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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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6

「お、なんだなんだ、もう帰ってきたのか?」


本日の東門を守る兵士がカイルたちを見て声を上げる。


「うん、思ったより早く合流できたんだ」

「なるほどなー、アンジュちゃんの小鳥もさっき通って行った所だ」

「怪我人がいるからね、色々準備が必要なんだよ」

「ああ、そいつはご苦労なこって。またコーラルさんのとこかい?」

「うん、今付きっきり。何かあったら僕らが責任取るよ」


カイルがさらりとそう口にし、アンジュも大きく頷く。そんな二人にルリとネヴァンは微かに目を見開くが、黙ったまま話を聞いていた。


「ほんじゃ、確認だけさせてくれ。カイルたち三人と、コーラルさんと、怪我人が?」

「二人。黒髪男性、茶髪女性。どっちも僕たちの家に連れていくよ」

「なにか聞かれたら、そう言ってね」

「訳アリか。まあ、お前さんたちなら大丈夫だろうが……無理はすんなよ?」


ガリガリと頭を掻きむしりつつ書類に書き込んだ兵士が、少しだけ案じる声を出す。

それはカイルたちに好意的な言葉で、これまでよい関係を作り上げてきたことの表れだった。


「んで、怪我人とコーラルさんだろ? この馬車の面々もウィールに入るのなら申請してくれや」

「はい。旅楽団『黒い風』所属は僕とこの子と中に一人、それからこの馬車と馬が二頭」

「いい馬だな。中の人は顔を見せてくれるか?」

「ちょっと待ってください……シャーナ、顔出せる?」


ネヴァンの声にシャーナが顔を覗かせる。凛とした顔立ちの美女に兵士の顔は若干の驚きを浮かべたものの、すぐさま仕事の顔になる。


「美人さんだな。宿に泊まる金があるなら『白熊亭』を薦めるぜ。女将が切り盛りしてて女性に優しく不埒な男が近寄ろうものなら片端から撃退するってところでよ。料金も割と安くて女性に人気だぜ」

「……ご親切に、どうも」

「東通りは路肩に馬車を止められねぇ規則だしな。宿に泊まらないならそれこそカイルたちの家に泊めてもらっとけ。んじゃ三人も書いたし、通っていいぞ。街を出る時はこの門から出てくれよな」


さらさらと書類を書いた兵士が三人分ずつの通行証を手に、それぞれカイルとネヴァンへ差し出す。


「それがこの街での一時滞在証だ。十日以上は更新手続きと料金が発生するから気をつけろよ」

「ええ、わかってます」

「ほんじゃ通っていいぞー。カイルたちも気を付けるんだぞー」


あっさりとそう言って次の審査に取り掛かる兵士。それを当然というようにカイルとセインが進んでいくのを、ルリが慌てた様子で馬車を動かして追いかける。


「なんか……ええ……」

「びっくりするよね。僕もびっくりした」


ルリだけでなくネヴァンも驚いていたらしい。呆然と手の中の通行証を見ているネヴァンにアンジュは小首を傾げた。


「何に驚いたの? ウィールは初めてじゃないよね?」

「東門がはじめてだった。こんなにあっさり通してもらえるもんなの?」

「東は人通りも激しいけど、冒険者が一番出入りするの。だから、門にかけられた魔法が反応しなければ、一番審査は早いのよ」


ウィールという街は中心に王城を構えた円形の街であり、中心部と東西南北に大きく区画が分かれている。その中でも東は最も貿易が盛んであり、同時に他国からの入場希望者も多い。

そのため、危険物や呪いなど即時に害をみなすものを弾く門の監査魔法以外にも様々な魔法がかけられており、中央に行くにはまた中で別の門を通る必要がある為、魔法が作動しない限り出入りは最も楽な門だった。

他の門では身分証や荷物の検閲など面倒な手続きが多いが、ここではそれもほぼ行われない。

その独特な東区画は別名を冒険者区と呼ばれていた。


「それに、コーラルさんは実績もあったし、今は私たちと一緒でしょう? それもあって早かったんだと思う。こう見えて、私たちちょっとは名の知れた冒険者になったのだもの」

「ああ、『スターライト』だっけ。どっかの街で一緒に演奏した吟遊詩人が歌ってたなぁ」


えへんと胸を張ったが、続くネヴァンの言葉でアンジュは顔を覆ってしまう。


「あの、歌は、ちょっと忘れてもらえたら」

「白銀を振るいし『暁の星』は夜明けの群青を織り込んだ夜の髪、黎明に輝く青のまなざし。魔術を操る『宵の星』は黄昏の光を編み上げた髪、夕暮れを染める美しき紫苑を溶かした紫水晶の瞳。疾風を纏う青銀の狼と共に駆け抜ける姿はまさしくこの地に降り立った鮮やかなる星の輝き――」

「恥ずかしいからやめてぇ……」


シャーナの澄んだ声が滔々と紡ぐ詩に、耳まで真っ赤に染まったアンジュは弱々しい声を上げてうずくまった。


「ネヴァンさん、門を開けるからって……どうしたの、アンジュ」

「いやちょっと君たちの歌をだな」

「ああ、うん。照れくさいやつね。僕はまぁ平気なんだけど、アンジュは恥ずかしいみたいだからあんまりからかわないであげてね」


疑問の声を上げたカイルも事情が分かると苦笑する。面映ゆいものはあるが、自分たちの宣伝も兼ねているのでカイルとしてはありがたいと思う方が強い一方、アンジュとしては自分の容姿を褒め称えられるのが恥ずかしくてたまらないのだ。


「なんであんな恥ずかしいこと言われてカイルは平気なのよ~」

「え、だってそりゃ僕の姿は詩的にするの大変だったんだなぁって感想なだけだし、アンジュの可愛さを伝えるにはまだまだ言葉が足りないから?」


不満の声を上げるアンジュだったが、カイルの当然といった言葉に撃沈し、もはや声もなく丸まってしまった。


「んで、もうすぐ家に着くけど、門の中に入っちゃってね」

「了解したよ……って、大きい家だなぁ」

「吟遊詩人の歌にもあったでしょ? 開かずの屋敷を手に入れたって。ここがそうだよ」


そんな話をしながらゆっくりと馬車が門に近づくと、ひとりでに扉が開いていく。


「ようこそ、大賢者の遺産であり僕たちの屋敷へ」




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