小競り合い
翌日、ユウは予定通りに北へ向けて小人の村を発った。
昨晩はデハルと随分話し込んでしまったが、同時刻、他の三人も小人達とそれぞれいい話が出来た様なので、少々予定外ではあったものの、村に一泊余計にする事になってしまった事は、結果的に良い事だったと言えそうだった。
出発の前にバウジフから、北へ行くのならいずれ馬は使えなくなる、という情報も聞いていたのだが、そこまで行くだけでもかなり距離があるという話だったので、出来る所まで行って、そこで馬は放してやる事にして、そこまでは馬で行く事に決めた。
といっても、馬は三頭しかいない訳で、誰かが二人乗りをするしかない。
アーダの身体が以前の様に小さければ、今まで同様、ずっと二人乗りをしていてもさして問題なかったのかもしれないが、ユウよりも大きいくらいに成長?してしまっている今となっては、特定の馬ばかりに負荷をかける訳にもいかない為、三頭の馬を乗りついでもらうしかない。
という約束をした上で、アーダは初めユウの馬に乗せる事となった。
が、まだ村を出てすぐの低い木の森を出る前に、さっそくフィノがクレームをつけてくる。
「ちょっと。アーダ、いくらなんでもくっつきすぎだと思うんだけど」
アーダが必要以上にユウの背中にくっついている為だ。
形の良いまるい大きなふくらみが、ユウの背中で潰されて、大きく変形しているのがわかる。
「あら、そう? でも、途中で落ちたりしたら大変だから仕方がないんじゃない?」
しかしこれはアーダがわざとやっている事だった。
ユウに対するアピールのつもりなのだ。
これが以前のアーダならば、フィノもルティナもそれほど気に留めなかったのかもしれないが、今やアーダは何処から見ても抜群のプロポーションを持つ美女だ。
艶っぽさで言えばフィノやルティナを遥かに凌駕している。
露出度の高い薄い紫色の肌は、以前とは比較にならない程滑らかで、思わず触って見たくなるほどさわり心地が良さそうだ。
だからこそ、ルティナもそこに加わらざるを得なかった。
「そこまでくっつかなくても、落ちる事はないと思いますけど」
「そうかな? あたしには難しいみたいなんだけどな」
アーダはルティナの言葉を軽く受け流し、更に体を密着させている。
華麗なる変身を遂げて以降のアーダは、ユウに対するアピールが激しくなっていた。
昨夜も、ユウの隣に強引に割り込んできて、フィノとルティナの定位置を奪ったくらいだ。
昨日はアーダが復活した初日という事で二人が引き下がったものの、いつまでも引き下がっている訳にもいかないという思いもある。
「ユウも何とか言ってよ」
フィノがユウに話を振る。
それに重ねる形でルティナも言う。
「そうですよ。病気や怪我があるのなら仕方がないかもしれませんが、どう見ても今のアーダは健康そのものなのですから。アーダも自粛してください」
「そうそう、私たちだって我慢しているんだから」
低い木の森は今や完全に小人の結界の中なので、魔獣に襲われる事も無いはずなのだが、かと言って三頭の馬が並んで歩ける程のスペースがある場所はあまりない。
なので、フィノとルティナは代わる代わるユウの馬に並びかけるようにして抗議してくる。
ユウは返事に困っていた。
と言うよりも、どうしても背中に意識が行ってしまう為、思考が上手く働かないのだ。
ユウが何も言えないでいる間に、アーダが更に胸を押し付けてくる。
強く圧迫されている割に、柔らかな感触ははっきり伝わってきて、これが意外と気持ちいい。
それに加えて、小さなギャップを飛び越える瞬間を狙い、身体を左右に揺らせたりするので、余計にそちらに気を取られる。
「こら、どさくさに紛れて胸を擦り付けるなっ」
フィノに怒鳴られても、アーダは全く堪えていない。
逆に二人に言い返している。
「あら、フィノもルティナも私がユウの女になる事、認めてくれたんじゃなかったの?」
アーダは当然の権利だとでも言いたげだ。
確かに、アーダの同行を認める時、フィノもルティナもそれを認めるような言動をした。
が、あの時ユウははっきりそうとは言わなかったはずなのだ。
その時のユウの言葉を思いだし、フィノがアーダに言い返す。
「そんな事を言うのなら、あの時ユウはアーダが成長するまではって言っていたはずよ。だったらもういいんじゃない? 胸なんか充分すぎるくらいに成長したみたいだし」
最後に一言つけ加えたのは、フィノがそれだけ熱くなっている証拠だ。
しかし、アーダはその言葉に触発されたのか、さらにぐりぐりとユウに身体を押し付けてくる。
「だから、それはやめなさいって言っているの!」
「ユウ様も何か言ってくださいよ!」
二人の声のボルテージが更に上がってくる。
ここまで来ると、いくら背中に甘美な感触があるからと言って、それに流され黙っている訳にはいかなくなる。
首だけで後ろを向くようにしてアーダに注意する。
「アーダ。ちょっと離れて」
すると、アーダはその言葉に従いすぐに身体を離した。
しかし、少し身体を離した後、すぐに元の体勢に戻るとユウに寄り掛かる様にして頬を摺り寄せる。
「はい、離れた」
「こら、いい加減にしろ」
我慢できずにフィノがアーダに手を伸ばす。
そして、アーダの肩をグッと掴み、ユウからアーダを引き剥がすべく後ろに向けて強く引いた。
アーダの身体が斜めに傾ぎ、それにつられてユウの身体も後ろに大きく傾く。
「アーダ、ふざけないで。フィノも少し落ち着いて」
「わかりました」
そう言ったのは、フィノでもアーダでもなく、この時は後ろに下がっていたルティナだった。
思わずフィノの手が止まる。
「何言ってるの、ルティ」
ユウもその場で馬を止めルティナの事を振り返った。
ルティナはユウを真っ直ぐに見つめている。
「いえ、私、心の中に何でモヤモヤがたまって来るのか考えてみたのです。だって、フィノもそうだと思いますけど、さっきアーダが言ったとおり、私達はユウ様に何人女性がいても平気だと思っていたのですもの。そう考えればこの程度の事でモヤモヤするのはおかしいじゃないですか」
「だからと言って…」
フィノが不満げに何か言おうとする。
ルティナはそれに強引に言葉をかぶせた。
「最後まで聞いてフィノ」
そして、フィノが黙るのを確認し、先を続ける。
「…でも、ユウ様が特定の女性だけ可愛がるとなると話は変わって来るのです。だからきっと私もフィノもモヤモヤが消えないのだと思います」
ユウが慌てて言い訳する。
「俺は別にアーダだけを特別扱いしているつもりはないはずだけど」
実際、ユウにはそういう意図は全くなかった。
ただアーダに迫られるのを拒みきれないでいただけだ。
「そうかしら、私達がそうやってくっついた時には微妙に距離を取って逃げるじゃない」
「それ以前に、アーダが復活して以降は、私とフィノはユウの隣にいる機会がめっきり減りました。不公平だと思います」
二人がこれだけ怒るのは珍しい。
ユウはアーダが迫って来るのに任せて受け入れていた事を反省した。
アーダはついこの間まで子供の姿だった事もあり、ついつい甘やかせてしまっていたようだ。
と言うのは建前で、以前よりも遥かに美しくなったアーダに密着され、いい気になっていたのかもしれない。
「わかった。気を付けるよ。…ということで、アーダ、もう少し離れてもらえないかな」
ユウはアーダの身体を押し返そうとしたのだが、それでもアーダはなかなか離れようとせず、逆に力任せにくっついて来ようとする。
軽い揉みあい状態になっているユウにルティナが冷静に声をかける。
「いえ、ユウ様。そうではありません。いくら言っても多分アーダはやめないでしょうから。それよりも、ユウ様、その馬はアーダの馬という事にして、ユウ様が定期的に馬を乗り継ぐようにしてください。そうすれば、私やフィノとももっと親睦を深める事が出来るようになると思うのです」
そうする事でフィノやルティナもユウとアーダと同様のスキンシップがとれる、つまりはルティナのいう所の不平等が無くなると言う訳だ。
「わ、わかった。ルティナの言う通りにするよ」
自分がたらい回しにされるようで、何とも微妙な気持ちにはなるものの、ユウとしてはその提案を受け入れるより他に選択肢はなかった。




