手前で収束し、ある一点だけを明るく照らしているように見えた。




