もう一つの声
紫色の光の欠片が消えていくのをゆっくり見送り、ユウはベーデに手を差し伸べた。
ベーデは蔓に弾かれた所為か、だいぶぐったりしている。
ベーデがそんな風になったのはユウが無茶をした所為だともいえなくもない。
『大丈夫か?』
ユウがベーデの身体を支えると、その手にベーデの重みが掛ってくる。
ベーデが身体を預けて来た証拠だ。
それなりに信頼してくれている事が伝わってくる。
『大丈夫です。このくらいの事、私にとってはなんという事もありませんわ』
明かな強がりに、ユウは苦笑いしてベーデの背中を撫でてあげた。
そこへメリンとエリスもやってくる。
ユウがベーデを撫でていた手を除けると、二人はベーデを両脇から支えるようにしてユウの掌の上に立った。
ユウは片手では窮屈だと思い、もう片方の手を添えて足場を広げた。
「ありがとう、皆さん。皆さんのおかげで私たちは自由になる事が出来ました」
メリンが口に出して感謝の気持ちを伝えてくる。
驚いたことに、その言葉は最初に聞いた精霊の言葉ではなく、ルティナ達が話す人間の言葉だった。
それはユウだけではなく、ここにいる全員に気持ちを伝える為である事は明らかだった。
「ひゃあ、あなた達って、しゃべる事が出来るのね。可愛い…」
「本当、美人の小人さん達と、こうして話をする事が出来きるなんて、光栄だわ」
フィノもルティナも驚いている。
アーダも含め、三人ともどこか嬉しそうだ。
今までは眺めているしかなかったので、会話ができる事が嬉しいのだろう。
とはいえ、下手な話をしてはいけない事はユウから聞いて知っている。
なので、三人ともあまり余計な事は言わないでいる。
「あなた達、これからどうするつもりなの?」
フィノが短く問いかける。
メリンはそれに微笑みを返した後、ユウに近づき頭を当てた。
『その質問には念の為、この方法で答えておきますね。だから、他の皆さんにはユウの方から伝えておいてください』
エリスとベーデもユウの側へと寄ってきて頭を付ける。
その様子を横目で見つつ、メリンは続けた。
『私達はキウル様を探す旅に出るつもりです』
エリスとベーデもそれに続ける。
『けど、その前に一旦自分達の持ち場に戻るつもり』
『もしかしたら私達に悪さをしたモノの手掛かりが残っているかもしれませんからね』
『そうか、君達は其々別々の所にいる所を拘束されたのだったっけ』
そういえば、話しの中でそんな話をされたような記憶がある。
『そうです。その場所は私達がキウル様から任されていた場所なので、放って行く訳にもいきません。尤も、もしかしたらもう意味が無くなってしまっているかもしれませんけど、それでも、ともかく一旦戻るつもりでいます』
『という事は、君達とはここで別れる事になるね。なら、俺達は別の声を…』
と、言いかけたところでユウは気が付いた。
今度こそ彼女達を助け終ったはずなのに、あの時聞こえたあの声はまだ頭に届いて来ていない。
尤も、その声の主も常に声を発している訳ではないのだろうから、すぐに聞こえてこなかったとしてもおかしな事とまでは言いきれないのだが、しかし、その声の主が既に誰かに助けられているのでなければ、まだ助けを求め続けていてもおかしくないはずなのだ。
ユウは声を聞く事に意識を集中させてみた。
と、途端に声が聞こえ出す。
『誰かー、誰か私を助けてください。誰かー』
透き通った高い声、女性の声だ。
あの時の声に間違いない。
ユウはメリン達から頭を離し、声のする方向を見つめた。
その行為にフィノがいち早く気が付いて反応する。
「ユウ!」
「フィノ、どうやら…そうみたいだ」
フィノがすぐにユウの視線の先を確認する。
声がするのは、最初に通った門を挟んで、その門のほぼ向こう側に当たる場所だ。
その方向を確認し、走り出そうとしたフィノだったが、しかしすぐにそのモーションを解いた。
「やっぱダメ。私じゃわからないかもしれないし…」
確かに、メリン達の時と同じような状況である事も考えられない事ではない。
言われてみれば、声の感じも、メリル達の時と似通っている様にも思えてくる。
という事は、今度の声の主もどこか普通ではない場所に閉じ込められている可能性が否定できない事になる。
「わかった。俺が先頭で行く事にするよ」
その言葉を聞き、メリンがまたユウの目の前へと進み出た。
『何かご用が出来たみたいですね。私達もそれぞれここから移動しますので、それならここでお別れになりそうです。その前に三人を代表して私からもう一度お礼を言わせてください。…ユウさんと皆さんには本当に感謝しています、ありがとうございました。それと、…頑張ってください』
メリンが頭を下げるのに合わせ、他の二人も頭を下げてくる。
そして、頭を上げるとメリンはユウに道を開けるようにユウの横に移動した。
『ああ、君達も頑張ってね』
ユウは一列に並び見送ってくれている三人の横を、軽く手を上げ通り過ぎた。
フィノ達三人も、精霊たちに手を振りながらユウの後ろについてくる。
メリン達のすぐ横を通り抜けると、ユウは少しスピードを上げた。
意識を新しい声の主へと切り替える。
メリン達のこの後の動きも気にならなくはないのだが、今はやはりこの声の主の方を優先するべきだろう。
少し走ると森がなくなり、目の前が大きく開けた。
その先には大きな門が立っている。
此処へ来る時に通った縦に細長い大きな門だ。
ユウはその門の前を駆け抜けると、声の気配を追いかけて反対側の森の中へと突入していった。




