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第一章 五話 陽動作戦


『辰生、報告。侵攻チーム第二と第三、所定の位置についたよ』


「了解。俺たちは着くまであと少しだ。なにか異常は?」


『特に無し。というか、この段階であったら困る』


「それもそうだな」


 燈榎との通信を終え、走るのに集中し直す。

 俺たち侵攻チームは、広がった中立エリアの物陰に隠れつつ一時的な戦線を作る予定だ。

 

 セントラルポールまでを戦うのが第二、第三小隊。

 俺を含む第一小隊はしばらく力を温存だ。


 侵攻チーム第二、第三小隊異常なし。

 防衛チーム、異常なし。アイヴァンスの様子もいつも通り。

 待機チーム、当然異常なし。楓と百合は既に操作や対応に慣れてきている。


 今では、前に時雨達の小隊が広げた中立エリアの中腹より深くに潜り込んでいる形だ。

 燈榎が調べた限りでは、陸軍に動きはなし。

 陣形の変更は若干あったものの、対応済みだ。


「……侵攻チーム第一小隊、所定の位置に着いた」


『りょーかい。んじゃ、一応の作戦確認したら始動ね』


 その声と共に、それぞれ小隊と拠点でしか繋がってなかった通信のチャンネルがオープンになる。

 そして、全員が俺の言葉を待つ。



「作戦確認。目標、セントラルポールの一時占拠と放送。および、放送の間の防衛。ルールは必ず生きて帰ること」


 全員が力を込める音が聞こえた気がした。

 生きて帰ること、できるだけ相手を殺さないこと。

 これがナイト・バタフライの鉄則、それは変わらない。


「じゃあ、始めよう」


『『『応っ!』』』


 通信から全員の返答を聞き、オープンチャンネルから通常に戻った。

 俺も周りのメンバーと共に走り出す。

 



◆ ◆ ◆


『第二侵攻チーム、陸軍の対アイヴァンス部隊の巡回兵に遭遇。無事に昏倒させて侵攻したわよ』


「了解。……こちらも恐らく巡回の兵士と遭遇、時雨が即昏倒させた」


『はーい』


 作戦確認から約十分。

 同時に陸軍エリアに潜り込んだ俺達は、もれなく戦闘を開始していた。


 ただし、こちらは燈榎の"メラ"によって相手の位置を大体把握している状態だ。

 そして、出会う瞬間に気絶させて捕縛している。

 同時に通信機器も取り上げて壊してあるはずだ。


 だが、接触した時点でこちらの侵攻自体はバレていると思った方がいい。

 定期報告はあるだろうからそれが途切れれば嫌でもわかるし、動向を見るために兵士の位置を確認できるようになっている可能性もある。


「辰生、前からアイヴァンス。蟻かな、二匹よ」


「倒しておくか。帰りに大群でいたりしたら話にならん」


「了解。──"一閃"!」


 時雨がアイヴァンスを一刀両断。

 死骸を通り抜け、通路を侵攻する。


 具体的には、状況にもよるが陸軍エリアの真ん中以上を進んでおきたい。

 むしろ、それより先を隠れながら進むのはほぼ不可能だ。

 いくら死の蔓延る場所でも、陸軍がそこまでのヘマはしない。


 アイヴァンスを処理している間に燈榎が"メラ"を進める。

 そして、陸軍兵士が通路にいないことを確認した。

 次のポイントまで進んで、また確認を繰り返す。


『第三侵攻チーム、蟻系アイヴァンスと接触。撃破完了よ』


「拠点は今のところ問題ないか?」


『問題なーし。楓も百合も慣れてきたからね。第二段階まで来たらさすがに三人で分担するけど、それまでは大丈夫。桐山からの被害報告もないからいたって平和なもんよ』


「了解。このまま行けばあと十分で第二段階のポイントにつくぞ」

 

『はーい。第二、第三チームもそのくらいかなー』


 通信を終える。

 そして侵攻方向を向き、


「──チッ」


 能力を発動。

 銃弾を空中で破壊する。


 通信に"メラ"を使っていたせいで偵察を怠ってしまった。

 今の銃弾は、鉢合わせた陸軍兵士二人のうち一人の撃ったものだ。

 もう一人は通信機を手に既に報告を始めている。


 メンバーが制圧にかかるが完全に出遅れていた。


「燈榎、聞こえるか」


『はいはーい? なにー?』


「予定変更だ。第二段階を開始してくれ。他の侵攻チームにはすまないが今すぐポイント近くまで急いでもらって到着し次第始めるように通達」


『りょーかいっ。というか、全員聞こえてたわね?』


 いつのまにかオープンチャンネルにしていたようだ。

 察しが良くて助かる。



 想定より早く陸軍側に侵攻が伝わってしまった。

 ゆっくり進むのを止め、警戒はしつつ走って行くことになる。


 またほんの少し白くなってしまった髪のことを考えるのは、帰ってきてからだ。



◆ ◆ ◆



 陸軍側に侵攻が伝わってから数分後。

 侵攻チームはなんとか第二段階の位置にたどり着いていた。

 今、俺を含む第一侵攻チームは一応隠れて期を待っていた。



「──きたか」


「第二段階開始ね」


『第二、第三侵攻チームが陽動を開始したわよ。あと、第一侵攻チームの目の前の通路には今のところ敵はなし』


「よし、俺たちは継続して隠密行動だ。行くぞ!」



 作戦はとても簡単。

 ある程度相手のエリア内を侵攻、中腹あたりで第二、第三侵攻チームが派手に飛び出して注意を引く。

 その間に俺たちが隠れて侵攻、一気にセントラルポールにたどり着く予定だ。


 むしろ、第一侵攻チームはセントラルポールにたどり着いてからが本番であり長い戦いになる。


「他の侵攻チームはどんな感じだ?」


『ええとね、とっても──』





『──順調だね』


「順調っすよ、辰生さん」


『その声は、宮地か』


「はい。第二侵攻チーム異常なし。沢村君が少し前に出てるくらいっすね」


 燈榎によって会話のチャンネルを繋いだのが宮地。

 第二侵攻チームの小隊長を務めている。


 通信系の異能だから、と抜擢された役ではあるが宮地はその任をしっかりと果たしていた。


(沢村君、さすがに前線に出すぎっす。適度に出てくださいとは言ったっすけど、手綱の取れない位置に行かないで欲しいっすね)


(む、難しいぞそれは)


(やってほしいっすね。じゃないと奈摘さんに言いつけるっすよ)


(……今から戻る。だから勘弁してくれ)


 第二段階で宮地の小隊が任されたのは陽動。

 大きな破壊をすることで第一侵攻チームの潜入をバレにくくする為だ。

 だが、都合よく異能の内容が弄れるわけではない。

 というわけで派手な破壊は沢村に、その他の自分を含む三人は沢村のサポートをしている感じだ。


(八代さん、陸軍兵士の漏らしはないっすね?)


(今のところは、です。沢村君の破壊してまわった所を辿って見ているだけだから離れたところはわからない、です)


 メンバーの中の、感知のできる異能持ちの子に声をかける。

 今回は奈摘が別の小隊にいるため、彼女ではなく八代という一つ下の子がメンバーだ。

 沢村が注目を引いて、その影で三人で手分けして陸軍兵士を昏倒させていく。

 その連携に今のところ不備は出ていない。



(報告、です。沢村君と宮地さんの周辺に反応あり。形状から恐らく、アイヴァンスです)


(ラジャーっす。ちなみに種類は何かもわかったりするっすか?)


(たぶん、モグラ……かな……? 図体はまあまあ大きめ、です)


(聞いてたっすね、沢村君?)


(焼けばいいな?)


(遅れがでず処理できるなら何でもオーケーっすよ)


 ……自分も戦闘向きの異能ではないっすけど、モグラとかは得意な部類っすから。


 地面の亀裂が広がり、地中から異形の大モグラが飛び出してきた。

 体長一メートル、カギ爪をいれたら一メートル半にもなるアイヴァンス。


 その姿を見た宮地は、走りながら目をつぶり集中する。

 そして、そのとたんにモグラは見えないなにかに対して爪を振るいだした。


「アイヴァンスになっても、モグラはモグラっす。目はほとんど見えていない。そこで、明晰な映像でモグラ自身の姿を見せてやれば……初めての光景で混乱しつつ、攻撃を仕掛ける自分の映像に攻撃をする」


 モグラがその位置で動かず暴れるようになったのを確認し、楓に貰った銃を構えた。

 もちろん拳銃のような簡単なものではなく、射程も威力も段違いの代物である。

 その代償に少し重いのだがアビス能力者となった体ではほとんど差異を感じない。


 引き金を引き、銃弾がモグラの眉間を貫く。

 反動を抑えて照準を再度修正し最後っぺが来てもよいように備える。


「キョォォォ……」


 幸い、モグラはそのまま倒れた。

 一応のトドメにもう一発だけ、今度は顎の方から撃ち込んで先へ進む。


 今の戦闘音によってこっちに気がつき向かってきた陸軍兵士二人と遭遇したが、モグラの時の要領で抑えた。

 もっとも、混乱したところで手刀を叩き込み縛り上げただけで撃ってはいないが。


「ただの連絡員と思ってもらっては、困るっすよ?」


(一人言、です?)


「……流しておいていただけると助かるっすね」


(わかりました)



 沢村がまた派手に打ち上げた火を見ながら、そう答えた。

 能力の発動が遅れたら今陸軍兵士の倒れているところにいたのは自分だった、と気の緩みを反省しながら。






ストック切れました。

できるだけ早めの更新を心がけますが、不定期になるかと思います。

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