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MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第一話「絶望の始まり」
6/27

6.コンテナとパイロット

 ・修正(2015/02/15)

 「第一話 5」:エルが意識を失っていた時間を、「一瞬」→「一体どれだけ意識を失っていたのか分からない」に変更。


 エルの視線が周囲の人々と、アイコとの間を揺れた。


「俺は……」


 立ち上がった彼の足が一歩、アイコの方へと踏み出され――しかし彼は踵を返し、走り出していた。横転したマギクラフト運搬車へと。


 ――何やってんだ、俺はッ……!


 アイコだけでも背負って逃げるべきだと、そう頭ではわかっているのに……なぜか、身体が動いてしまっていた。自分でも理解不能な行動。しかし、その足は止まらない。

 エルは運搬車へと駆け寄り、コンテナをよじ登り、なんとか、そこに出来ていた穴まで辿り着く。


「はぁっ……はぁっ……」


 乱れた息のまま、その中を覗き込もうとしたその時、エルを振動が襲った。戦闘の影響か、コンテナが大きく揺れた。それにより、エルの足が空を踏む。身体が、暗闇の中へと落ちていった。


「かっ……はっ……」


 衝撃がエルの身体を襲った。金属の床――コンテナの壁に身体を打ち付けたエルの息が、一瞬詰まる。ぶつかった音がコンテナ内に木霊した。


 エルはなんとか、痛みを堪えながら立ち上がる。周囲は暗闇に包まれていた。唯一、コンテナの穴から差し込む光が、エルだけをスポットライトのごとく照らし出していた。


「はぁ……はぁ……」


 なぜか、酷く息苦しかった。心音が早かった。エルが腕輪の巻かれた腕を持ち上げた。指先が何もないはずの宙をタップする。次の瞬間、グラスビュアのライトがオンとなり、周囲の景色を照らし出した。

 暗闇の中に、ソレが浮かび上がった。


「……なん、だよ。これ」


 エルの口から、無意識に言葉が溢れていた。見開かれた目が捉えたのは、


「――マギクラフトが、ない」


 何もない、空間だった。


「……は、はは、ははは……!」


 エルの口から乾いた笑いが溢れる。その場に崩れ落ち、自身の頭を抱えた。


「俺は、馬鹿だ……」


 一体、何を期待していたんだろうか。ここにはマギクラフトが搭載されていて、でも乗り手がいなくて……なんて事を期待していたのだろうか。


「――ロボットアニメの、見過ぎだ」


 アイコの事を言えない自分に、笑いが出そうになる。

 答えはもっと単純だったのだ。マギクラフトなど、この三台目の運搬車には搭載されていなかった――だから、出撃もしなかったのだ。そんな、当たり前過ぎる現実だけがここにはあった。


 ……いや、この空間も全くの空っぽ、というわけではなかった。コンテナの中央には、随分としっかり固定されているように思う、高さ二メートルほどの、円柱形の金属塊があった。それはどこか、容れ物のようなもの見えた。


 ……が、そんな物はなんの役にも立たない。

 全員を助けようだなんて、俺にはあまりにも欲張り過ぎた、分不相応な願いだったのだ――エルをそんな後悔が襲いかけた、その時。


 ――世界が揺れた。


 鼓膜が破れそうな程の爆音と、衝撃がエルを襲った。コンテナが上下左右に振られる。エルは何度も身体を壁や床、天井にぶつけながらも、なんとか頭だけは守りきった。


 気がついた時、コンテナの中央は、大きく陥没していた。そこには、装甲の一部が歪み火花を散らしている、マギクラフトが倒れていた。


 コンテナ中央にあった、先ほどの金属製の円柱もまた、マギクラフトによって押し潰されていた。赤い液体が、残骸から滲みだしている――中に何が入っていたのかなど、今はもう知れなかった。


 マギクラフトにより開けられた穴から、空が見えた。そこにはもう一体のマギクラフトがあった――巨大な腕に掴まれ、天高く掲げられていた。


 ……一体、いつの間に。

 エルはすぐそこまで接近していた投石機型のマギアを見て、理解する。このコンテナに突っ込んで来たマギクラフトは、あの巨腕に殴り飛ばされたのだと。


 そして、


 ――破砕音が、あたりへ響き渡った。


 投石機型に掴まれ、天高く掲げられていたマギクラフト。それが握り潰され、砕け散った。

 破片が辺りへと振り注ぐ。落下し、地面やコンテナの天井とぶつかって起こる金属音が、あたりで木霊していた。


 コンテナの外、あちこちで今まで以上の悲鳴が……いや、断末魔が上がる。撃ち漏らしたマギアが、市民へと襲いかかり始めたのだ。


「……俺、は」


 選択を間違えた――そんな後悔と絶望が、エルを苛む。アイコだけでも背負って逃げるべきだったのだ。


 コンテナに突っ込んできた方のマギクラフトは、まだ完全には破壊されていなかったのか、ギギギと金属の擦過音を鳴らしながら身体を起こした。

 エルは、無力だった。エルにはもう、願う事しか出来なかった。


 ――どうか、敵を倒してくれ。アイコを助けてくれ、と。


 しかし、


「……え?」


 マギクラフトはまるで後ずさるように、その機体を動かした。怯えるように機体の足を振り回し、たかってくる蜘蛛型のマギアを蹴り飛ばす。そのまま四つん這いになり、背中を見せる。

 マギクラフトは、逃げようとしていた。エル達を置いて、この戦場から。


「……嘘、だろ」


 エルは愕然とした。


「おい……ふざけるなよ……おい……」


 その胸中に、熱い、粘性の高い感情が沸き起こる。それは、怒り。そして……渇望だった。

 逃げるくらいなら――。


「――寄越せ、よ」


 ぼそり、とエルの口から声が溢れた。それはとても低く、冷たい声だった。彼の口から出たとは思えぬ程に。


「だったら、それを俺に寄越せよ……!」


 エルがそう口にした、次の瞬間。逃げ出そうとしていたマギクラフトの動作に変化が起きた。まるでもがき苦しむかのように、その場で暴れ始めたのだ。


「ッ……なんだっ!?」


 自分のすぐ側をマギクラフトの巨大な鉄の拳が叩き、コンテナが歪む。エルはその衝撃にコンテナ内を転がった。

 エルは我に返った。あと少し拳がズレていれば、死んでいた。


「何、やってるんだ俺は……!」


 今からでも、アイコを連れて逃げるべきだ。

 そう思い立ち上がった時、機体の動きが止まり、その胸部が稼働した。装甲が前へと迫り出し、コクピットが露出する。黒いスーツを纏ったパイロットが、そこから転げ落ちた。


 コンテナの床に踞るパイロット。その様子は異様の一言だった。


「あぁ……ぁああああっ、ち、違う……ワタシは、ただ……恐れてなんか、ワタシは、逃げようとしたわけじゃッ……た、助けてッ……!」


「なん、だ……?」


 エルが、何が起きているのか確かめるかのように、パイロットへ一歩近づいた。パイロットはその身体を掻き抱いていた。そして――その時は、訪れた。ぼこり、とその身体の一部が膨れ上がったのだ。


「あ……あ、ぁああ、あぁああ、ぁあぁああああああッ!?」


 連鎖するように身体のあちこちが膨れ上がり、そして――破裂した。半壊したコンテナの壁、床、天井。その全てが鮮血に染まり、臓物が飛び散った。エルの身体が、真っ赤に染まっていた。


 べちゃり、とエルの頬に貼り付いていていた肉片が床へと落ちる。一体何が起きたのか、エルには分からなかった。胃が一気に収縮した。エルはその場に手に着いて四つん這いになり、胃の中身をぶちまけた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 呼吸が速い。心臓も早鐘を打っている。辺りは酷い臭いだ。なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは――エルを混乱が苛んでいた。


 だが、エルに休んでいる間などなかった。

 コンテナの外で上がった悲鳴がエルの耳へと飛び込んだ。悲鳴はあちこちで上がり続けている。そして、コンテナを這い上がってくる足音が四方から木霊していた。


 周囲を見渡したエルの視界には、コンテナのあちこちに出来た裂け目に差し込まれる、無数の巨大な指が見えた。蜘蛛型のマギアがこのコンテナに集っているのだ。


 と、彼の視界にもう一つのものが映り込む。それは、コクピット。マギクラフトは、今なおその搭乗口を開いていた。

 望んでいたはずの機体。だがエルは苦みを堪えるように歯を食いしばった。先ほどとは状況が違いすぎるのだ。


 先ほどまでは、正規のパイロットとマギクラフトが二機がいた。エルはそこへ、ただ加勢するだけだった。だが今は違う。エルしかいないのだ。勝てる、わけなどない。


 しかし、選択肢もまた彼にはなかった。


「くそッ……!」


 コンテナを破壊する音が周囲から鳴ったのと同時、エルは床を蹴った。


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