白の時代 その3
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公孫瓚は、劉備を兄弟分として遇してくれていた。
厚遇されているほうだろう。
大人数を食べさせてもらっているうえ、風雨をしのげる場所で眠れるだけでもありがたかった。
だが、それでいいかと問われると、劉備は否と答えただろう。
仮に劉備が公孫瓚の器量を認めていたならば、そのまま家臣にさえなっていたにちがいない。
兄者は人を見るとき、見た目から入る、だから見落としも多いんだよなぁ、というのが劉備の、その人物評のすべてである。
公孫瓚自身が、その立派な容姿を買われて、太守の婿に選ばれた男だ。
その後、とんとん拍子に英雄街道まっしぐら、というわけであるが、悲しいかな、心がとても狭い。
見た目と言動は立派だ。
だが、実際の結果が、理想から、十歩くらい後ろのところにいる。
つまりはちぐはぐなのである。
たしかに異民族への対策や、黄巾賊討伐に関しての功労はあるが、それ以上ではない。
戦功はあったとしても、領民への接し方がよくないので、周囲の評価も盛り上がりに欠けてしまう。
冷徹に劉備が思うことは、公孫瓚は、時代に呼ばれていない男なのだろうということだ。
乱世の英雄に必要な、臨機応変さが足りない。
しかも公孫瓚には良材を見抜く目がない。
もともと自分が運に恵まれてきただけに、人を見る幅が狭いのだろう。
もしも乱世でなければ、公孫瓚は世の男たちがうらやむような、幸福な人生を歩めたはずである。
仮に公孫瓚の悪い点を劉備が指摘したところで、飛ぶのは劉備の首だろう。
頑迷なところのあるかれの行く末は暗い。
劉備は、兄弟子に世話になりながらも、時機を見計らって、ここから離れねばならないだろうと考えていた。
公孫瓚もまた、自分とは対局にある、臨機応変の塊のような弟弟子を食客として厚遇していたが、その能力を全面的に活用して、中央へ乗り出そうとは思っていないようである。
わしもそれなりに役目も果たしたし、そろそろもういいだろう、というのが、劉備の見解であった。
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趙子龍という、年に似合わず落ち着いた少年の兄・趙叔斉のことを知るものは、結局だれもいなかった。
二度目に劉備たちのもとにやってきた趙雲は、すでにどこかで諦めていたようで、すまないが、と結果をつたえると、意外にあっさりと、そうですか、と答えるばかり。
特に落胆した様子を見せなかった。
いや、落胆を読み取れなかっただけなのかもしれない。
それから、会話を弾ませることもなかったのだが、なぜか趙雲は、劉備の陣営の、あっけらかんとした空気が気に入ったようで、たびたび一人で顔を出すようになった。
気が付くと、白いのが、食事の席の端に、いつのまにやら紛れている、というふうである。
白いのですぐ見つけられるのであるが、不思議と劉備とほかの荒くれたちの中にあって、浮くこともなく、馴染んでしまっている。
とはいえ、だれかと歓談して楽しそうにしている、というふうでもない。
ただ、そこにいて、たまに話しかけられては、相変わらずの無表情で答えている、というふうだ。
面白くなった劉備は、公孫瓚に、趙子龍を自分の主騎につけてくれ、と申し出た。
公孫瓚も、趙雲の行動に気づいていたようだ。
かれはあっさり、趙雲を劉備の主騎に任命することを了承した。
「あれは面白いやつだな」
劉備が公孫瓚に言うと、気を良くしたのか、かれはうなずいた。
「そうだろう。だれもが袁紹につくなかで、この儂を選んでやってきた男であるからな。まだ若いが、白馬義従のなかでも随一の武芸の才を持っておる。あれは、将来よい家臣となってくれよう」
取っていくなよ、と公孫瓚は、笑った。
自分以上の才覚を持つ者をきらう兄者が、果たして子龍を使いこなせるかなと、劉備は心配になった。
さて、以上のやりとりがあったので、ますます趙雲は、自然に劉備のそばにいることになった。
だが、かといって芯から打ち解ける、というのでもない。
ともかく無口で無表情、なにを考えているのか、わからない。
考えがない、というのではない。
考えを、読ませないようにしているのか。
わからないからこそ気になるので、劉備は趙雲をしばらく観察していたのであるが、おもしろいことに気づいた。
この少年、頭は悪くないほうだ。
いや、かなりよいほうであると思う。
一度言ったことはまちがえない。
命令の本質を掴んでいるので、言葉以上のことも視野にいれて行動するから、失敗がないどころか、元の要求を、倍にして返すことすらある。
ところが、ふつうに人の中にあって、たとえば誰かが冗談を言ったとする。
みながいっせいに笑う。
だが趙雲は笑わない。
笑わないで、周りが笑ったことを確認してから、ようやく笑みらしいものを浮かべて、周囲に合わせている。
とりあえず笑顔なのではあるが、笑っているというよりは、笑顔という名の仮面を、咄嗟にかぶっている、というふうだ。
あれはすこしも心から面白がってはいない。
だれかと話をしているときもそうで、相手の表情によって、自分の反応を決めている節がある。
そんなふうであるから、あいつは鈍いのではないか、頭が悪いのではないかと、不当な評価をしている者もあるようである。
つづく




