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5月10日 (木)・後

 満足のいくまで遊び終え、僕達は店の外に出る。

 空に浮かぶ夕日は、もう沈みかけていた。

「さてと、腹も減ってきたしそろそろ帰るか」

 竜二の何気ない一言に僕はあることを思い出す。

「あっ、忘れるとこだった」

「どうした亮、忘れものでもしたか?」

 友也が不思議そうな顔で聞いてくる。

「いや大したことじゃないんだけど、食材の買い足しをしようと思ってたんだよ」

「あっ! 私も買い物のことをスッカリ忘れていました」

 白河さんも思い出したように言った。

「いつもどこで買い物してるんだ?」

「駅前のスーパーだけど」

「それなら、ついでに寄って帰るか」

「いいぜ、俺様も荷物持ちぐらい手伝ってやるよ」

「ありがとう。じゃあお願いするよ」

「おうよ、任せとけ!」

 ドンッと竜二が自分の胸を叩く。

 ベンチプレス200キロの記録を持つ竜二の力は、こういうときにも頼りになるのだ。


「一人暮らしってのも気楽そうで面倒だな。家事とか全部自分ですんだろ」

「竜二が将来一人暮らしとかしたら苦労しそうだよね」

 竜二は家庭科の授業で鍋を爆発させた伝説を持っている。

「そんときは亮んちに泊まり込むらいいよ」

「なんでそうなるのさ……」

「おっ、亮と竜二の禁断の生活の始まりだな」

 そんな生活は絶対に嫌だと切に願う。

「き……『禁断』の生活ですか!?」

 何故か白河さんが『禁断』の部分を強調して食い付いてきた。


「はわわわわわわわ……神谷君と真田さん……ダメですよそんな!!」

 白河さんは顔を真っ赤にしながら、何かいかがわしそうなことを想像もとい妄想していた。


「前からもしや思っていたんだが、白河って真面目そうに見えて実はちょっとアレだよな」

「何だよアレって?」

「……神谷君と真田さん。いや神谷君と風間さんの方が私的にはアリ……ブツブツ……」

「いやっ、ナイからね!!」


 そうこうしているうちに駅前のスーパーに着いたので店内に入って買い物を開始する。

 まずは野菜から買うことにした。

 適当に選んだ野菜をいくつかカゴに入れようとすると

「神谷君、キャベツはそれよりもこっちの方が良いと思いますよ」

 白河さんの言葉に僕は手の動きを止める。

「どうして?」

 つい疑問に思い聞き返した。

「キャベツは大きいものよりも重くて身が引き締まっている、かつ葉が黒くなっていない物の方が鮮度が高くて美味しいんですよ」

 白河さんは分かりやすく解説をしてくれた。


「へぇ、白河は食材の良し悪しがわかるのか」

 横にいた友也もその様子に感心していた。

「はい、食材選びは料理の基本ですから」

 さすがは料理上手と言ったところか、とりあえず食べれればいい僕とは根本から違っていた。

 その後も僕は白河さんに食材選びのコツなどを教えてもらいながら買い物を続ける。

 食材を選んでいる白河さんの表情は真剣そのものだった。

 いつも笑顔を絶やさない彼女の真剣な表情はどこか新鮮に思えた。


 レジで会計をするとお釣りと一緒に何かの券を貰った。

「今、青篠駅前で行われている福引の券です。今日もまだ行われていますので宜しかったらどうぞ」

 受け取ったお釣りと福引券をサイフにしまう。

「ありがとうございました。またお越しください」

 店員さんに見送られながら、先に外で待っていた友也達に合流した。


「荷物持ってやるぜ」

 竜二の保有スキル、優しさが発動。

「僕は大丈夫だから、白河さんのを持ってあげてよ」

「あいよ。ほら貸しな」

「ありがとうございます。じゃあこれをお願いします」

「これだけでいいのか?」

「はい、こっちは軽いですから私でも平気です」

 何とも微笑ましい光景だった。


「そういえば会計をしたときに福引券貰ったよ」

「あ、私も貰いました」

 そう言って白河さんは福引券をポケットから取り出し二人に見せる。

「ほー福引か、せっかくだしやっていこうぜ。案外良い物当たるかもしれないぞ」

 友也が見ていた福引券をヒラつかせながら言った。

「やっても当たらないと思うけどね」

 福引と宝くじは期待するだけ無駄だと僕は昔から思っていた。

 自分の人生の中でポケットティッシュ以外を当てたことあっただろうか思い出せない。


「そんなのやってみなけりゃわからないだろう。ほら終わっちまう前に行こうぜ」

 友也は一人悠々と歩き出す。

「あ、待ってよ!」

 友也の一度決めたら聞かない性格を熟知している僕達も後をついていった。


「おっ、あれじゃねえか?」

 福引き所は駅のすぐ手前にあった。

「福引券は僕と白河さんで一枚ずつあるけど誰が回す?」

 正直、僕よりも友也がやった方が当たりそうな気がする。

「そりゃ、福引券を貰った本人が回さないで誰が回すんだ」

 当然と言わんばかりに友也は答える。


「出来れば松阪牛一年分とか頼むぜ」

「そんなもの無いって……」

「松阪牛はともかく、何かしらは期待してるぞ」

「はい、頑張ります!」

 白河さんはヤル気満々だ。

 こういう小さなことでもテンションが上がるタイプらしい。

「神谷君、行きますよ」

「う、うん」

 まぁダメで元々、僕は福引をすることにした。


「お願いします」

 係のおじさんに福引券を渡す。

「はい。一枚だから一回、回してね」

 僕は言われた通り、抽選機もといガラガラを回す。

 ガラガラと回る抽選機からポトンッと緑色の玉が一つ出てきた。

 せめてポケットティッシュじゃありませんようにと、切実に願う。

「五等だね、おめでとう。はい、景品のデスティ二ーランドの割引券」

 微妙な順位だがそれでも当たりは当たり、喜びもひとしおだ。

「やりましたね、神谷君!」

 まるで我が事の様に白河さんが祝福してくれる。

「うん、ポケットティッシュじゃなかっただけよかったよ」

「じゃあ、私も張り切っちゃいますよ」

 今度は白河さんが券を片手に出陣した。


「どうだった?」

「五等でデスティニーランドの割り引き券だったよ」

「ほらな、案外やってみるもんだろ?」

 邪気のない笑みを浮かべながら友也は言ってきた。


 その時……

「カランッカランッ!!」という突然のベルの音に僕達は何事かと振り向いた。

 見ると係のおじさんが振り上げた手でベルを鳴らしていた。

「おめでとう! 二等、大当たりだよっ!」

「本当ですか!? やったぁ!!」

 なんと白河さんはたった一回のチャンスで二等を引き当てていた。

 きっと生まれつき僕とは持っているものが違うのだろう。


「はい、賞品だよ」

「ありがとうございます。皆さん、私やりましたよ!!」

 興奮冷めやらぬ様子で白河さんが嬉しそうにはしゃいでいた。

「凄いよ、白河さん!」

「まさか、二等とはいえ本当に当てるとはな。正直、俺もビックリだ」

「私だってやる時はやりますよ」

 えっへんと白河さんが胸を張る。

「で、何が入ってんだ?」

「えーと、ちょっと待って下さいね」

 景品として渡された封筒を開けて中身を取り出す。

 出てきたのは一枚の紙切れ。


「何かの券、ですかね?」

「どれどれちょっと見せてみな…………こ、これはぁぁっ!?」

 券を手渡された友也が驚愕の声を上げる。

「何だよ、気になるじゃねえか早く言えよ」

 友也のあまりのリアクションに皆の期待が高まっていた。

「……ああ、レストランの食べ放題券だ」

「それ、二等にしてはショボくねぇか……?」

 確かにそれだけでは僕のデスティニーランドの割引券と大して変わらない。

「フ、フフフフフフ……」

 しかし友也は一人で不敵な笑い声を上げていた。

「な、何だよ? 気味が悪ぃな」

「聞いて驚け!! レストランといってもそこらのファミレスじゃねぇ! 青篠スカイタワーにある超高級レストラン『トラサルディー』だっ!!」

「「えええええぇぇっ!!」」

 それを聞いた僕と竜二も驚きの声を上げる。


『トラサルディー』

 世界に誇れるレストランの一つとして名声を得ている。

 テレビや雑誌でも5つ星レストランとしてよく取り上げられ、その知名度はかなり大きい。

 しかし値段もさることながら味も格別であるために予約は数ヶ月先まで満席、本来なら一般人である僕達には別次元のお店だ。


「それなら私もテレビで見たことがあります。すごく美味しいって評判ですよね」

 さすがは世界レベルというべきか海外暮らしが長かった白河さんでさえ知っていた。

「『美味しい!』なんてもんじゃねえ。『ウンまああ~いっ』と叫んじまうヤツもいる程だそうだ」

 なんとも今にも内臓を吹き出しそうな叫びである。

「でも食べ放題って言ってもいくらかかるの?」

 食べ放題と言ってもそれで数万かかったのでは元も子もない。

「えーとな二千円だ」

「に、二千円もっ! って、たった二千円!? 二万の間違いじゃなくて?」

「信じられないなら自分の目で見てみろって、ほら」

 確かにそこにはお一人様二千円と書いてあった。

「二千円って、格安なんてもんじゃねぇ。でかしたぞっ白河!」

「はい、私も嬉しいです!!」


「でも、よくこんな券がお店から貰えたよね」

 僕が何気なく疑問を口にすると係のおじさんが、

「いやー、実はその店の店長さんがとても良い人でね。是非とも地域活性化のために役立ててくれって言って特別にくださったんだよ」

 と教えてくれた。

 地域のためにここまでサービスするとは出来た人だと僕は素直に思った。

「ちなみに一等って何なんなんスか?」

 友也が尋ねる。

 たかが商店街の福引、これが一等でも十分なほどである。

「ああ、一等はねランボルギーニだよ」

 上には上がいるとはよく言ったものであった────


 そして帰り道。

「しかし今日は白河のお手柄だ。ホント人生何があるか分からねぇな」

 僕達は今だにさっきの話で盛り上がっていた。

 白河さんもトラサルディーに僕達三人と行くことに何の疑問も持たずに快諾してくれている。

「やっぱ、持つべきものは友達だぜ」

 竜二がうんうんと頷く。


「そういえば、待ち合わせの時間はどうする?」

 予約の日程は5月13日、日曜日の19時~と券に書いてあった。

「そうだな、少し早めに合流して時間まではスカイタワーの中を見て回るってのはどうだ?」

 友也が提案する。

「あっ、私も色々見てみたいです」

「うん、僕達もそれで構わないよ」

「じゃあ、16時にいつもの公園の前に集合な」

「あー、今から楽しみだぜ」

「ふふ、そうですね」

 この後も僕達は興奮冷めやらぬまま帰宅したのであった──────

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