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MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第一話「絶望の始まり」
5/27

5.逃走と恐怖

 マギアから逃げる運搬車。そのコンテナの上部が開き、内部を外気に晒した。

 ゆっくりとコンテナ内部の装置がせり上がっていく。姿を現したのは、ハンガーに固定されたマギクラフトだった。


「きゃぁああああああぁ〜っ! ク・ラ・ウ・ドぉおおおおお〜っ!!」


 衝撃をものともしていないらしいアイコが、歓喜の声を上げた。何度か彼女に語られた記憶がある。あれは、第二世代型・量産型マギクラフト――蔵人クラウドだ。


 その外観は薄い茶色に統一されている。

 腰と両肩に、計四つの、大きなトゲのような物があった。センサ類が集中する頭部に、目のようにも見える緑の光が八つ、灯った。トゲと手足を合わせれば八本、そして八つ目……まるで蜘蛛のようだ、とエルは思った。


 コンテナから機体を露出させた運搬車は、二台。

 二機のマギクラフト――その腕を固定していた器具のロックが解除される。機体の腕が脇へと伸びる。その手が掴んだのは、同じくハンガーに固定されていた銃器だった。

 その銃器には、大きな銃口が二つ備わっていた。


 マギクラフトが、銃器にドラム式のマガジンが装着させる。二機のマギクラフトが、迫りくるマギアへと向けて引き金を引いた――遠距離から。

 マギアに対して無効だと言われるその攻撃。しかし、思いのほか気の抜けた音と共に射出されたのは単なる弾丸ではなかった。それは、なにやら白い塊だった。


 マギアに着弾したそれは、マギアにダメージを与える事もなく、ただその身体に貼り付いた、だけのように見えた。が、次の瞬間。白い塊をその身に受けた二体のマギアが、すっ転んだ。


「あれは……トリモチか?」


 巨大な掌のような蜘蛛型のマギアの、その指と指が貼り付き、丸まって地面を転がっていた。殺せなくても、動きを止める事はできる。そのための装備こそ、通称トリモチ――正確には、バードライムガンだった。

 トリモチと普通のショットガンとを撃ち分けることで、敵の動きを止めてから倒すのが、小型のマギアを相手に戦う時のセオリーだった。


 ともかく、トリモチによって二体の蜘蛛型の動きが封じられる。

 マギクラフトを乗せた二台の運搬車が、急ブレーキを掛けた。そして、停止するや否や、マギクラフトを固定していた器具のロックが完全に解除される。


 トリモチによって作ったわずかな時間を用い、マギクラフトが大地へとその足を下ろした。

 その重量からくる振動が、地面を通してエル達へと伝わった。しかし、どうした事だろうか。三台のうち最後の運搬車は止まる事なく、機体を出す事もなく、そのままこちらへと走ってくる。


 二機で戦力は十分だから、だとは思えない。となれば、じきにここも戦場となるだろう。

 エルは逃げてくる人の波を逆らい、ようやくアイコの元へと辿りついた。そして、彼女の腕を掴み、叫ぶ。


「アイコ、いい加減にしろッ! 逃げるぞッ!」


「……あれぇっ? エルくんぅ〜?」


 戦闘に見入り、完全に周囲が見えていなかったらしいアイコが、惚けた声を出した。エルはそんな彼女の腕を引き、ここから去らんとした。が、アイコが足を突っ張って抵抗する。


「チッ……この馬鹿っ! 戦闘シーンなら生中継でいくらでも見れるだろッ!」


 マギアとマギクラフトとの戦闘は、その多くが生中継で配信・報道される。エルは嬉々としてそれを見るアイコに付き合わされ、一緒に鑑賞する事が多々あった――とはいっても、エル自身にマギクラフトへの関心はなく、流し見も良い所だったのだが。


「や、やだぁ〜ッ! 映像と生じゃ、全然違うのぉ〜っ!」


「ああ、もうッ……!」


 全く聞き分けようとしないアイコに舌打ちし、エルは言い方を変えた。


「お前がここに居たら、マギクラフトが全力で戦えないだろうが! その所為でマギクラフトが負けちまってもいいのか!?」


 その言葉にアイコは、ハッと動きを止め、顔を上げる。


「た、確かにぃっ……!」


「わかったらさっさと行くぞっ!」


「わかったぁ〜っ!」


 なんとか説得に成功したアイコを引っぱりながら、エルは走り始める。同じように逃げ出す人々の最後尾に続いて、駅の方面へと向かう。

 後方から爆発音が度々起こり、衝撃に何度も地面が揺れた。揺れに足を取られて転んだ人に、さらにその人につまづいて人が転んだ。怒声や悲鳴が木霊する。あたりは完全に、パニックに陥っていた。


「アイコ、しっかり腕を掴んでろよッ!」


「う、うんっ!」


 高台になっていた場所から、駅へと向かい、だんだんと下って行く。エルは、全力で走っているはずなのに、全然前へと進んでいないような錯覚に陥った。

 それは、エル達の背後から、彼等が逃げる以上の速度で、爆発音が――戦闘の音が迫って来ているからだろうか。


 と、ようやく駅へと続く大通りまで辿り着く。あとはこの道をまっすぐ進むだけ――そう、エルが思った次の瞬間、すぐ真後ろで大きな破裂音が起きた。地面が大きく揺れた。


 振り返ったそこには、大通りを疾走する巨大な運搬車と、それに取り付く何体もの蜘蛛型マギア。そして、さらに迫り来る複数体の蜘蛛型を、ショットガンで牽制する、マギクラフトの姿だった。

 破裂音は、ショットガンが放たれた事によるものだった。


 エルは、その景色がスローモーションに見えた。

 運搬車は、その大きな車体の所為で、歩道に半ば乗り上げながらこちらへと走って来ていた。そして、今にしてようやく、運転手が逃げ惑う市民達に気付いたのか、運搬車にブレーキが掛かる。ハンドルが切られる。車体がゆっくりと腹を見せていく。

 が、遅い。


 ――かれる。

 そう、エルはそう直感した時。


 ――運搬車が、爆散した。


 いや、違う。投擲されたマギアが、運搬車へと着弾したのだ。

 爆風と衝撃がエル達を吹き飛ばす。そんな中、至近で起きた爆発により砕かれたアスファルトの破片が、建物やコンクリートのブロックが、エル達を襲った。


 ――ピクリ、とエルの身体が動いた。


 エルは気がつくと、地面に伏していた。一瞬か、はたまた数分か。彼は、自身が意識を失っていた事に気付く。

 全身に痛みを覚えながら、エルは顔を上げた。その目に映ったのは、ほんの少し前とは、まるで変わってしまった町の景色だった。


「……んだ、よ。これ……」


 地獄、だった。

 あちこちから、痛みに泣き叫ぶ声が、呻きが聞こえてくる。真っ赤な血が、臓物が、当たりに散乱していた。なぜか異様な程にはっきりと、鉄臭さと生臭さ、そして何かが焦げるような臭いを感じた。


「あ、アイコ……」


 彼女が無事かと周囲を見渡そうとして、地面に着いていた手が何かにぶつかった。そこにあったのは、先ほどまで演説していた御心会の男の首だった。


「……あ、」


 エルは気が付いた。この臭い……これは、死の臭いだったのだ、と。


「あ、あぁあ……ぁ、ああああ」


 エルはみっともなく、逃げるかのように後ずさった。


 ――恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。


 恐くて恐くて、たまらなかった。

 ほんの10分か、そこら。たったそれだけの時間で、エルの世界はあっさり崩れさっていた。


 彼は今までずっと、心のどこかで思っていた――マギアとの戦いなんて、自分には関係がない、と。だからずっと、マギアにもマギクラフトにも、授業のテストで必要になる以上の興味も抱いていなかった。

 画面の向こうの出来事だと、教科書の中の出来事だと、そう思っていたのだ。


 ――でも、違った。


 死は、こんなにも身近に存在していたのだ。自分達の命は、こんなにも脆く、軽いものだったのだ。


 エルは気付く。少し離れた場所に、見慣れた、アニメに出てくるロボットのキーホルダーや缶バッジが付けられた、ウエストポーチが転がっていた。そしてその先には、アイコが倒れていた。

 しっかり掴んでいたはずのアイコの手は、いつの間にか解けていた。


 エルは、震える足で立ち上がろうとした。アイコ一人なら、担いでいける。頑張れば、逃げ切れるかもしれない。自分たち二人だけなら、生き残れるかもしれない。

 そんな彼の耳に、声が届いた。


「助けて……」


 足を失った子供が、こちらへと手を伸ばしていた。


「……っ」


 悲痛と懇願がないまぜになったその目に、エルが怯んだ。その時、背後で爆発音が――射撃音が鳴り響いた。振り返ったそこには、ショットガンを足下へとバラまくマギクラフトと、その機体へ群がるマギアの姿があった。

 しかし、明らかに戦力が足りていない事がわかる。


 直に、マギアに撃ち漏らしが出てくるだろう。蜘蛛型のマギアは小型とはいえ、それでも全長3メートル――人の倍近い大きさはある。もし接近されれば、生身の人間に抗う手段などない。


 その時、ふとエルは気付いた。

 すぐ近くに、損傷した運搬車が横倒しになっていた。マギアが着弾する直前にハンドルを切っていた所為だろうか。直撃は免れ、コンテナの腹部分をかすめるに留まったようだった。

 どうやらそのおかげで運搬車が吹き飛ばされ、自分達が轢かれずにも済んだらしい、と悟る。


 マギアが衝突したらしいコンテナの腹部分は大きく歪み、その内部の暗闇を、わずかに覗かせていた。それは人が通れそうな程の、穴。


 エルはもう一度振り返った。そこには大勢の、自分とは縁も所縁ゆかりも他人。怪我を負い、あるいは瓦礫に埋もれ、あるいは意識を失い、あるいは足が竦んで動けなくなっている……自分へと助けを求めている、大勢の他人。

 そして、たった一人の大切な幼なじみである、アイコ。


 エルの視線が周囲の人々と、アイコとの間を揺れた。

 

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