【第伍話】やぁ少年、初殲滅だ。
フォグとキャラメルは、科学的視点から異世界の魔法を分析して周囲を驚かせた後、魔法適性検査で前代未聞の「化学」と「軍事」の属性を発現させ、その直後に発生した魔物の大襲来に独自の能力で立ち向かおうとする。
「ガァアアアアッ!」
城門を突破しようとなだれ込んでくるゴブリンの先頭集団。そこに真っ先に飛び込んだのは、冒険者ギルドのベテラン剣士・マーシャルだった。
「新入りども、手本を見せてやる! 私の光り輝く閃光、受けてみろ――〈 一閃・黄金斬 〉!」
マーシャルの放つ鋭い剣技が風を切り、数匹のゴブリンを一気に薙ぎ払う。確かな剣技と長年の鍛錬に裏打ちされた無駄のない動き。異世界における「正統派の強者」の戦いぶりがそこにあった。
「おおっ、さすがマーシャルさんだ!」
「これなら防衛線は持つぞ!」
湧き上がる冒険者たちの歓声。しかし、フォグは冷ややかな三白眼でその光景を眺め、素早くペンを走らせる。
「……愚かだな。個の武勇に頼った単体攻撃など、面制圧において何の戦術的価値もない。運動エネルギーの無駄遣いだ」
「ほんとだねぇ。運動エネルギーを熱と摩擦に変換して終わりなんて、非効率にもほどがあるよ」
キャラメルがだるそうに肩を竦め、前に出た。
「化学」と「軍事」の蹂躙
「よし、ちょっと実験と洒落込もうか。――〈 硝酸汞・チオシアン酸錯体反応:ファラオの蛇 〉」
キャラメルが指先を鳴らすと、地面に転がっていた石ころと灰、そしてゴブリンの体液が混ざり合い、化学変化を引き起こす。次の瞬間、地面から灰色の巨大な蛇のような物質が、膨張しながら爆発的な速度でウネウネと噴き出した。
「な、なんだこれはぁぁぁ!?」
マーシャルの悲鳴を余所に、急激な熱分解で伸び続ける無数の「蛇」が、迫り来るゴブリンの群れを次々と飲み込み、窒息と熱分解ガスで身動きを封じていく。
さらに、その横でフォグが不敵に口角を上げた。
「次は私の番だ。戦術的火力の最小化と携帯性の追求――『軍事』属性、位相展開。――〈 隠蔽構造・FMG-9 〉」
フォグが手をかざすと、黒い長方形のブロックのような幾何学魔力が実体化する。彼がワンタッチでパーツを弾くと、一瞬で折りたたみ式のサブマシンガン「FMG-9」の形状へと変形した。
「ハハハハッ! 素晴らしい! 量産性と隠蔽性を兼ね備えた 9mm パラベラムの掃射火力が、この世界の魔力演算だけで完全に再現されている! 防火線? 陣形? 違うな、圧倒的な弾幕による面清掃こそが真の平和だ! 敵を殲滅すれば被害はゼロ! これ以上の人道的な解決法が他にあるか!?」
狂気的な笑みを浮かべた幼い参謀は、トリガーを引き絞る。
タタタタタタタタタタタタタタタッ――!!!
「ギャギャギャッ!?」
凄まじい掃射音とともに吐き出される魔力弾の嵐。マーシャルが剣を振るう隙すらない圧巻の連射速度が、ゴブリンの群れを文字通り「削り取って」いく。
「やった……やったよ少年!! 触媒も試薬もなしに、魔力演算だけで錯体形成と熱分解が再現できた! すごいよ、この世界は最高の実験室だねぇ!」
「ククク……ッ、ハハハハ! 私の軍事理論も完全に物理現象として成立した! 銃身の熱放散も魔力冷却で相殺できる……! これなら無制限に『効率的な殺戮と制圧』を実行可能だ!」
異次元の惨状を前に、二人は目を輝かせて歓喜に震えていた。
興奮冷めやらぬキャラメルは、狂喜するフォグをぐっと抱き寄せると、彼の頭を自身の豊満な胸に力いっぱい押し付け、頬をすり寄せながら撫で回す。
「すごーい! 流石ボクの天才参謀! かわいいお顔でなんてえげつない火力を出すんだい、もう最高だよ少年っ!」
「んぐッ……!? む、無理やり抱きつくなキャラメル! 窒息する! 戦場で参謀を胸で圧殺するなと言っているだろ……ッ!」
顔を真っ赤にしながら必死に抗議するフォグだったが、キャラメルは「はいはい、よしよし」と笑いながらさらに甘やかすように頭を撫でくりまわすのだった。
「あっ、お兄ちゃんたちばっかりずるい~! わたしも手伝うよっ!」
呆気にとられていたスクワールだったが、二人の快進撃に目を輝かせ、ぴょんと前へ飛び出した。
「〈 掌状の殻檻・多層型!〉」
フォグから教わった「応力分散」を意識し、ゴブリンの退路を塞ぐように巨大なクルミの多層壁をドカンと出現させる。退路を断たれ、完全に逃げ場を失う魔物の群れ。
「私も……フォグさんの気流理論を! 〈 葦紙の回生・旋風収束〉!」
ニューが古書を掲げると、コアンダ効果と旋回成分を付与した鋭い気流が巻き起こり、散らばろうとするゴブリンたちを一箇所へと強制的に集約させていく。
「よし、誘導完了だ! キャラメル、最終実験に移るぞ!」
「OK少年、まとめて分子レベルで片付けちゃおうか!」
スクワールとニューが見事に作り出した「理想の殺戮ゾーン」へ向け、二人の理不尽な科学と軍事の力が再び放たれようとしていた――。
・ファラオの蛇
チオシアン酸水銀(II)などを加熱したときに、蛇のような灰がにょろにょろと大量に突き出してくる、化学実験およびその化学反応。
・FMG-9
アメリカのマグプル(Magpul)社が2008年に試作した、「ワンタッチで折りたためるアタッシュケース型のサブマシンガン(機関短銃)」。




