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草原の岩場

草原は思ったよりも長く続いていたようで、いくら進んでも全く終わりが見えてこなかった。

なかなかの速度でもう丸一日近く走っているにもかかわらず、そこから見える風景には変化があまり見られない。

目印にしている山頂に雪を頂く急峻な峰々も、なかなか近づいて来る気配がない。

草原がうねっている所為で、さすがに前に進んでいる事だけはわかるのだが、それが無ければその場で足踏みでもしているのではないかと錯覚してしまいそうになるくらいだ。

そんなうねりの一つを通り過ぎ、上りから下りに差しかかろうという所で、しばらく先行していたフィノがスピードを落とし、ユウが乗っているルティナの馬の横に並びかけてきた。


「ねえ、ユウ。もうそろそろ今日眠る場所を探しにかかった方がいいんじゃない? 今日中に草原(ここ)を通り抜けるのはもう無理みたいだし、こんな所だから、夜を過ごすのに適した場所もなかなか無い様な気がするのよね」


ほぼ時を同じくして、反対側にアーダも並ぶ。

「向こうにおおきな岩があるのが見えるぞ。どうする? 行ってみるか?」


この辺りはだだっ広い草原なので、三頭でも楽に並ぶ事が出来ている。

アーダが右手の槍で指し示しているのは、進行方向のやや右側、北東方向に当たる場所だ。


「俺の目には何にも見えないけど、そこに岩があるのなら夜露をしのげる場所くらいあるかもしれないし…、じゃあ、行ってみようか」

進行方向から大きく外れるようでは困るのだが、さほど外れる訳でもない場所だし、さして遠回りになる訳でもない。

それに、その場所を逃したら次は何処にそういう場所があるかわからないという不安もある。

フィノも小さく頷いているので、フィノにもその岩が見えているのだろう。


ユウがそちらに向きを変えると、フィノが再び速度を上げて前に出る。

「わかったわ。みんな、私の後ろについてきて」


フィノはまた先頭を行くつもりでいるようだ。

何かあった時に、真っ先に対応する事が出来る先鋒の位置にいたいという事なのだろう。

その後ろにアーダが続く。

ユウもアーダの後ろを追いかけていく事にした。


軽く馬を急がせつつ、一列になって進んで行くと、少ししてユウの目にも大きなドーム状の岩が見えてきた。

更に進むと、最初はその岩が一つだけあるように見えたその辺りには、小さな岩が幾つも転がっている事がわかってくる。

遠くからは一様に短いように見えた足元の草も、所々意外に背が高くなっている場所がある。

その所為で小さな岩などは、遠くからは見えなくなっていた様なのだ。


すぐにその岩場の一角へと差し掛かる。

近づいてみると、ドーム状の岩は思っていたよりも遥かに大きい岩だった。

ちょっとした丘くらいの大きさがあるように見える。


しかし、岩の表面はゴツゴツとしているものの、鋭利に尖っているという訳でもない。

どこかに一夜を過ごすのに都合の良い場所の一つくらいはありそうだ。


ふと気が付くと、ルティナがユウの腕の中ですっかり大人しくなっている。

上半身が軽く感じるようになったのは、ルティナが身体を預けて来なくなっていた所為だったようだ。

しかしこれは、これまでしばらくの間、ずっとルティナの身体を支えていたユウからしてみれば、違和感の伴う行為でもあった。

そんな事もあり、ユウが目の前のルティナに意識を向けると、ルティナは身体を前傾させ、まだかなり距離がある正面の大きな岩を見つめている。


「どうしたの?」

ユウが声をかけても反応しない。

さすがにこれは様子がおかしい。


ユウは、ルティナの身体を軽く揺すりながらもう一度声をかけてみた。

「おい、ルティナ、どうした?」


すると、ルティナは唐突に前傾させていた身体を大きく起こした。

その後頭部が、前かがみになっていたユウの顔にまともにぶつかる。

「痛っ」


「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?ユウ様」

自分もかなり痛かったはずなのだが、ルティナは真っ先にユウの身を案じ、振り返った。

だが、ユウに怪我があった訳ではない。ただ少し痛かっただけだ。


それよりもその反応の方が気にかかる。

「だ、大丈夫だけど、どうしたのさ、急に」


すると、ルティナは、はっと何かを思い出したような表情になり、少しばかり切迫した声で言ってきた。

「この先に、何か良くないモノがいる気配が有ります。私に弓を渡しておいてください」


ルティナを前に乗せるに当たり、ユウはルティナの弓を預かり背負っていた。

それを渡せという事は、それだけの危険を感じたという事だ。


「なら、フィノとアーダにも伝えないと」

「大丈夫です。二人とももうわかっているみたいですから」


見ると、フィノも剣を抜いていて、アーダも槍を構えている。

だが、ユウからしてみれば、危険を感じる場所ならば、近づかないのが一番良い。


この時、ユウは背中にルティナの弓の他に大地の盾も背負っていた為、ルティナに弓を渡すのに少々面倒な作業が必要だった。

一時(いっとき)その行為に集中し、何とか弓を取り出したところで、話を続ける。

「戻った方が良くないかな?」


その言葉が聞こえたらしい前の二人が振り返る。

「ユウ、ごめん。戻るには少し遅かったみたいなの」

「申し訳ない、あたしの所為だ。だからあたしが何とかする」


そうこうしている間に、ルティナもユウが取りだしたばかりの弓を奪う様にして持って行く。

相手が何かはわからないが、ユウはもうすっかり危険地帯に入ってしまっていた事を実感せざるを得なかった。

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