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『お前、勝つ気あんのかよ!』とあの娘は叫んだ。(五・四)

「コースケ君といい、忍ちゃんといい、上尾の連中は化物か」

 浩介とコジローは、通信対戦の麻雀コーナーにあるベンチに座っている。

 向かいのレトロコーナーでは、忍が連勝を続けている。

『大宮KILALA』の連中相手に無双状態だ。

 浩介が絶好の対戦の場を離れたのは、コジローから「話がある」と言われたからだった。

 憧れのトッププレイヤーと一対一。緊張からか口の中が乾く。

 浩介は、バッグからペットボトルを取り出した。

「それ、自前でしょ?」

 コジローの言う通りだ。

 忍が自前で珈琲を持ってきているのを真似て、浩介も自家製の麦茶を持ち歩くようにしている。 それで二回多くゲームが出来る。

「俺も高校ん時、スポーツドリンク持ち歩いてた。夏はぬるくってまずいんだよな」

 ぬるくて不味いはずの麦茶を、コジローは羨ましそうに見つめる。

 昔を思い出している。そういう眼だ。

「うちの近所五十円のゲーセン無くってさ。五百円持ってチャリで一時間ぐらいかけて五十円のゲーセン行ってさ。着いてすぐ、超強いやつに乱入されて、ボッコボコにされて。すぐ金無くなって、また、一時間チャリこいで帰るの……楽しかったなぁ」

「ボコられてたのにですか?」

「うん。それだけ好きだったんだろうね。格ゲー。好きなのは今も変わってないけど……」

 ちょっと意味が違っちゃってる。というようなことを言って話を締めくくった後。

 コジローは、真剣な表情で本題に入った。


「コースケ君、誰にスパⅢ教わった?」

 誰に教わったといわれても困る。

 誰かに勧められてはじめたわけではない。

 中学一年の時につまらないことで野球を辞め。家でぶらぶらしていた時に、父がやっている工務店で働いていたなおさんから、ドリームボックスという古いゲーム機とスパⅢをもらった。 やることがないからそれで遊んでいた、それだけのことだ。

 はじめに遊んでくれた直さんを師匠と呼べなくはないが、浩介がスパⅢを本格的にやろうと思い始めた頃、直さんは、石浜工務店を辞め海外に行ってしまった。何かを教えてもらうほど一緒にプレイしてはいない。直さんとのスパⅢはただ、楽しかったという思い出しかない。

「その直さんって、すっげー強くなかった?」

「いえ、そうでもないです。コンボも出来ない俺といい勝負でしたから」

「そうか。ワンチャン、ムサシの弟子まであると思ったんだけどな」

 浩介は、紅白の最後にコジローが言っていた言葉を思い出した。

『水曜日に、お前のホームで待ってる』

 コジローとリリィさんはムサシに会いにロッキーに来たのだ。

 ムサシが海外に行く前にこの辺に住んでいたのは間違いないだろう。

 この辺に住んでいて、その後海外に行ってしまったのは直さんも同じだが……。

「ありえないです」

 あの人は、そんなに強くないし、日本に帰ってきたという話も聞かない。

 コジローはまだ、に落ちないという風に言葉を続ける。

「似てるんだよな、コースケ君も忍ちゃんも。『ジャイアントスピアー』を移動に使うとか、いずなの『どろん』を戦術に組み込んでくるところとか。そういう発想とか相手の行動の読み方とか二人とも凄く、あいつっぽい」

 あいつとはムサシのことだろう。

 もう一つ浩介の心に引っかかったものがある。

 ガン攻めの忍と、ガンガードの自分が似ているとコジローは言った。神に近い男の考えることは良くわからない。

「ムサシさんって、どういうプレイヤーなんですか?」

 浩介の質問にコジローは、嬉しそうな顔で語り始めた。

「一言で言いにくいんだよな。読みが強いとか、コンボ精度が尋常じゃないってのは当然あるんだけど……そういうところじゃないんだ。とにかく負けないんだよ。いい勝負をした上で必ず勝つ。いつも、ちょっとだけ相手より強い。そういう感じかな?」

「コジローさんよりも?」

「強い。俺でも一引けなかった。俺だけじゃない、誰も一引いてない。野試合は別だけどね」

 一引けないは、十回やって一度も勝てない。要するに全く勝てないという意味だ。

 誰も一引けないということは、ムサシは大会で一度も負けてないということだ。

「使ってるキャラはやっぱりリンですか?」

 そこまで強いなら、最強キャラを使っているに違いない。

 浩介の予想に反して、コジローは首を横に振る。

「拳治。一番、格好いいからだってさ、あいつ見た目でキャラ決めるからな」

 とんでもない話だ。

 強キャラではない拳治で、大会勝率十割というのが本当なら神だ。

「どうやったら、そこまで強くなれるんですか?」

「俺も、気になって聞いたことあるんだよ……そしたらね」

 そこでコジローは一旦言葉を止め「参考にならないぞ」と前起きしてから。

「拳治の言うとおりにレバーとボタンを動かすんだってさ。声が聞こえるんだって」

 意味がわからない。ゲームと会話できるということか?

「……多少、可愛そうな人なんですね」

 浩介がいうと、コジローは「そうなんだよ」と笑ってから。

「じゃぁ、忍ちゃんにも聞いてみるかな」

 コジローが立ち上がるのを、浩介は言葉で止める。

「待ってください」

 コロシアム出場を目指している忍にとって、今は宝物のような時間だ。その時間を取られたくない。それに忍がムサシを知っているはずがない。

「あの娘、ムサシさんに会ったこともないはずです。一週間前までドバイに居たんですから」

「ドバイ? ドバイって、金持ちが行くリゾートがあるところ?」

「そうです」

「ワンチャン、なかったか」


 コジローはベンチに座りなおし、力なくうなだれた。よほどムサシに会いたいのだろう。

「あの、コジローさんは、ムサシさんの連絡先とか知らないんですか?」

「俺ら仲悪いから。っていうか俺が一方的に噛み付いてるんだけど。俺はあいつのこと永遠のライバルだと思ってるから、連絡先も本名も知らない。知ろうとも思わない」

「え? でも、日本に帰ってきたのは知ってるんですよね?」

「それはホークに聞いた。あいつら大学一緒で仲がいいんだ」

 それなら、話は簡単だろう、ホーク先生にムサシの連絡先を聞けば済むことだ、今連絡先を聞いてムサシに連絡をすれば、近くなら来てくれるかも知れない。そのことをコジローに告げると。

 コジローはなぜか顔を赤くして。

「……ムサシに会いたいから、連絡先教えろなんて、恥ずかしくって言えねえよ」

 横を向いた。複雑な男心なのだろう……正直ちょっとキモイ。

「じゃぁ、リリィさんに聞いてもらえば?」

 浩介の新しい提案もコジローは無理だと受け入れなかった。

「土曜の紅白でリリィ、ホークに勝ったじゃん? ホーク負けたやつと一週間は口利かない」

 軽く、眩暈めまいがした。

 スパⅢプレイヤーは小学生の集団か? みんな子供っぽ過ぎる。


「もぉっ! 適当に五式ぶっぱしてるだけじゃん。そういうゲームじゃねぇからこれ!」

 レトロゲームコーナーで、苛立ちの声を上げたのは忍だ。

 とうとうリリィさんに事故られたらしい。

 形のいい眉が釣り上がっている、滅茶苦茶機嫌が悪そうだ。

 あそこにも、女子高生の形をした小学生が居る。

「やったぁ! ラスボスぶっ倒した。俺の進化が止まんねぇぇぇぇっ!」

 入り口の筐体で叫んだトシはいつも通り。

 普段から、小学生が制服を着て歩いているような男だ。

 忍と同じで一五六センチしかない。因みに浩介は一七二センチ。身長も平均的だ。

「さて」

 気分を変えるように、コジローが立ち上がる。壁の丸時計を見た。

 まだ、十時までは二十分ちょっとある。

「忍ちゃん呼んでおいで」

「あ、でも、こんなに対戦できる時滅多にないし」

 浩介が断ろうとすると。コジローはにやっと笑って。

「二人まとめて瞬で相手してあげるよ。かかって来な」

 瞬の挑発と同じポーズをする。

 浩介は急いで忍の元に駆け寄った。

「こうちゃん、ゲームセンターで走るんじゃねぇ」

 笑いながら言った須藤の爺さんは、とても嬉しそうだった。



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