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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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3

高く低く、澄んだ声が響いている。

心が弾むような歌声に合わさるのは軽やかに弾む雨音のような、甘い調べのリュートだ。

近づくにつれてはっきりと聞こえてきたその音楽に、カイルはなるほど、と微笑んだ。


「久しぶりだね、あの人たちに会えるのも」


街道をゆっくりと進む二頭立ての幌馬車、その御者席には一人の少女が手綱を握っていた。

長い水色の髪を左右の高い位置で二つに縛り、大きな青い瞳が印象的な、おそらくカイルたちとそう歳は変わらないだろう少女。

近づいてくるカイルたちに気づいたのか、手慣れた様子で馬車を止めると立ち上がり大きく手を振っていた。


「やあ、ルリ。こんにちは」

「カイルさん、アンジュさん……ほんとに来た」


ぱちりと音がしそうな瞬きをして、ルリはふっと大人びた笑みを浮かべる。


「ネヴァン兄さん、カイルたちだよ」

「思ったよりも早かったね」


やあ、と中から顔をのぞかせたのは切れ長の目が印象的な黒髪の青年。そのままおいで、とカイルたちを手招きする。


「私はこのまま外の警戒をしていよう」

「わかった、じゃあセイン行ってくるね」


ひらりと身軽に御者席に飛び移ったカイルとアンジュは、そのまま中へと潜り込んだ。


「久しぶり、シャーナさん。さっき歌が聞こえてきましたよ」

「うん、だから迷わないですんだ」

「あらあら」


布で仕切られた手前の空間で微笑むシャーナ。長い黒髪とザクロ色のまなざしを持った美女であり、先程の澄んだ声の持ち主だ。その向かいに腰を下ろした青年ネヴァンの手には、楕円の形をした楽器がある。先程の少女ルリを合わせたこの三人は、旅楽団『黒き風』だ。

名前の由来はこの馬車を引いている二頭の黒い馬だとか。

ウィンドニルと呼ばれる風の加護を受けた妖精馬は、黒い体と白いたてがみが特徴だ。力強く風のように早く、そして荷台に衝撃を伝えにくい繊細な走りができる。

この二頭も妖精馬であり、楽器などの重い物を素早く運ぶ旅楽団には持ってこいと言えた。


「それで、コーラルさんは?」

「奥よ。それと、お客様もね」


仕切りのカーテンを広げながら、シャーナは人差し指を唇に当てる。静かに、と言外に告げられたカイルとアンジュは、そっと奥へと進んでいった。

三人の居住区でもあり楽器をしまう場所でもある奥。そこに見慣れた後姿を見つけ、カイルはそっと口を開いた。


「コーラルさん、カイルです。アンジュもいます」

「ああ、カイル君、アンジュさん……」


振り向き、ほうっと安堵の息を吐いたのは、たおやかな風貌の美しい青年だった。

腰まで届く長いまっすぐな琥珀色の髪。瞳は明るい蜂蜜色で、人を穏やかにさせる不思議な光を宿している。柔和な顔立ちと淡く色づいた唇に浮かぶ微笑はひたすらに優しいものであり、顔だけでなく全体的に線が細いのと相まって女性に見間違われることも多い。

そんな彼の手には濡れた布巾が握られており、ほんのりと薬草独特の香りがしていた。


「お呼びしてすみません。ですが、ヴェルデではどうにもならず……」

「ん? コーラルさんたちに治せない病気や怪我ってこと?」

「私たち、治癒系は使えないよ?」


二人が首を傾げると、そうではなく、とコーラルは首を振った。


「怪我や病気ではなく、どうやら呪いの一種のようで。それに、逃げてきた人たちのようなんです」

「ふぅん……そっち行ってもいい?」

「はい」


コーラルが体をずらすと、上半身を起こした少女と横たわる黒髪の青年がいた。

少女の方は不安そうな表情でコーラルとカイルたちを交互に見つめ、青年は熱でもあるのか荒い呼吸をしながらうっすらと目を開けて様子をうかがっているようだ。

どちらもあちこちに包帯がまかれ、怪我をしていることは明らかだった。


「先程お伝えした、私が最も信頼する冒険者の方々です。まだ年若いですが、実力は保証されておりますし、この方々の住まいは強固な結界で守られている……動けるまでの間くらい、安全だと思いますよ」

「……こんな、子供が?」

「はい。私が最も信頼する、冒険者です」


胡乱げな声を上げる青年だったが、あまりにもきっぱりと言い切ったコーラルに何かを感じたのかそのまま目を閉じる。


「どのみち……アンタがいなきゃ、死んだ身か……」


ふう、と息を吐くと動かなくなる青年に少女は慌てた様子で手を伸ばすが、胸が上下に動くのを見ると触れるのをやめている。


「お姉さんの方が元気そうだね。僕はカイル、一緒に来たのがアンジュだよ。お姉さんたちは?」


そう言ったカイルに少女は何か話そうと口を開くが声は出ない。

そんな少女に近づいたのはアンジュだった。


「なるほど、確かにこれは呪いのようなものだね……んー、この魔法系統はー……」

「アンジュ? そのお姉さんが呪われちゃってるの?」

「うん。お姉さん、喉に触ってみてもいい?」


少女は不安そうにコーラルを見る。それに対しコーラルが笑顔で頷くと、ぎゅっと目を閉じてから顎を上に向けて首を見せた。

触るねー、と軽く声をかけてからあちこち喉を触るアンジュ。


「コーラルさんの方では問題なかったんだよね?」

「はい。喉の炎症も熱もありません。呪いで声が出ないのであれば、水晶花の蜜を使った飲み薬が効果的かと思いますが、あいにく今在庫もないですし。それで、カイル君たちにはその蜜を取りに行くのを手伝っていただければと思って」

「コーラルさんの頼みならもちろん行くし、この人たちを屋敷に匿うのも大丈夫だけど……うーん」


難しい顔をしたアンジュはカイルを見ると、困ったように首を傾げた。


「もしかするとだけど、声、盗まれてるのかもしれない」




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