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三つ目の扉

四人の中で唯一人だけ盾より少しだけ前へと進み出ていたフィノは、遠くに何かを見つけた様だった。

前方のある一点を指差して言ってくる。

「見て、あの岩の側面に扉が見えるわ」


その方向を目で追いかけたユウは、初めフィノが何を言っているのか良くわからなかった。

だが、よく見るとそこには確かに扉がある。

ユウの記憶では、ついさっきまでそこにあったのは多少大きくうねったくらいのなだらかな雪の峰だったと思うのだが、今、そこに雪はなく、代わりにむき出しの白い岩が顔を出していて、その岩の小さな出っ張りの側面に扉が張りついている様に見えるのだ。


ちなみに、雪が無くなっているのはその扉のある岩のの周りだけで、他の部分にはまだしっかり雪がある。

むき出しになった岩の部分も、雪の色に近い純白なので、見た目については、実はあまり変わっていない。

なので、ユウは最初、フィノの言っている事が良くわからなかったのだ。


「あれがあるっていう事は、ここはこれでクリアだっていう事なのかな」

扉がある事を確認したユウは、思わずそうこぼした。

戦いに決直が付いた訳ではないので何となく尻切れトンボな感じはしないでもないが、別に彼等と戦う事がここでの目的ではなかったのだから、これはこれでおかしな事ではないのだろう。

だがわかりやすい結末ではないとも言える。


「クリアかどうかはわからないけど、先に進めるなら進んだ方がいいんじゃない? 早く暖かい所に行きましょうよ」

「そうそう、とにかくここを抜けちまおうぜ」

フィノとアーダはそんな事など全く気にしていないようで、すっかりその気になって、二人で競うようにして扉の方へと歩いて行っている。


ルティナもそれに続こうとして、ユウが動こうとしない事に気付いて振り返った。

「なんだか、ちょっと呆気ない感じがする事は気に掛りますけど、私も行ける時に先に進んだ方がいいと思います。ぐずぐずしている間に、扉を消されてしまったりしたら面倒くさい事になるかもしれませんし、私達も早く行きませんか?」


確かに、それはルティナの言う通りだ。

ここは神と呼ばれる存在の領域なのだ。

彼等の思惑次第で何が起きてもおかしくない。


ユウの前にルティナの手が差し出される。

ユウとしてもこの場所に特に未練がある訳でもないので、この場所に固執する意味もない。


「それもそうだな」

ユウはルティナの手を取ると、前を行く二人を追いかけるようにして歩き出そうとした。

が、動きかけた所で動きを止めた。

ユウが止まった事で、必然的にユウと手を繋いでいたルティナも動きを止められる。


「どうしたのですか?」

ルティナが心配顔で覗きこんで来る。

ユウは自分の左手の、肩から腕、そして手首へと視線を滑らせていった。

その手はしっかり盾を握っている。


「悪い、この盾も持って行かないと」

ユウは盾を背負うべく力を込めてみた。

しかし、盾は全く動かない。


盾の下、五分の一程が地面の中に埋まっている所為か、いくら引っ張ってもビクともしないようだ。

それは両手で引っ張っても同じ事だった。

ユウは諦めて一旦盾から手を離した。

当然、手を離しても盾が倒れる事はない。


「何だか、倒れないようにと思ってずっと盾を持っていた事がバカみたいに思えて来るな」

こうまでしっかり地面に突き刺さっているのならば、盾が倒れないようにと必死になって支えていたのは、あまり意味がない事だったという事になる。

ただ盾の裏に隠れていればよかったのだ。


「そんな事はないと思いますよ。雷や、アーダの蹴りの衝撃を耐えるにはユウ様の力も必要だったはずです」

ルティナがすぐに否定する。

とはいえ、そんなルティナの慰めが的外れのものであった事はユウにも何となくわかっている。

考えてみれば、雷の時も、アーダの蹴りの時も、いや、そのもっと前からずっと、ユウは盾を動かす必要が無かったのだ。

激しい振動は伝わって来ていたので、それに耐えつつ盾を押さえていたつもりではあったのだが、良く考えると盾は一度も動かしていない。

その時にはもう盾はしっかり固定されていたという事だ。


ユウは一息入れて気持ちを切り替えてから、もう一度同じ事を試みてみた。

しかし、やはり盾はピクリとも動かない。

というか、動く気配が全くない。


「フィノを呼んだ方がいいのではないですか?」

ルティナがフィノを呼びもどそうとする。

ユウはそれを手で制して断った。


「いや、いい」

アーダの蹴りはともかくとして、この盾は恐らくは雷の直撃を受けてもビクともしなかったのだ。

いくらフィノでも、少なくとも簡単には抜き取る事は出来ないに違いない。

それはつまり、フィノの剣の時と同じ状況だという事だ。

それに、盾の前の一定の範囲だけ雪がなくなっていてその範囲に次への扉がある、というのもあまり偶然とは思えない。


ユウはルティナの手をもう一度握り直した。

「行こう」


ルティナがその手を握り返してくる。

ユウは地面に突き刺さったままの状態で固まっている見慣れた盾を最後にもう一度振り返ると、ルティナの手を掴み、扉に向かって走り出した。


扉の前では、フィノとアーダが大きく手を振り二人が来るのを待っていてくれているようだった。

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