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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第156章 土曜日の朝

土曜日の朝。


林夏は目を覚ますと、窓の外を見た。


晴れている。


雲は少ない。


「よし」


今日は灯台へ行く日だった。


万事修理店へ向かう。


店の前に着くと、月白がすでに待っていた。


「おはようございます」


「おはよう」


月白は鞄を持っている。


中には、先日買った旅行の本が入っていた。


「晴れましたね」


「うん」


「行けそうです」


「行こう」


二人は駅へ向かった。


電車に乗る。


土曜日の車内は平日より少し混んでいた。


月白は窓の外を眺めている。


町の景色が少しずつ変わっていく。


建物が減る。


緑が増える。


やがて海が見えた。


「海です」


「見えたな」


月白の声が少し明るくなる。


目的の駅で降りる。


そこから歩く。


旅行の本に書かれていた道を確認しながら進む。


「こっちです」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶんか」


「間違っていたら戻ります」


「それでいい」


しばらく歩く。


小さな商店街を抜ける。


坂道を下る。


潮の匂いが強くなる。


そして。


灯台が見えた。


白い建物が、海を見下ろしている。


月白は立ち止まった。


「……着きました」


「うん」


「思ったより大きいです」


「写真より?」


「はい」


二人は灯台の近くまで歩いた。


海から風が吹いてくる。


月白の髪が揺れる。


「来てよかったです」


林夏は頷いた。


「俺も」


灯台の周囲を歩く。


観光客は少ない。


ベンチに座る。


しばらく二人とも何も話さなかった。


波の音だけが聞こえる。


月白が旅行の本を開く。


「ここに来た理由、書いてあります」


「何て?」


「昔、この灯台から見える海を目印にしていた船があったそうです」


「へえ」


「道に迷った人が、帰る場所を見つけるための灯りだったみたいです」


林夏は海を見る。


「じゃあ、帰る場所を教えるんだな」


「はい」


月白は灯台を見る。


「でも、どこへ帰るかは、その人が決めるんですよね」


「そうだな」


月白は笑った。


「それがいいです」


昼。


海沿いの小さな食堂に入る。


二人で魚料理を注文する。


林夏は追加でご飯を頼んだ。


「食べますね」


「せっかく来たから」


「灯台を見るより、食事のほうが楽しそうです」


「どっちも楽しみ」


月白は笑った。


食事を終える。


店を出る。


海岸を歩く。


月白は小さな貝殻を拾った。


「綺麗です」


「持って帰る?」


「どうしようかな」


しばらく眺める。


「今日は置いていきます」


「いいの?」


「はい」


月白は貝殻を元の場所に戻した。


「持って帰らなくても、見たことは消えませんから」


林夏は何も言わずに笑った。


帰り道。


駅へ向かう途中、小さな売店があった。


月白が足を止める。


「林夏」


「ん?」


「これ」


店先に、灯台を描いた小さなキーホルダーが並んでいる。


「買う?」


「……はい」


月白は一つ選んだ。


白い灯台と青い海が描かれている。


「今日の記念です」


「いいな」


林夏は少し考え、自分も一つ選んだ。


月白が驚く。


「林夏も?」


「俺も今日来たから」


二人はそれぞれキーホルダーを買った。


駅へ向かう。


電車に乗る。


帰りの車内では、月白が少し眠そうにしていた。


「眠い?」


「少し」


「寝ていいよ」


「でも……」


「起きたら駅に着いてる」


月白は少し迷ってから、窓側に寄りかかった。


しばらくして。


月白の頭が林夏の肩に触れた。


林夏は動かなかった。


電車が揺れる。


月白も起きない。


しばらくして、月白が目を覚ます。


「……すみません」


「何が?」


「寝ていました」


「うん」


「肩……」


「別に」


月白は少し恥ずかしそうに笑った。


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


駅に着く。


夕方。


二人はいつもの駅で降りる。


「今日は楽しかったです」


「俺も」


「また行きたいです」


「今度はどこ?」


月白は少し考える。


「まだ決めません」


「いいよ」


「でも」


月白は自分の鞄についた灯台のキーホルダーを見る。


「また、どこかへ行きたいです」


「うん」


駅前で別れる。


「また明日」


「はい。また明日」


月白は少し歩いてから振り返る。


林夏もまだそこにいた。


小さく手を振る。


月白も手を振った。


夜。


月白はノートを開いた。


――今日は灯台へ行った。


――海を見た。


――魚を食べた。


――貝殻は持って帰らなかった。


――灯台のキーホルダーは持って帰った。


少し考える。


――同じ「記念」でも、残すものと残さないものを自分で決められる。


そして。


――林夏の肩で少し眠った。


ペンが止まる。


しばらくして。


――嫌ではなかった。


最後に。


――また、どこかへ行きたい。


端末が光る。


【予定:実行】


【本人による選択:確認】


【記憶:保存】


【関係:継続】


【次回予定:未設定】


【未来:未確定】


月白は端末を閉じた。


机の上に、今日買った灯台のキーホルダーを置く。


青いガラス瓶の隣。


真鍮の鍵は、今日も万事修理店にある。


そして今日。


二人は、予定していた場所へ行った。


けれど。


一番大切だったのは、灯台だったのか。


海だったのか。


それとも。


同じ時間を過ごしたことだったのか。


月白には、まだ分からなかった。


分からなくてもいいと思った。


また行きたい。


今は、その気持ちだけで十分だった。

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