砂煙
砂煙が立ち込めていた。
乾いた平原の上を無数の兵が踏み荒らし、巻き上がった土埃が戦場を覆っている。あちこちで人の集団がぶつかり合い、怒号と金属音が絶え間なく響いていた。地面には折れた槍が転がり、潰れた盾が埋もれ、死体が散乱している。その隙間を縫うように兵達が行き交い、踏み固められた土は血で黒く変色していく。
平原の各所で小さな戦いが発生している。お互いが押し合い、離れ、再び衝突する。それぞれが争いながら形を変えている。
その中の一角。
なだらかな起伏の続く平原の中央部。周囲には身を隠せる森も岩場もなく、遠くには低い丘陵が霞んで見えるだけだった。見晴らしの良いその場所では、どの隊が押し、どの隊が退いているのかが一目で分かる。
一つの集団が戦線を押し上げていた。対する側は抵抗を続けている。
押し返そうと兵を集め、戦列を立て直し、何度も反撃を試みているのが見て取れる。しかし一度生じた乱れは完全には戻らない。押し込まれた箇所は徐々に広がり、戦場の均衡は少しずつ傾き始めていた。
その綻びの先に、人の流れとは異なる速度で動く影。
その影は兵の間を抜け、密集した場所へ現れる。そこで人垣が崩れると、離れた場所で再び隊列が乱れる。戦場全体から見れば小さな変化にしか見えないが、その周囲だけが不自然な速度で前へ進んでいる。
やがて後方で混乱が広がり始める。伝令が走り、兵が振り返り、立て直しかけた隊列が再び揺らぐ。その乱れは波紋のように前線へ伝わり、各所の綻びへと繋がっていった。押し返そうとしていた側が後退を始める。逃げ出す者はまだいない。だが誰の目にも分かるほど、勝敗は既に決まっていた。




