第十話(作:大岸都心)
島に着くのには大分時間が過ぎたように思える。
それはまるで暗に島が私の進入を拒み受け入れることを望んでいないかのようであった。
島に到達する。同時に長い深呼吸。あたりを見回す。携行品のチェック、確認。
それらを数十秒間で行うと私は酷い不安感を覚えた。
――ここは本当に島なのだろうか?
表面上は間違いなく島の様相を呈しているが何処かに違和感がある。
私はその違和感の正体も掴めぬまま歩いている途中に見えた島の空洞の様な部分へと歩みを進めた。
結論、島では無い。
空洞の前に赴きそこに存在する不釣り合いな機械の類を見て確信する。
「これは拙いかもしれないな。」 ――通信機を作動させる、応答ナシ。悪態。
ならば、と移動を再開する。
幸いこの先の空間はあまり危険な物はなさそうだ。
通信からのノイズが気になるが好奇心故に歩みを止めない。
―どれほど歩いたであろう。
予想していた空間の長さを超過し、スポーツでもやらされたかのように歩きいくらか部屋を探索する。
どれも何もない空間が広がっているのみであり、今は最後の部屋と思われる部屋を開けた。意外な事に中は先のロッカールームとそれほど変わらない小さな部屋であった。
その部屋の中で私はメモ帳と割れた試験管、それに<何か>を発見した。
何かとはデータが私の視覚に変換されないので理解が出来ない。
この電脳においてもデータは五感に変換され私の知覚しやすい形状を取る筈だが眼前のソレは頑なに変換を拒んでいた。――これは一体何だ?
突如上から雷鳴の様な耳を劈く轟音。閃光。跳躍。回避。着地、失敗。
「南無三!」
手元にある携行品の一つパルススモークグレネードを投げ、煙幕とパルスショックを展開。急いで<何か>とメモを拾い部屋をから飛び出す。
部屋の内から大きな蟲が出てくる。おそらくは防衛プログラム。
「畜生がっ。」
一人つぶやき、オモチャに手を伸ばす。安全装置を外し、そして。
「悪いが、死ぬならベッドの上か誰かに看取られながらがいいんでね!」
引き金を、引いた。
現実世界ではかなり口径の大きな弾頭がマズルフラッシュと共にとめどなく蟲に突き刺さり決して小さくない穴をあけ胴体を削り取っていく、そのうちの一発が決定打となり蟲は奇妙な叫びと共に爆散した。
ふぅ、と息を整える。
「減給、よくて始末書かな?・・・」
危険が去りあたりを見回しながら即物的な思考が脳裏に浮かんでは消えていった。