↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/30

白の時代 その3

※


公孫瓚(こうそんさん)は、劉備を兄弟分として遇(ぐう)してくれていた。

厚遇されているほうだろう。

大人数を食べさせてもらっているうえ、風雨をしのげる場所で眠れるだけでもありがたかった。

だが、それでいいかと問われると、劉備は否と答えただろう。

仮に劉備が公孫瓚の器量を認めていたならば、そのまま家臣にさえなっていたにちがいない。

兄者は人を見るとき、見た目から入る、だから見落としも多いんだよなぁ、というのが劉備の、その人物評のすべてである。


公孫瓚自身が、その立派な容姿を買われて、太守の婿(むこ)に選ばれた男だ。

その後、とんとん拍子に英雄街道まっしぐら、というわけであるが、悲しいかな、心がとても狭い。

見た目と言動は立派だ。

だが、実際の結果が、理想から、十歩くらい後ろのところにいる。

つまりはちぐはぐなのである。

たしかに異民族への対策や、黄巾賊討伐に関しての功労はあるが、それ以上ではない。

戦功はあったとしても、領民への接し方がよくないので、周囲の評価も盛り上がりに欠けてしまう。


冷徹に劉備が思うことは、公孫瓚は、時代に呼ばれていない男なのだろうということだ。

乱世の英雄に必要な、臨機応変さが足りない。

しかも公孫瓚には良材を見抜く目がない。

もともと自分が運に恵まれてきただけに、人を見る幅が狭いのだろう。

もしも乱世でなければ、公孫瓚は世の男たちがうらやむような、幸福な人生を歩めたはずである。

仮に公孫瓚の悪い点を劉備が指摘したところで、飛ぶのは劉備の首だろう。

頑迷なところのあるかれの行く末は暗い。

劉備は、兄弟子に世話になりながらも、時機を見計らって、ここから離れねばならないだろうと考えていた。

公孫瓚もまた、自分とは対局にある、臨機応変の塊のような弟弟子(おとうとでし)を食客として厚遇していたが、その能力を全面的に活用して、中央へ乗り出そうとは思っていないようである。

わしもそれなりに役目も果たしたし、そろそろもういいだろう、というのが、劉備の見解であった。



※


趙子龍という、年に似合わず落ち着いた少年の兄・趙叔斉のことを知るものは、結局だれもいなかった。

二度目に劉備たちのもとにやってきた趙雲は、すでにどこかで諦めていたようで、すまないが、と結果をつたえると、意外にあっさりと、そうですか、と答えるばかり。

特に落胆した様子を見せなかった。


いや、落胆を読み取れなかっただけなのかもしれない。

それから、会話を弾(はず)ませることもなかったのだが、なぜか趙雲は、劉備の陣営の、あっけらかんとした空気が気に入ったようで、たびたび一人で顔を出すようになった。

気が付くと、白いのが、食事の席の端に、いつのまにやら紛れている、というふうである。

白いのですぐ見つけられるのであるが、不思議と劉備とほかの荒くれたちの中にあって、浮くこともなく、馴染んでしまっている。

とはいえ、だれかと歓談して楽しそうにしている、というふうでもない。

ただ、そこにいて、たまに話しかけられては、相変わらずの無表情で答えている、というふうだ。


面白くなった劉備は、公孫瓚に、趙子龍を自分の主騎につけてくれ、と申し出た。

公孫瓚も、趙雲の行動に気づいていたようだ。

かれはあっさり、趙雲を劉備の主騎に任命することを了承した。

「あれは面白いやつだな」

劉備が公孫瓚に言うと、気を良くしたのか、かれはうなずいた。

「そうだろう。だれもが袁紹につくなかで、この儂(わし)を選んでやってきた男であるからな。まだ若いが、白馬義従(はくばぎじゅう)のなかでも随一の武芸の才を持っておる。あれは、将来よい家臣となってくれよう」

取っていくなよ、と公孫瓚は、笑った。

自分以上の才覚を持つ者をきらう兄者が、果たして子龍を使いこなせるかなと、劉備は心配になった。


さて、以上のやりとりがあったので、ますます趙雲は、自然に劉備のそばにいることになった。

だが、かといって芯から打ち解ける、というのでもない。

ともかく無口で無表情、なにを考えているのか、わからない。

考えがない、というのではない。

考えを、読ませないようにしているのか。

わからないからこそ気になるので、劉備は趙雲をしばらく観察していたのであるが、おもしろいことに気づいた。

この少年、頭は悪くないほうだ。

いや、かなりよいほうであると思う。

一度言ったことはまちがえない。

命令の本質を掴んでいるので、言葉以上のことも視野にいれて行動するから、失敗がないどころか、元の要求を、倍にして返すことすらある。

ところが、ふつうに人の中にあって、たとえば誰かが冗談を言ったとする。

みながいっせいに笑う。

だが趙雲は笑わない。

笑わないで、周りが笑ったことを確認してから、ようやく笑みらしいものを浮かべて、周囲に合わせている。

とりあえず笑顔なのではあるが、笑っているというよりは、笑顔という名の仮面を、咄嗟(とっさ)にかぶっている、というふうだ。

あれはすこしも心から面白がってはいない。

だれかと話をしているときもそうで、相手の表情によって、自分の反応を決めている節がある。

そんなふうであるから、あいつは鈍いのではないか、頭が悪いのではないかと、不当な評価をしている者もあるようである。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。