23.不安
(うーん……)
数時間後、ミモザはレイルとの待ち合わせ場所であるホテルを訪れていた。
まだ約束の時間には早いため、いつものベランダのテーブルにはミモザのみが座っている。
結局あの後、特に何の進展もなくミモザは帰路へとついた。
試練の塔に泊まり込むことも考えたのだが、レイルとまた『ゲーム』をする約束をしていたため、一度宿に戻って仮眠を取ってから来たのだ。
ちなみにジーンは試練の塔に居残り中である。バーナードが怪しい行動を取らないか見張るためだ。
(レイラ嬢も見つけないとなぁ)
庭園を見下ろす。そろそろ時間が近いからだろう。いつもの偽物令嬢達が所定の位置にスタンバイし始めていた。
「うーん……」
『願いの叶う石』を見つけるか、レイラを見つけるか、そのどちらかができればレイラとジーンとの再会は叶うわけである。
とはいえ、石が見つからなければレイラは病死してしまうわけで、優先度としては石の探索の方が高い。
(ついでに『願いの叶う石』で薬草の人工栽培方法を聞けるかも知れないし)
一度に叶うのはひとつだが、何度でも叶えてもらえるならば病気を治してもらった後に栽培方法を教えてもらえばいいのだ。
まさか一度治った病気が他の願いを叶えた途端にリセットされて治らなかったことになるなどという意地悪な現象は起きないだろう。
(起きないよね?)
一抹の不安がよぎるが、まぁ、それは見つけてから考えればいい。
一番の問題はそこではない。
時間である。
レイラの病状的に、ゲームの記憶によるとタイムリミットは一週間。
すでに五日が経過している。つまり、残り二日間だ。
(無理ゲーでは?)
しかし見つけられなければレイラは病でなくなり、ジーンと結ばれることはなくなってしまう。
ゲームのように。
(そういえば……)
ミモザはふと思う。
ゲームでステラは『願いの叶う石』を見つけられなかったのだろうか?
そうでなければ、レイラが亡くなることはないはずである。
(……でも、主人公なのに?)
ミモザよりも優秀なステラが、見つけられないことなどあり得るのだろうか?
「ちちっ」
ふいにチロが空を見上げて声を上げた。見るとそこには一羽の鳩が旋回している。
真っ白な羽に青い魔導石のついた首輪をした鳩は、そのままゆっくりとミモザの元へと舞い降りてきた。
伝書鳩だ。
しかもこれは……、
「レオン様……?」
レオンハルトが『個人的な用事』に使用している鳩だった。
足首から手紙を外すと案の定、小さく折りたたまれた封筒の送り主の名前はオルタンシアでもエイドでもなく、レオンハルトである。
仕事関係の手紙を彼が『個人用』の鳩で転送してきた、というわけでもないようだ。
「これ……」
なんだと思う? とミモザがチロに尋ねる前に、
「それはなぁに?」
歌うようなアルトの声が上から降ってきた。
弾かれたように顔を上げる。気がつくとすぐ側に一人の少女が立っていた。
「シンプルだけど素敵な封筒ね。ラブレターかしら?」
「……えっと」
あまりに突然の出来事にミモザは固まる。しばらくして、ようやっとなんとか口を開いた。
「レイラさん?」
輝く太陽のような金色の髪に翡翠の瞳、そしてなによりもレイルとうり二つのその容貌。
そう、会ったことのないミモザでもわかる。そこに立っているのは紛れもなく、レイラだった。
うふふ、と彼女はレイルは到底浮かべないであろう、イタズラが成功した子どものような笑みを浮かべる。
そしてゆっくりと貴族の子女らしい丁寧な所作でカーテシーをしてみせた。
「はじめまして、わたしはレイラ。あなたはミモザさんね。兄からお話はうかがっているわ」
彼女は花のようににこりと微笑む。
「よろしくね」
「……よろしくお願いします」
ミモザにはそう返事を返すのがせいいっぱいだった。




