外出
事情を話すとフィルスは快く「珠」を貸す事に同意してくれた。
ただし、出来るだけ無事に持ち帰るように、と言う条件は付けられている。
できるだけ、と言う言葉がついているのはフィルスの優しさによるものなのだろうから、絶対に持ち帰る様にしなければならない。
その事は心に留めておくべきだろう。
「珠」は「剣」と「盾」に近づける事で発光を始めるらしく、逆に離せば光らなくなる、という事もわかった。
その光も三つの内の二つを近づけただけではぼんやりとしかものしか出ず、三つが集まる事で初めて強く光り始める。
「剣」と「盾」だけを近づけても同じ現象は起こるようなのだが、その二つをかなり近い位置にまで近づけないと光らないのに加えて、発光してもその光が淡い為、外などの明るい場所では余程よく見ていない限りはわからない。
そんな訳で、今までは気が付かなかったものと思われる。
そう考えると、あの時「珠」が光っている事に気が付いたのは凄く幸運だったと言えそうだ。
「珠」が光っている事に最初に気付いたのはラビアなので、ラビアには感謝しなければならない。
という事で、ユウがその旨をラビアに伝えると、ラビアは、
「感謝してくれるのなら、買い物に付き合ってよ。いいでしょう?」
と、逆に甘えるような声でねだってきた。
何を買いたいのか聞いてみると、お菓子とかおもちゃとか言ってはいるもののはっきりしない。
良く聞くと二人は、危険だからという事で、最近は買い物はもちろん敷地の外で遊ぶ事も許されていないらしく、この機会にユウ達にボディーガードになってもらう事で、久々にこの屋敷の敷地の外に出たい、というのが本音だった様だ。
そう思う気持ちは良くわかる。
ずっと閉じ込められていたのでは、気持ちまで暗くなってしまう。
ユウはラビアの申し出を受ける事にした。
フィルスやラインラも含めて相談した結果、朝市に行くくらいなら構わないという事になり、翌朝、南街区の朝市に行く事で話しはまとまった。
昼間や夜よりも朝の方が安全だという事らしい。
確かルティナが攫われたのは朝だったはずなので、そんな事はないのではないかという思いもユウの中には有ったのだが、それを言うと揉めそうに思えたので、言わない事にした。
どんな時間帯に何処へ行くにしろ、ユウがしっかり見てさえいればいいと思ったからだ。
この点に於いては、実際、フィルスは少し神経質すぎるきらいがある。
閉じ込めれば閉じ込める程抜け出したくなるものだし、そもそも、館の中にいれば安全だ、とは限らないと思うからだ。
尤も、用心は必用だし、現王の手の者が何処で見ているかわからない以上、目立つ事は避けなければならない事もまた間違いないが、とはいえ、この街に人さらいが横行しているなどと言う話は聞いていない訳で、フィルスの心配は少し度が過ぎていると言わざるを得ない。
フィルスにしてみれば一度ルティナを攫われている訳で、過剰に心配してしまう気持ちもわからなくはないのだが…。
ともあれ、結局ユウが一緒という条件付きで、二人は外出する事を許された。
それくらいの事で外出する事が出来るのなら、フィルスかラインが一緒に外出してあげればいいような気もするが、聞けば最近二人はかなり忙しくしているようで、なかなかそういう機会を設ける事が出来ない状況だったらしい。
つまり、今回のこの提案はフィルスにとっても渡りに船だったという事だ。
翌朝、朝早くにユウはアテルとラビアを連れて館を出た。
もちろん、フィノも一緒だ。
早朝の為眠いのか、口数が少ない二人を横目に歩いていくと、バーランド家の敷地を抜けた所で、アテルが大きく息を吐いた。
「ふう、久しぶりに外の空気を吸う事が出来るよ。全く、父上は心配し過ぎなんだ。僕らの事ももう少し信頼して欲しいよ」
やはりアテルにも不満は溜まっていた様だ。
とはいえ、館の中ではそれを口にする事は出来なかったようではあるが…。
「まあまあ、ルティナの事もあった訳だし、フィルスが心配するのも仕方がないんじゃないかな」
「だからと言って、ずっとあの館の中に閉じ込められていたら、おかしくなっちゃうよ。ルティナ姉さんだって今はもう自由にしているんだし。ね、そうなんでしょう?ユウさん」
「うん、そうだね」
ユウはアテルにおざなりな返事を返した。
実は、この朝の段階で、ルティナとアーダには未だ連絡がついていなかった。
そろそろ心配な気持ちも募って来ていないでもなかったのだが、ユウ達はユウ達が飛ばされた場所からこの街までかなり順調に来れた訳で、二人が街道から遠い場所に飛ばされていた場合は、当たり前にもっと時間がかかるはずだと思い、今はまだ待っているより他仕方がないという事になったのだった。
ふと見ると、アテルがこちらを睨んでいる。
ユウの反応を訝しんでいる様だ。
ユウは急いで言葉を付け足した。
「…でも、だからと言って君達の事をフィルスが心配しない理由にはならないんじゃない?」
「まあ、心配なのはわかるんだけどさ」
ユウの言葉に、アテルはそう言って視線を外した。
恐らくはアテルも自分達の置かれている状況くらいはわかっているのだろう。
だからこそ、普段は年下のラビアを宥める役に回ってくれているのだ。
とはいえ、アテルにも不満が溜まっている事は間違いなさそうだ。
しかも、それをぶつける相手もいないのだろう。
ふと振り返って見てみると、後ろではフィノがラビアと手を繋いで話している。
ラビアの表情は館の中にいた時よりも随分と明るくなっているように見える。
ユウはせめてこの外出の間だけでも二人に開放感を感じさせてあげたいと思うようになっていた。




