21.秘密の場所
塔の上部に位置するそこは、薄暗い洞穴を抜けた途端に光と共に現れた。
円形に開けた空間には、塔の上部に穴が空いているのか日の光が差し込み、中央の丘のように盛り上がっている場所を残して後は花々で覆われていた。
バーナードが作ったと思しき梯子を登り、人ひとりがやっと通れるくらいの横穴を進み、道なき道を乗り越えた先にやっとたどり着いた場所である。
「これは……」
ジーンがそれだけを呟き絶句する。ミモザも同じ気持ちだった。
これはーー、地獄だ。
「らららららぁ〜」
「0時0時0時0時!」
「必要なのはぁ〜ふた〜つ〜」
あたり一面に咲いている花。その花にはなぜか口がついていた。
そして歌っていた。
一つひとつは囁き声のような歌声である。しかしそれが束になるととんでもない音である。
しかもおそらくだが、それぞれ別の歌を歌っている。
そこそこハモっているようにも聞こえるが……、シンプルにうるさい。
しかも歌いながら地味にうねうねと動いているのがさらに鬱陶しい。
アルベルトくんとは違い、走らずにちゃんと生えているのが救いだろうか。
「なんですか? これは!」
花たちの声に負けないようにミモザは大声で尋ねた。それにバーナードは心得たように頷いて見せる。
「シンギングフラワーきぬよだ」
なんだそれ。
おそらくその時のミモザとジーンの心はひとつだった。
(ーーていうか)
「絶対日本人だろ! それ名付けたの!!」
「ん?」
「なんでもないです!!」
思わず叫んだミモザの言葉は、幸いにもバーナードにはよく聞き取れなかったようだ。
まぁ『日本人』という言葉自体に馴染みがなかったので、断片的に聞き取れた言葉からは内容が推測できなかったのだろう。
しかし部分的には聞き取れたのか、彼は首を傾げると、
「名付けたのはエオだ」
と親切にも教えてくれた。
「……なるほどー」
納得の解答である。
すたすたと中心にある丘に向かって歩き出すバーナードのことをミモザは慌てて追いかけた。
不思議なことに、中央の花の咲いていない場所に来た途端に花たちの歌声はずいぶんと小さなものになった。風がそよぐ程度の声しか聞こえないのだ。
「ここに術式がある」
尋ねる前にバーナードはそう説明を始めた。
「これが音を阻害する効力を発揮している。だからここにはほとんど声が届かない」
見ると確かに複雑な模様が丘の上をぐるりと取り囲んでいた。
「それはいい。問題はこれだ」
しげしげと眺めていると、彼はその視線をぶった斬るようにそう催促した。
まぁミモザも促される前からその存在には気づいてはいた。
丘の上には石の台座のようなものがあった。
その数、十二個。
それは丸い丘に合わせるようにして円状に配置され、その真ん中部分にはバーナードが集めた物であろう、アルベルトくん像が散乱している。
バーナードは手に持っていたミモザから奪ったアルベルトくん像をそこへ放り投げた。
その数も、全部で十二体。
「これの配置に困っているんだぞ!」
バーナードは胸を張ってそう言った。
「一通り試されたんですか?」
尋ねると、彼は肩をすくめて見せる。
「最後の一体がついさっきやっと見つかった」
なるほど、つまり彼も探すことに注力していて謎解きまでには至っていないようである。
ということはやることは単純だ。
「とりあえず全パターン試しましょうか」
しらみつぶし作戦である。
「正気ですか?」
ジーンは嫌そうだ。
「まぁ、全パターンとは言っても、ある程度は絞りますよ」
「絞る?」
「ええ」
頷いてミモザは懐から紙を取り出す。
『願いの叶う石 隠し場所』の紙だ。
そのうちの一列を指でなぞってみせた。
『12の中で必要なのは2つだけ』である。
「つまり、この十二ある石像と台座、これらは二つしか必要じゃないわけです」
つまりそのパターンのみを試そうというわけである。
それを聞いたジーンは難しい顔をして考え込んだ。
「いや、それだけでも結構なパターンがありませんか?」
「…………」
「それ全部やるんですか?」
「……いよっし! 頑張るぞー!」
ミモザは腕まくりをして元気いっぱいに言った。
から元気である。
ジーンはため息をついた。
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