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スターライト・テイル  作者: 夕月 星夜


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「まぁ、よくお似合いですよ!」


にこにこと褒め称える店員に、シルフィーリアは困ったように微笑む。

今着せられているのは滑らかな手触りで軽いのに温かな灰色のワンピースだ。毛皮とは違う織られた生地だが、シルフィーリアには見覚えがない。

胸元の大きな臙脂色のリボンが可愛らしいが、はたして似合っているのだろうか。

アンジュを見れば、黒っぽい靴を持っていた。


「うん、よく似合ってる! シルフィンさんこれも履いてみて」


言われるまま、近くの椅子に腰を下ろして靴を受け取る。

何かの皮を鞣しただろう革靴は足首までを覆う形だ。足首の部分は切り替えされていて、着脱を楽にする為のくるみボタンは落ち着いた金色だ。足を入れれば内張がしっかりされているのか、非常に柔らかく足を包み込むように馴染んでくれる。

驚くのはその軽さだ。革靴とは信じられないほど軽く、それでいてしっかりと包まれている感覚がある。

これまでの日々で身に着けていた物との差に、その値段を考えるだけでシルフィーリアは目が回りそうだった。


「うんうん、大丈夫そうだね。お姉さん、これ一式買います」

「ありがとうございます」

「あ、あと、このワンピースと同じサイズの服を二着と、下着を……」


あっさりと購入を決めた挙句他の物まで買おうとするアンジュに、シルフィーリアは慌ててその手を掴んで止めようとする。

ぶんぶんと首を振って拒否を示すものの、アンジュはにっこりと笑って首を振った。


「駄目だよー、これでも必要最低限の服しか買わないんだよ? 必要なものなんだから、気にしないの」

『で、でも』

「だぁめ……ね?」


思わず、と気持ちを伝えかけたシルフィーリアに、アンジュは唇に人差し指を当てて見せる。

咄嗟に出かけた言葉達を、シルフィーリアは慌てて飲み込んだ。

街へ出るにあたり、シルフィーリアが思いを他者へ伝えられる力の事は隠すように言われていたのだ。

理由はいくつかあり、まだ使い始めたばかりの力である為調整に慣れていない事、大人数の中で暴走する可能性を否定できない事、そして万が一追って来ているであろう人に力がばれた場合どのような行動をとられるのかわからないからだ。

それゆえ意思疎通は筆談でと携帯用のメモとペンは渡されていたものの、着替えるにあたりそれらは一度手の届かない所へ置かれてしまっている。

結局止める事が出来ず、アンジュが納得するまで買われた結果、両手に抱えてもまだ余るほどの量になってしまった。

どうやって持って帰るのだろうと思ったシルフィーリアの前で、アンジュはポシェットを開くとそこへ荷物を詰めていく。大人の手のひら一つ分程度のポシェットへ次々入っていく荷物達に、シルフィーリアは目を丸くした。


「相変わらずとんでもない見た目の魔法カバンよねぇ」


カランと来客を示す扉の鐘が鳴るとほぼ同時に、笑みを含んだ声が響いた。

振り向いたシルフィーリアの目に飛び込んできたのは――赤。

故郷の、高い山々が一日の終わりに僅かな時間にだけ見せてくれる、鮮やかで美しい黄昏と同じ鮮烈な緋色だ。


「トリファシアさん!」

「はぁい、アンジュ。おっひさー」

「お久しぶりです、帰って来たんですね」

「そうだよー、いやぁ今回も疲れた疲れた……ん?」


アンジュと笑顔で話すその姿にぼうっと見惚れていると、ぱちりと目が合う。

困ったような笑顔に我に返り、シルフィーリアは慌ててメモを手に取った。


「ありゃ、声が出ない系? 慌てなくて……ぅん」

「トリファシアさんから変な声が出た! え、何が書いてあったの?」


差し出されたメモを見たトリファシアの頬が赤く染まり、覗き込んだアンジュが笑顔になる。

そこには、夕焼けのような美しい髪ですねと、ただそれだけが書かれていた。

何か失礼な事だったかと胸元で手を握るシルフィーリアに、アンジュは大丈夫だと頷いて見せる。


「あのね、トリファシアさんを見て気づく事、何かない?」


促され、改めて見たトリファシアには、確かに印象的な特徴が二つあった。頭の上の大きなお耳、そしてすらりと優美な曲線を描く尻尾だ。耳は黒、尻尾は白と何故これに気がつかなかったのだろうと目を丸くしつつ首を傾げるシルフィーリアに、トリファシアも笑い出す。


「あはは、耳や尻尾より先に髪色を言われたのは初めてだよ! だいたい皆、初見で触らせろとかうるさいからね」


そう言ってトリファシアはシルフィーリアに手を差し出す。


「気に入ったよ。アタシは『リコルティヴェール』のトリファシア。アンジュの知り合いならアタシも知り合いになっておくれ」


反射的に握り返していたシルフィーリアがピタリと固まり、驚愕と顔に書いたような表情でアンジュを見る。その姿に、アンジュとトリファシアは同じように噴き出したのだった。




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