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蜘蛛豹の提案

「気を付けて、バールリッツ。あいつ、糸で獲物を動けなくさせるんだ」

ユウはバールリッツに忠告した。

それは、そこにいたのが以前ユウ達の事を襲って来た事のある蜘蛛豹だったからだ。


あの糸がバールリッツに効くのかどうかはわからないが、万が一にもバールリッツが動けなくされたら面倒な事になりかねない。

そう思っての忠告だったのだが、バールリッツに慌てる様子は見られなかった。


『大丈夫だ。奴には俺とラビアローナを同時に押さえるだけの力はないからな。それに、どうやら今回は敵対するつもりもないようだ』

バールリッツはそう言うと、ゆっくり前へと歩き出した。


一方、蜘蛛豹の方もゆっくりこちらに近づいて来る。

ユウは念の為、剣を取り出し、いつでも振るえる様に準備した。

同様にアーダは槍を取っている。


バールリッツと蜘蛛豹は徐々に距離を詰めて行き、もう飛びかかれば届くのではないかと思われるほどの距離にまで近づいた所でお互いに立ち止った。

ユウは前回の事があるのでどうしても身構えてしまうのだが、さすがはバールリッツ、先程の口ぶりからして、蜘蛛豹の事を知らない訳ではないはずなのに、というか、戦った事さえある様なのにもかかわらず、恐れる様子もなく悠然としている。

それだけ自信があるという事なのだろう。


バールリッツと蜘蛛豹は正面から見つめ合った状態のまま、お互いに動かなくなった。

バールリッツはああ言っていたが、何かあった場合にはすぐに動けるよう、ユウは備えておいている。

が、少し待ってもふたりとも全く動く気配がない。


と、ユウはバールリッツは全身の筋肉が緩んでいる、つまりはリラックスしている事に気が付いた。

これでは何かあった時に俊敏に対応する事など出来そうもない。

そこまで気を許してしまって大丈夫なのだろうか。


そう思い始めていたユウに、瞬間、バールリッツの筋肉の動きが伝わってきて、それと同時にバールリッツの念声(こえ)が届いて来る。

『断る! 俺はあそこに戻るつもりはない』


「は? 何を言っているんだ、バールリッツ」

ユウは思わず聞き返していた。


すると、バールリッツは、少しの間の後謝ってきた。

『すまん、思わずそっちにも言葉を漏らしてしまった。今のはユウに言った言葉ではないから気にしないでくれ』


「それってどう言う…」

更に聞こうとするユウをバールリッツは強引に遮った。

『悪い、少し待っていてくれ』


そして、また少し黙った後、再びユウに言ってくる。

『急に大きな声を出してしまってわるかった。クリアムの奴がバカな事を言い出すものだから、つい声が大きくなってしまったのだ』

「クリアム?」

『うむ、目の前にいるあやつの名前がクリアムだ』

「あ、ああ、あの蜘蛛豹ね。あいつ、クリアムっていう名前だったのか」


見ると、クリアムはバールリッツから視線を外し、あさっての方向を向いている。

その様子から、少なくともこちらと戦うつもりのない事が窺える。


『蜘蛛豹? ふふふ、なるほど蜘蛛豹か、確かにそんな感じだな』

バールリッツはユウがクリアムを蜘蛛豹と呼んだことを面白がった。

が、そんな事は今はどうでもいい事だ。


「バールリッツ、もしかしてお前、あの蜘蛛豹と話す事が出来るのか?」

バカな事を言っているという事は、少なくとも意志の疎通が出来ているという事だ。

そう考えるとバールリッツの行動にも納得する事ができる。


『話す、と言っても今ユウと話をしているのと同じように、声に出して話す訳ではないのだがな。まあ、一応会話は出来ている。遠い昔、俺もクリアムも神の眷属だった事があってな、その時の名残のようなものだ』

「え? バールリッツって眷属だったの?」

『ふんっ、あまり思い出したくもない昔の話だ』

「…、そ、そうか」


バールリッツが吐き捨てる様にそう言ったので、ユウは何も言葉を返せなくなってしまった。

とても興味深い話ではあるので、聞きたい事もたくさんあるのだが、ここはひとまず話題を変える事にする。


「で、蜘蛛豹の言ったバカな事って何だったの?」

すると、バールリッツは思い出したように蜘蛛豹の方を見た。


『そうそう、あ奴、神域に戻る、などと言い出しやがったんだ。それも、突拍子もない方法でだ。いくら正統法ではゴフジールの小屋を通る事が出来ないからと言って、そんな事は無謀だし、そもそも無理だ。しかも、あ奴、言うに事欠いてこの俺に力を貸せと言いやがる。だが、俺はもうあんなヤツらに関わるつもりはないからな。だから、断っていたのだ』


それで、断る、と言う言葉に繋がるという訳か。

思わず漏らしてしまったのだろう。

蜘蛛豹はちらちらとこちらの様子を窺いながら、大人しくこちらの話が終わるのを待っている。

少なくとも今回は、こちらを襲うつもりはなさそうだ。


「で、その突拍子もない方法って、どんな方法なの?」

ユウが聞くと、バールリッツは何も言わずにただ黙って首を上に向けた。

と同時に、辺りが急に暗くなる。


ユウ達のいる場所が浮遊島の下に入った証拠だった。

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