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特攻

ユウが扉に近づくにつれ、壁際に積み重なっていた鼠達はバタバタと崩れ落ち、遂には壁際に陣取っていた鼠の全てが地に落ちた。


皆、反撃する余裕さえなく力尽きてしまったようだ。

壁の前に積み重なり、ピクリとも動かなくなっている。

光に当たっただけで死んでしまうなど随分とあっけないように思えるが、必死に光を避けようとしていた所を見ると余程苦手な光だったのだろう。


地に伏し動かなくなったその小さな体を見ると少しばかり可哀相に思えない事もないが、良く考えると彼等はルティナを血だらけにした張本人な訳だし、同情すべき相手ではない。

ユウは扉の手前に転がる鼠達の亡骸から目を反らし、正面の扉だけを真っ直ぐに見つめ直した。


近づくにつれ、扉からはその大きさからはそこにそぐわない巨大なオーラが漂ってくる。

この扉、やはりただの扉ではないようだ。

と、突然、ユウの後ろで通路側に逃げた鼠達の様子を窺っていたルティナが少し大きな声を上げた。

「鼠達がこちらに向かって来ています」


見ると、鼠達は皆で纏まり一つの大きな塊になって近づいて来ている。

その塊に向かってルティナが矢を射かけるが、その矢が斃すのは沢山いる鼠の一匹だけだ。


しかし、その一匹は一匹だけで崩れ落ちるのではなく、周りの鼠と一緒に崩れ落ちていく。

一瞬、矢の効果が他に広がったのかと勘違いしてしまいそうになるが、そうではない。

鼠は、矢が当たった事とは関係なく、光を浴びた事で崩れ落ちて行っているのだ。

その鼠が力尽きると、更にその後ろから次の鼠が現れ、その鼠も力尽きると、その更に後ろにいた鼠が前に出て、一番前の鼠が「珠」の光を避ける盾となることで、こちらに向かって来ている。


「ユウ、鼠達が特攻を仕掛けて来たわ。ここは早く扉の向こう側に逃げた方が得策…」

ユウの右側にいたフィノが、一瞬、迫り来る鼠達の塊を確認するためにそちらに目をやったその時、

「フィノ、前だ!」

アーダの大きな声がして、慌てて視線を前に向けると、そこにはこちらに向かって飛びこんでくる数匹の鼠の姿があった。


一瞬、何故そこに鼠がいるのかわからず戸惑うフィノの目の前で、アーダが槍でその鼠達を叩き落とす。

しかし、その時には、更に後ろから別の鼠が飛びかかってきている。

扉の前に小さな山となって積み重なった鼠達の亡骸の中にも生き残ったモノが潜んでいて、その鼠達が通路側の鼠達と同様、特攻して来ている様だ。


フィノは、アーダに加勢して、飛びかかって来ていた前方の鼠を全て駆逐した。

通路側と違って数が少ないので、それくらいの事は比較的簡単にできたようだ。


が、数はぐっと少なくなったものの、更に襲ってくるモノがいる。

それも簡単に排除する事はできるレベルなのだが、その所為でなかなか扉にたどり着けない。


「こいつら意外に賢いぞ、時間稼ぎをしていやがるんだ」

通路側の鼠の塊はその後ろに黒い軌跡を残しつつ、この間にも着々とこちらに近づいて来ている。


「ユウ、とにかく先に扉の中へ入ってくれ」

「扉の前で待ち伏せしていた鼠は、ほぼ駆逐できたはずよ。だから、早く」

「そうです。早く行ってください」

三人がユウを先に促してくる。


しかし、ユウは扉の前まで来ると、横へ一歩移動して、扉の前のスペースを開けた。

そしてその場所にユウのすぐ後ろについて来ていたルティナを連れて来る。

「ルティナが先に行ってくれ」


「だめです。ユウ様が先です」

「それだと光が届かなくなる」

「でも…」

「迷っている暇はない。早く!」


このやりとりの間にも鼠達は確実に近づいて来ている。

無駄に時間を掛けるのは得策ではない。

ルティナは自らを納得させるかのように大きく一つ頷くと、扉を開き、人一人が通るのがやっとの大きさの扉の中へと入って行った。


「アーダ」

「わかった」

次いで、アーダが扉をくぐる。


鼠達の塊は、動き出した時よりも二回り以上小さくなってはいるものの、まだ人一人くらいは飲み込む事が出来るくらいの大きさは持ったまま、もうユウとフィノの目の前に迫って来ている。

アーダの槍ならば届くくらいの至近距離だ。


「フィノ」

フィノは一瞬迷う素振りを見せたものの、すぐに決断し、扉の中へと飛び込んだ。


直後、鼠の群れが雪崩の様に一斉にユウへと襲い掛かる。

ユウは覚悟を決めて片手で短剣を強く握り締めた。


が、ユウに最初の鼠が届く直前、ユウはいきなり強い力で身体を後ろに大きく引っ張られた。

急激に後ろに引っ張られた事で、自然「珠」を持つ腕が前に伸びる。


それは、覚悟を決めて突進してきた鼠達にとって、想定外の出来事といえた。

いや、想定されていたのだとしても、その変化にはとても耐えられなかったに違いない。


突然、「珠」の光を間近に浴びる事となった鼠達は、一瞬、その場で固まった。

その僅かな隙に、ユウの身体は後ろ向きのまま小さな扉を通り抜けていく。


ユウは身体にかかる大きな加速度に耐えながら、ユウが通過した後の扉を急いで閉めるルティナとアーダの姿をしっかり確認していた。

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