第30話 先輩の、ペアルック
待って。
待って待って待って待って待って。
わかんないわかんないわかんないわかんないわかんない。
柚子先輩いったい何を考えてるんですか流石にこれはマズくないですかね後ろ向き横向きはともかく前向きはちょっといや確かにそもそも異性の膝の上に乗るという行為自体がアレかもしれませんけどそれはもう一端置いておくとして前向きは流石にマズすぎると思うんですがあれ今マズいって二回言った?
さて、さてさて。
柚子先輩が眼鏡を新しくして、俺にお揃いの眼鏡をプレゼントしてくれて、俺の膝の上に前向きで座った。
月曜日、新しい一週間、新しい展開、未曾有の危機。
思考は高速で動き出して今の状況を冷静に分析していった。
柚子先輩がいる。俺と向き合った状態で、膝の上に乗っている。
閉じられた俺の両足を挟むように、柚子先輩が座った。
まるで俺のふとももに脳みそが移動したかのように意識の大半がそこに移動してしまっている。
いつもは無意識ながらに座るときにスカートを押さえて座っていた柚子先輩も、この座り方ではその、えっと……ノーガードの直座りで。
柚子先輩が目の前にいる、ヤバい。
柚子先輩が俺の動きを封じて座っている、ヤバい。
柚子先輩のぬくもりを下半身全体で感じてしまっている、とんでもなくヤバい。
つまり、ヤバい。
「えへへへへ」
そして一番罪悪感を感じる点が、これだ。
柚子先輩は気づいてない。
俺にかけた眼鏡に夢中で、さっきと同じように眼鏡を外してはかけて外してはかけての眼鏡反復横飛びを繰り返していた。
こんなに楽しんでいる柚子先輩の傍らで、ていうか目の前で邪な気持ちになれる筈がない……嘘です無理ですなんか五感という五感が研ぎ澄まされています誰か助けてくださいいややっぱり来ないでくださいここは俺と柚子先輩の聖域なので。
……うん、詰んだ。
「……似合うなぁ」
うんうん、柚子先輩も似合ってますよ。
ところでずっと思ってたんだけど、柚子先輩の集中力って凄くないか。
夢中になると一直線で、周りが見えなくなって完全に自分だけの世界に入り込む。
ここ数日でこういった状態になる柚子先輩をかなり見ている気がするけど、元々読書をしている時の集中力が凄くて俺もそれを見るのが楽しみの一つだった。
凄い才能だと思う反面、たまにちょっとだけ不安になる。
カシャッ。
「え?」
カシャカシャッ。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャッ。
「あの、柚子先輩……?」
連射してる。
いつの間にかスマホを構えて至近距離で俺の顔を激写しまくってる。
スマホケースに描かれたウミガメのイラストが凄くこっちを見てきて主張が激しい。
柚子先輩のスマホに、現在進行形で俺の写真が記録されていく。
柚子先輩の頼みなら何枚でも撮ってもらって構わないし、そもそも俺がかけているこの赤縁眼鏡もプレゼントしてもらったものだし断る理由は無かった。
だけどそれはそれとして、めちゃくちゃ恥ずかしい。
俺だって新しい眼鏡になった柚子先輩を撮りたいの、に……。
「先輩っ!!」
「ひょわぁっ!?」
名案を思いついた俺はすぐさま行動に移した。
手始めにスマホで激写を続ける柚子先輩の手を掴み、ウミガメを横に退けた。
するとスマホに隠れていた柚子先輩の顔の全てが視界に広がり。
「え、あ、あれっ!?」
顔が良すぎる。
正気に戻りパニックになった柚子先輩も可愛い。
だけど今は俺の膝の上に正面から跨っている状況。
暴れてしまうと大変な事になる危険性をはらんでいるのでしっかりとその小さな両肩を掴んだ。
「先輩!」
「は、はひっ!」
「一緒に写真を撮りましょう!」
柚子先輩とお揃いの眼鏡、つまりペアルック。
柚子先輩は俺の写真を、俺は柚子先輩の写真を望んでいる。
だったら一緒に写れば良い。
完璧な作戦じゃないか!




