2 前川零次 台風のち、嵐 1
恋。それは、俺にとって、それはとても不毛なものだ。
自覚したときには、失恋していた。
「私、淳お兄様のことが好きなんです」
泣きながらそういう道脇の姿を見て、胸が痛み、その痛みで気づいた。ああ、俺は道脇のことが好きなのか。
気づいたときには、失恋しているなんて、不毛が過ぎる。
特に、中学一年のときの文化祭は一生忘れないだろう。
倒れた道脇を抱えて──体格差があったが、日頃から鍛えていたおかげで、抱えることができた──保健室にいく途中のことだ。
「大丈夫か? もうすぐ保健室だから」
俺がそういうと、道脇はとても安心したようにすり寄った。心臓がどきりと音を立てる。けれど、道脇はうわ言のように呟いた。
すき、すき、すき、だいすき
わたし、あつしおにいさまのことがだいすきなの
……ああ。何を期待してたんだ俺は。
「……うん」
知ってるよ、お前が淳さんのことが好きなこと。
道脇を保健室に運んだあと、一樹兄さんに電話をして、一緒にいる淳さんに代わってもらい、道脇が倒れたことを伝える。
すると、ものの十分もたたないうちに、淳さんは血相を抱えてやってきた。
道脇は私、全然脈が無いんですといったが、そんな風には思えなかった。
心配そうに抱き抱える淳さんのその目は俺と同じに見えたから。
■ □ ■
「もし、振られたら俺がもらってやるから」
そうなって欲しい気はしたが、そうならない予感はしていた。
「だから、頑張れ」
そして、この言葉をいったら、もう一生自分達の関係が変わることはないのだと。わかっていて、背中を押した。──その結果、俺の恋は終わった。
■ □ ■
「だから申し訳ないが、君とは婚約できない」
俺が一通り、目の前の相手──道脇桃に話終えると、彼女は鼻で笑った。
「馬鹿な人ですね、ホワイトデーに飴なんか贈らず、直接言えばよかったのに」
「な、なんでそのことしって……!」
今年は気づくだろうか。いや、気づかないだろうな。そんな、想いで毎年飴を贈った。自分でも女々しいの一言につきる行動をなんで、彼女が知っているのか。
彼女はそれには答えず、
「楓さんは案外流されやすいから、告白すればころっといったかもしれないのに」
と言ってきた。
──伝えれば、何かが変わっただろうか。変わらなかっただろうか。確かなのは、俺は何も伝えずに、変わらなかったということだけだ。
「仕方ないだろ。あいつは笑うと可愛いんだ」
普段、無表情な分、笑うと破壊力がある。そして、あいつは淳さんの前だと本当に幸せそうに笑うのだ。
「知っています、そんな当たり前のこと。──それより、私と婚約ができない理由は、まだ楓さんのことが好きだから、ですか。まさか、そんなことだったなんて」
「そんなことって、お前!」
「そんなことです。だって、貴方が私を好きになれば、解決する問題でしょう?」
何をいっているんだこいつは。大概道脇もおかしいと思っていたが、その妹である彼女は、その上をいくらしい。
「必ず、貴方を振り向かせます。だから、婚約は私と結んでください。いいえ、私と貴方は婚約を結びます」
自信たっぷりに言い切った、言葉にぽかんと口を開ける。
俺も抵抗したはずだが、気づけば彼女の宣言通り、俺と彼女は婚約を結ぶこととなった。
──そこからが、波乱の幕開けである。




