謎の空き地
人為的な匂いのするその石は、表面がまるで研磨剤か何かで磨かれているかのように綺麗で滑らかだった。
どう見ても自然の造形とは思えないものだ。
ユウがその石に見入っていると、ルティナの身体の前へと回していた腕がルティナに強く揺すられる。
「ユウ様、見てください」
「ああ、もう少し詳しく見てみる事にするよ」
そう言ってユウは、馬から降りようとしたのだが、ルティナがユウの腕を強く掴んだまま放そうとしなかった為、そうする事は出来なかった。
「ルティナ。ちょっと降りて見て来るから、放してくれない?」
少々強引に腕をほどこうとしてみるが、それでもルティナは放さない。
逆に、少し強い口調で言い返してくる。
「違います。そっちではありません。前を見てください」
「えっ?」
そう言われて顔を上げるが、正面にはこれまでと同じ、一メートルほどの高さの滑らかな岩の壁があるだけだ。
いや、今までの岩とは何かが違う。
そう思いよく見て見ると、この湾の中の岩は、他の湾の岩と違って、まるで何かに切り取られたかのように、垂直に切り立っている事がわかる。
しかも、湾の形も、足元の石を中心に、ほぼ円形のきれいな弧を描いている。
いったいどういう事なのだろう?
思考に入りかけていたユウの頭をルティナが再び引き戻す。
「アーダが呼んでいます」
見ると確かにアーダがユウを手招きしている。
ユウはとりあえずアーダの側まで行ってみる事にした。
そして、アーダが指差している湾の奥の、とある一角へと目をやった。
始め、ユウの目には特別なものは何も見えなかった。
無論、他とは異なる垂直に切り立った岩、というのは珍しいものであるとは思うのだが、それはこの湾の全周に及んでいる為、それがアーダが見せたい物だとは思えない。
では、アーダは何を見せたいというのだろうか?
少々疑問に感じつつ、さらにアーダの側へと一歩近づいてみると、アーダの指差すその先に、突然通路が現れた。
先程までは確実に見えなかったので、奥まで進まないと見えない様に細工が施してあるものと思われる。
その通路がどこに続いているのかは、ユウの位置からは全く見えない。
ただ、どこかに続いている事は間違いなさそうだ。
「行って…みようか?」
何となく言ってしまったその言葉にアーダがすぐに反応する。
「よし、わかった」
そして、もうユウの方を振り向く事なく、アーダは迷いなく進んでいく。
「ちょ、ちょっと待ってよ、アーダ。あまり一人で先行しないで」
「別にそんなに神経質になる事もないだろ。仮にこの先に魔獣か何かがいたとしても、その時はやっつけるか、さもなければ戻ればいい。だから、問題ない」
アーダの言う事も尤もだとは思うのだが、この先に仮にそんな危険があるのだとしたら、行きたくないという思いもユウにはある。
が、アーダは既に通路の入口近くまで行ってしまっている。
「ユウ様、早く追いかけないとアーダが見えなくなってしまいますよ」
「行きましょう、ユウ」
二人に促され、ユウもアーダを追いかける事にした。
アーダは後ろの事など構わずに、通路を奥へとどんどん進んで行っている。
ユウもアーダを追って通路に入った。
通路の壁も、湾の壁と同様、ほぼ直角に切り立っていた。
そのいかにも人工的な不思議な通路を進んで行くと、両側の壁は進むにつれて次第に高くなっていき、最終的には馬の上の人の頭よりも少し高い位の高さにまでなっていった。
この通路に入ってすぐの頃は、岩越しに草原の様子も見えていたのだが、今は岩の陰に隠れてしまい、岩の向こう側は全く見えなくなっている。
つまり、草原側から見ても、この場所は死角となっている場所だという事になる。
そんな通路をしばらく行くと、突然大きく視界が開ける場所に出た。
そこは通路に入る前と同じ、いや、今来た通路以外には出入り口がない事を考慮すると、通路に入る前の湾よりもさらに完全な円に近い、きれいな円形の空間だった。
大きさは通路に入る前の湾とほぼ同じ位の大きさで、壁の高さは2メートル強。
その為視界は利かないが、天井がある訳ではない為、意外に開放感はある。
そして、地面には一面に草がびっしり生えている。
今来た通路の向こう側とは周りの岩の高さこそ違うものの、他はほぼ同じような場所だと言っていいだろう。
そこには小屋などの建造物は何もないし、人や魔獣、動物なども、全くいない。
奇妙な岩が周りを円形に囲んではいるものの、中は、言ってみればただの空き地という感じの空間だ。
ユウはアーダの後ろに付いて、その空き地の中へと入った。
後ろからはフィノも付いて来ている。
少し行った所で、ユウは見覚えのある物を見つけた。
円形の空間のほぼ中心に当たるその場所にあったのは、通路に入る前に見つけたあの人工的な匂いのする表面の滑らかな石と、大きさも形もそっくりな円筒形の石だった。




