第四話
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雑用や簡単な手伝いばかりとはいえ、この一週間、私はずっとギルドで仕事をしていた。
まあ、そうしないと生活できないのだけれど。
いつも通り、冒険者ギルドへ向かう。
「あら、ラル君、こんにちは」
「リティさんも、こんにちは」
そのまま掲示板に向かおうとすると、リティさんに呼び止められた。
「ああ、ラル君、ちょっと待って。……はい、これ。新しいカードよ。
おめでとう、Eランクに上がったわ。これで魔物討伐もできるようになるわよ」
差し出されたのは、「Eランク」と書かれた冒険者証だった。
「っ……ありがとう!」
思わず声が弾む。
「お礼なんていいのに。ああ、注意事項だけ伝えておくわね。
まず、魔物には危険度ランクがあるの。ギルドのランクと同じになっているわ。だから討伐依頼は、自分と同じか、それより下のランクしか受けられないの」
「なるほど……」
「それと、依頼とは別に、魔物を狩った場合でも、ギルドで買い取ってもらえるわ。だから依頼を受けなくても、魔物を倒すこと自体は問題ないのよ」
ふと疑問が浮かぶ。
「それなら……依頼って必要なの?」
「いい質問ね。討伐依頼は、困っている人が出すものなの。
冒険者が好き勝手に魔物を倒しているだけだと、本当に助けを必要としている人のところに力が届かなくなるでしょう?」
「……なるほど」
まあ、冒険者が依頼をえり好みしていたら、大変だもんね。
「魔物討伐の依頼は、そこの掲示板にあるわ」
「わかった!」
リティさんの言葉に背中を押され、私は掲示板へ向かった。
そこには、スライムやホーンラビット、ゴブリンなどの討伐依頼が並んでいた。
中には、ドラゴンなんてものまである。
異世界って感じがする。
……?
今、私、なんて考えた?
“異世界”って、何?
「いたっ……!」
深く考えようとした瞬間、頭に鋭い痛みが走る。
これ以上考えるのは無理そうだ。
まあ、わからないものは仕方ないか。
……って、武器がないと魔物なんて倒せないよね。
「武器、買いに行くか」
小さくつぶやき、私は冒険者ギルドを後にした。
◈◈◈◈◈◈◈
「すみません。武器、ありますか?」
街を歩き回り、途中で教えてもらった武器屋へ入る。
教えてくれた冒険者は「見つけにくい店だ」と言っていたけれど、本当にその通りだった。
店は裏路地の奥にあり、少し薄暗い。
……結構危ないことしたな、私。
「あぁ? 嬢ちゃん、ここは武器屋だぞ。お前みたいなへなちょこが来る場所じゃねぇ」
店の奥では、大柄な男が剣を打っていた。
こちらを一度も見ずに、追い返そうとしてくる。
「冒険者なんですけど!? 武器を買いに来たんですけど!」
「お前みたいな貴族の嬢ちゃんに売る武器はねぇ」
……え?
なんで女だってわかったの?
声も、できるだけ低くしてるのに。
「……なんでわかったんですか?」
「勘だ」
「えぇ……」
勘って。
何それ、すごすぎない?
熟練の職人ってそういうものなのかな。
……あ、やっとこっち向いた。
「つーか、どうやってここまで来た? 誰に教えてもらったんだ?」
「あ、やっと振り向いてくれました。途中で会った冒険者さんに教えてもらったんです」
「誰だ?」
……って、誰だっけ?
思い出そうとしても、顔に靄がかかったみたいにぼやけていて、うまく思い出せない。
「わかりません。顔が、こう……もやっとしていて……」
「…………そうか」
職人さん…職人さんでいいか。
職人さんは少し考え込むと、店の奥からいくつか武器を持ってきた。
「それで、どんな武器がいい?」
「……じゃあ、短剣で。できるだけ安くて、初心者でも扱いやすいものってありますか?」
「だったらこれだな。金貨一枚でいい」
差し出された短剣は、シンプルだけど丈夫そうだった。
……思ったより安い。
マルティナからもらったお金を使うしかないか。
「買います。ありがとうございました!」
「おう、金貨一枚確かに受け取ったぞ。……あと、嬢ちゃんに忠告だ」
「?」
「金髪碧眼は目立つ。気をつけな」
「……やっぱり、そうですよね」
髪色と目の色をごまかす魔道具、買ったほうがいいかも。
「ありがとうございました、職人さん……あっ」
「グレンでいい」
「はい! さようなら!」
グレンさん、か。
もっとお金が貯まったら、またここに来よう。
◈◈◈◈◈◈◈
「この討伐依頼、受けます。お願いします」
私が選んだのは、スライム討伐。
一番簡単な魔物だと聞いている。
「あら、スライムね。ラル君にはちょうどいいかも。はい、依頼書どうぞ」
リティさんはそう言うと、続けて説明してくれた。
「スライムにはコアと魔石があるの。コアが討伐証明部位ね。魔石は売ってもいいし、自分で使ってもいいわよ」
「ありがとう。行ってきます!」
依頼書を握りしめ、短剣を腰に下げて、私は町の外へ向かった。
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「スライム、どこにいるんだろ……」
町の外には街道と森が広がっている。
私は森に入って十分ほど歩き回ったが、スライムは一向に見つからなかった。
「はぁ……そろそろ帰ろうかな……」
そう思った瞬間。
――がさり。
茂みが揺れる音がした。
振り向くと、そこには探していたスライムがいた。
「いた!」
私は短剣を抜き、勢いよく飛びかかる。
けれど――
「え……?」
何度攻撃しても、まるで効いている気配がない。
そのうえ、反撃されそうになったところで――
「危ねぇ!」
横から飛び込んできた冒険者が、剣でスライムを一撃で倒した。
「大丈夫か?」
「あ……ありがとうございます」
「……スライムすら倒せないなら、冒険者はやめたほうがいい」
「…………」
分かってる。
私が弱いことなんて。
そんなの、最初から分かってた。
冒険者は、倒したスライムからコアを取り出し、それを私に差し出した。
「討伐証明部位だけはやる。これで依頼達成にはなるだろ」
「……ありがとうございます」
「もう懲りただろ。冒険者なんてやめとけ」
「……はい」
やめたら。
家を飛び出した意味が、なくなるじゃないか。
辞めたく、ない。
◈◈◈◈◈◈◈
その日はすぐに町へ戻り、依頼の報酬を受け取ると、まっすぐ宿へ帰った。
「私が弱いことなんて……私が一番分かってるよ……」
ぽろり、と涙がこぼれる。
町の雑用は普通にこなせたから、少し勘違いしていたのかもしれない。
自分でも、やれるんじゃないかって。
……でも、現実は違った。
「……明日から、どうしよう……」
町の手伝いをして、なんとか食いつないでいくしかない。
もう、やだな……。




