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小さな扉

「珠」を掲げた左腕に思わず力を込めてしまったユウは、少しして「珠」の発する光の強さに変化がある事に気が付いた。

力を込めた事によって、青白い光が少し強くなったように思えたのだ。


ユウが、その変化に何故気が付いたのかというと、光を見守る鼠達に変化があったからだ。

通路側に逃げた鼠達が、力を入れたとたんに強くなった光から逃れる様に一斉に一定の距離を取り、更に引き下がっていったのだ。


なので、今度は力を抜いてみると、光は徐々に薄くなり、鼠達もその光の強度に応じる様にゆっくりこちらに近づいて来る。

やはり力の込め方にこの「珠」は反応しているようだ。


ユウはもう一度「珠」に力を注ぎ込んでみた。

すると、光はその力を吸収するかのように大きくなる。

ならば、もっと力を込めれば、光の強度もそれに応じてもっと増大するかもしれない。

そう思い更に力を込めると、予想通り、光は一層強まった。

それに伴い、ほとんどの鼠が通路を奥へと下がって行く。


しかし、一部の鼠は通路の壁に張りついて積み重なり、その辺りの壁を黒く塗りつぶすに留まっている。

最初は通路側に逃げるのが間に合わなかった鼠が可能な限り退避した為そんな形になったのかとも思ったのだが、距離的には変わらないはずの反対側の壁にはそんな現象は起きていない。

となると、そう考えるのには無理がありそうだ。


第一、仮に壁際に逃げたとしても、そこから壁沿いに走る事もできるはずなのだ。

にもかかわらず、彼等はそこを動こうとしていない。

まるで何かを守っているかのように…。


ユウは、「珠」を上に掲げたままルティナをフィノに預けると、鼠達が積み重なってできたその黒い壁の方へと一歩踏み出してみた。

すぐにフィノが反応する。


「どこへ行くの? ユウ」

「壁際にかたまっているあの鼠達の事がちょっと気になって…」

「なら、皆で行った方がいいわ。一人で行ったら危ないもの」

フィノはルティナを支える様にしてユウの後ろをついてくる。


その後ろをアーダも周りを警戒しながらついて来る。

「逃げて行った奴なんて放っておいてもいいんじゃねえか?」


「いや、アイツらは逃げて行った訳じゃないんじゃないかな。逃げるのなら通路の奥に逃げた方が簡単だし安全だと思うんだよね」

「なるほど、何か隠しているんじゃねえかっていう事だな。なら、あたしが…」

「いや、行かなくていい!」

ユウは今にも走り出して行きそうなアーダを強い口調で引き止めた。


そしてその場で更に「珠」に力を込める。

すると、「珠」はより強く光り始め、と同時に壁に張り付いた鼠達が明らかに動揺し始めた。

逃げたいのに逃げられない、と言った様相で、小さく動きはするものの、結局その場を動かない。

通路に逃げた鼠達は更に距離を取っている様なので、彼等がこの光を嫌っている事は間違いなさそうなのにもかかわらず、壁際の鼠達だけはその場を動かないでいる。

明らかに怪しい動きだ。


「確かに、怪しいわね。なら、私が行って蹴散らしてこようか?」

今度はフィノが申し出る。

しかし、ユウはそれも断った。

「いや、いい。もう少し近づけば多分もたなくなる…はず」


ユウは光の強度を保ちながら、一歩一歩黒い壁の方へと近づいて行った。

すると、ユウの思惑通り黒い壁が徐々に崩れ始める。

鼠達は力尽きたかのように、ボロボロと歯抜けになって崩れ落ちていく。


さらに近づくと、ほとんどの鼠が壁に張り付いていられなくなり、後ろの壁が見える様になってくる。

そこには、人一人が通るのがやっとの小さな扉があった。


「やっぱりか」

どういう仕組みかはわからないが、この壁のどこからかスケルトンは現れたのだから、どこかに出入口があるのだろうとは思っていた。

その内の一つだけを隠す理由はわからないが、もしかしたらあの扉は余程重要な場所へと続いているのかもしれない。


「あれって、出口なのかな? 今までの扉とちょっと違うみたいだけど」

フィノが頭を捻っている。

確かにフィノの言う通り、今まで通って来た扉と比べると大きさは随分と小さく見える。

だが、醸し出す荘厳な雰囲気からは、例えば非常口のような実用性に特化した扉ではない事が伝わってくる。


「出口かどうかはわからないけど、何か重要な扉でなければ、あんなに必死に隠す必要はないはずだろ。どこに続いているのかはわからないけど、行ってみるしかないんじゃないのか?」

「あんまり期待していると、案外、隣の通路に出るだけかもしれないぞ」

フィノとは反対側ではアーダが首を伸ばしている。


確かにその可能性もない訳ではない。

しかし、

「それでも、行かないよりは行った方がいいだろう? アーダだって、ここはどっちに行っても良くない気がするって言っていたじゃないか」

「それは…まあ、そうだけどな」


ルティナも話に入ってくる。

「私も行くべきだと思います。これまで突然目の前に現れた扉で、意味のないものは有りませんでしたし、それに、私達がここに来た時、あそこに扉はありませんでしたから、もしかしたら、スケルトンを全部やっつければ現れるように隠してあった扉なのかもしれません。もしそうだとしたら、これを仕掛けた者にしてみれば想定外の事が起こった、という事なのかもしれませんけどね」


「ルティナ、そんな事より身体はもう大丈夫なのか?」

「まだあちこち痛いけど、大丈夫です。それより、ユウ様の方こそ集中してください。「珠」の光が弱くなってきています」


言われて見れば、確かに「珠」の光が弱まっている。

意識を他にやっている間に、光の強度が弱まってしまった様だ。

ユウはすぐに意識を集中させた。

それに伴い、光が勢いを取り戻す。


「行くよ、みんなついて来て」

ユウは扉に向かって歩き始めた。

その後ろでは三人が頷き合い、無言のままユウを三方から囲むようなフォーメーションを取ると、ユウに並んで歩き出した。

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