6月? 〜おまけ〜
【6月? 〜おまけ〜】
大学で今日の講義を終えた私は、一息つくためにキャンパス内のカフェテリアに向かっていた。
歩くたびにカランコロンと鈴の音が響く。
私はこの春高校を卒業した。
卒業式は文芸部引退の日でもあった。文芸部員たちから卒業祝いに贈られたのがこの鈴、【熊よけの鈴】だった。
「あの大学は熊が出るから気をつけてください。」と幸多くん。
合格発表まだなんだけど、と言うと、幸多くんは不思議そうな顔をした。他の部員は苦笑していた。
どうやら私の志望校合格は幸多くんの中では確定事項だったらしい。
果たして、幸多くんの予想通り、志望校である地元大学の文学部に無事合格した私。
慌ただしい春を駆け抜け、気がつけば6月。
入学当初は新入生でごった返していたカフェテリアも、この時期になると落ち着いた場所になりつつあった。
後輩たちは元気にしているかな。自由な男子チームに女子チームは振り回されていそうだな。ごめんね先に抜けちゃって。
幸多くんはね......元気だよね。知ってる。
「そのメロンパン美味しいですよね。」
だって隣りにいるもの...。
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「高校から近いと言ってもね。なんで毎日のようにここに来るの? あなた、高校生だよね?」
「? 授業は終わりましたよ?」
違う。違くないけどそうじゃない。
「あなたには大事な高校生活があるでしょう。
そうだ、部活は? たった一人の最上級生が抜けてきたら駄目でしょ?」
「大丈夫。俺がいなくても回ります。」
なんでそんなに自信満々なんだコンニャロめ。
「それに、ここにだって大事なものがあるんです。」
...そうなの?
「附属の植物園に博物館でしょ。少し足を伸ばせば、化石や鉱石の採れる渓谷があって、、、」
うん。知ってた。そういう子だよ君は。
「あと、先輩もいますし。」
おぉぅ、時間差で来た。...さらっと言ってくれるじゃない。
相変わらずこの子には振り回されっぱなしだ。
そして相変わらずぺったりくっついて来る彼。
『留守鏡花が高校生と付き合っているらしい。』
私の周囲に広まっていたそんな噂にも、諦めの境地である。
前にもあったなこういうの。
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大学の付属博物館でゲットした鉱物を手に、資料を読みあさる幸多くん。
聞けば学内の至る所に突撃し、一人オープンキャンパスを満喫しているようだ。流石。
「幸多くんはこの大学志望なの? 恐竜で有名な大学とか、志望しているのかと思ってた。」
「う〜ん。やりたいことがあり過ぎて決められないんですよね。
だったら先輩の居る大学が一番良いかなって。とりあえず工学部とか出れば、何でも出来そうじゃないですか?」
『とりあえず』か。
ご存知ですか? 私、この大学に入るのに、かな〜り頑張ったんですよ幸多さん。
まあ、この子、理系科目は化け物レベルだからな。普通に受かりそうだ。
文系科目は壊滅的だけどね。文芸部なのにね。
とはいえ、先輩の居る大学が一番良い、ですか。
『珍しいトカゲがいるからこの大学が良い。』程度の意味じゃないでしょうね。真意を測りかねる。
むー。私だけ、なんかこうヤキモキさせられるのズルい。
よし、仕返しだ。
「でも、私も卒業したら、何処か遠くへ就職するかもよ。」
「そしたら付いていきますよ?」
「仕事はどうするの?」
「そこで探せば良くないですか?」
えぇ......。
「海外とか行っちゃうかもよ?」
「南米か東南アジアが良いです。デカいカブトムシが居るんですよ。」
さらりと場所を指定するな。
うーん、駄目だ。勝てない。
そして当たり前のように私とずっと居る気だ。
「そういえば、母さんが先輩を早く家に呼びなさいって煩いんですよ。早く引き取りに来て欲しいって。
先輩、母さんと何か約束しました?」
!!? 待てーいぃ!!!
会ったことない。話したこともないぞ!?
駄目だ。服部家が堀を埋めに来ている。
このままでは本当に、4年後くらいにはうっかり入籍させられてしまうかも知れない。
あぁ神様。
私にもう少しモラトリアムをお与えくださいぃ。
おしまい。
• • •
「ところで、近くの渓谷には入っちゃ駄目だよ。調べたけど、あそこ立ち入り禁止だからね。」
「良さげな化石や鉱物が」
「駄目です。」
「バレなきゃワンチャン」
「駄、目、で、す。」
「あぅぅ〜。」
...勝った。
ほんとにおしまい




