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?月?日 (?)・後

「……ぐ……俺様としたことが……」

「悪いな竜二、こうでもしなきゃお前に勝つなんてことは無理だったからな」

 そう言ってから友也は真っ直ぐに僕を見据える。

 その顔は昔の無邪気な友也のものではなかった。

 僕を責めるような、敵視するような視線。

 まるで突き刺されてしまうのではないかという、鋭い眼光に、僕は一歩たじろいだ。

「どうした亮、お前は俺に向かってこないのか? 竜二の奴はお前のために死に物狂いで戦った。次はお前の番だ」

「僕は……やっぱり、嫌だよ……友也と闘うなんて。こんなことして何の意味があるのさ?」

「意味だと?」

「そうだよ、こんなことに意味なんてないよ。また三人で一緒に遊ぼう。それでいいじゃないか……」

 そうだ、僕達がこんな争いごとをする必要なんてなんの意味もない。

 僕達は互いを憎んでいるわけでも、恨んでいるわけでもないのだから……


「それがお前の弱さだ」

「僕の……?」

「どちらかを選ぶことも出来ず、何かを切り捨てることも出来ない。自分の欲しいものをすべて手に入れようなんて無理なんだよ」

「違うよ、僕は選んだ。僕は竜二と友也の二人を選んだんだ。もうこれ以上は何も望んでなんていない」

 友也の言う僕の弱さというものを僕は否定する。

 確かに僕は選んだつもりだった。

 竜二と友也という二人の親友を……

「違う! お前は与えられただけだ。与えられた世界の中で与えられたモノすべてをお前は手に入れようとしている。お前は何も選んでなんかいない。さあ選べ、俺を倒してここに居続けるのか、それとも俺の言うとおりここを出ていくのか」

 だが、友也はそんな僕の思いすらも否定した。

「そんなの僕には選べっこないよ。なんで三人でここにいるっていう選択肢がないのさ!?」

「俺がそれを望まないからだ」

「なんで……友也は僕達の事が嫌いなの? 僕達ずっと友達でしょ?」

「……そうだな、俺達は友達『だった』な」

「だった……?」

 思いもよらぬ友也の言葉に唖然とする。

 その言葉が意味するものは僕が最も恐れていたことだった。


「どうやら俺の見立て違いだったようだな。お前がこんなに腑抜けた男だとは思わなかった」

「友也……」

「これじゃあ、俺も竜二も無駄死にだったな。こんなことなら……」

止めてくれ……これ以上、続きを言わないでくれ……

「友也ァッ!! テメェッ、もしその先を言ってみろ!! どんなことがあっても絶対に俺様がテメェをボコボコにしてやんぞっ!!」

 竜二が荒々しい口調で友也の言葉を遮る。

 友也が言わんとしていることは、僕だけではなく、僕達三人の全てを否定するものだった。

 それに竜二も激しい怒りを覚えてくれているのだろうか。

「竜二、敗者は敗者らしくおとなしく黙っていろ。これは俺と亮の問題だ」

「テェメェェ! 言わせておけば……!!」

 友也の言葉に竜二が青筋を浮かべる。

 今度の怒りは演技ではないことが僕の目にも見て取れた。

「聞こえなかったのか? 俺は黙ってろって言ったんだ!!」

「ぐふあっ……!!」

 身動きの取れない竜二の横腹に友也が蹴りを入れた。


「竜二!!」

 自分の意に従わない者を力で制する。

 なんとも友也らしくないやり方に憤りを覚える。

「見ろよ涼、お前が臆病なせいで俺達の友情とやらもバラバラだ。こんなことなら…………




お前と友達になんかなるんじゃなかった」




「……とも……や……テメェ……」

「竜二を助けたいんだろ? だったらお前が自分で助けてみろよ。それとも、またお前は竜二を見殺しにするのか?」

「友也……」

 違う……

 あそこにいるのは僕の知っている友也なんかじゃない……

 友也はもう居なくなってしまったんだ。

 僕の知っている友也はもう……

 この時、僕の中で何かが吹っ切れた。


「どうした? 早くしないと竜二がもっと痛い目を見るぞ」

「……めろ」

「何か言ったか?」

「止めろって言ったんだ……竜二から離れろ!!」

「ふっ、やっとその気になったか。いいだろう、お前とは小細工なしだ。さあ、見せてみろ。お前の覚悟ってやつをな!」

 友也が竜二から離れ、臨戦態勢に入る。

 僕も友也を今度は真っ直ぐに見据え、拳を構えた。

「さあ、来い! 亮ッ!」


「うあああああああ────」

 友也に促される様に僕は無策に突っ走る。」

 本来ならばここで返り討ちに合っていたであろうが……

 僕の繰り出した拳を友也はいつものように躱さずに受け止めた。

 それが予想出来ていたからこそ僕は一直線に突っ込んだのだ。

 今の友也には先ほどまで竜二と戦っていたダメージが残っている。

 もはや足を動かすのもおっくうなほどに……

 友也は竜二のような、ずば抜けた腕力はない。

 華麗なフットワークの使えない友也は、羽のもがれた鳥も同然。

 今ならゴリ押しでも十分に勝てる勝機を僕は見出していた。


「…………ッ!」

 休む暇を与えぬほどがむしゃらに友也に攻撃を突き出していく。

 反撃はない、友也はジリジリと後退していくだけだ。

 ただ一つだけ注意するべきなのは、さっき竜二を倒したような顎への一撃。

 ご丁寧にも説明してくれたおかげで、そこへの意識は十分だ。


 けれども、いつまでたっても僕は友也を攻めきれずにいた。

 体に届く攻撃も、すべて防御されてしまっている。

「くそ……はぁ、はぁ……」

 息をつく暇もないほどの慣れない動きに、手数はどんどん減っていく。

 腕が重い……でもここで決めなくちゃ……

 そんな思いが逆に友也にチャンスを与える結果になってしまった。

 突然、後退する足を友也は横に切り替える。

 友也を倒すことを意識し過ぎた僕の拳は空を切り、勢いのついていた僕の体が前に倒れそうになった。

 何とか足で踏ん張ることに成功するも、横から来た大きな衝撃に僕の体は成す術もなく転がった。


 きっと次は蹴り飛ばされる。

 そう思って、ギュッと歯を食いしばるが、次の追撃が来ない。

 急いで体制を立て直し、衝撃の来た方向を見ると、友也はその場で相も変わらず 鋭い視線のまま僕を睨みつけていた。

 追撃するほどの体力が残っていないのだろうか?

 それとも僕はそんなことをする必要するらないと思われているのだろうか?

 どっちにしろ、僕は友也の真意を掴み損ねていた。

 友也の真意が掴めぬまま僕が警戒していると、

「どうした? 今のでもう攻める意欲をなくしたのか!?」

 僕を挑発するように友也が言葉を投げかけてきた。

「…………」

 僕はそれに何も答えない。


 次にどうするべきか悩む。

 すると、

「止まるな亮!! 友也に休む暇を与えんな!!」

 竜二が攻撃の指示を下してきた。

 竜二に言われるがまま、僕はもう一度友也に向かっていく。


 竜二の言うとおり今は考えている場合じゃない。

 どちらにしろ、友也に勝たなければ……

「うわああああああああっ!!」

 要望通り、友也に全力でぶつかっていく。

「ぐは……!」

 やはり友也の体力は、そこを尽きかけていた。

 真っ直ぐに突き出した僕の拳は友也の胸のあたりにクリーンヒットし、友也の体が揺らぐ。

 それでも友也は倒れない。

 足を踏ん張り、歯を食いしばり、お返しとばかりに僕の脇腹に蹴りを出してきた。

 拙いながらもそれを腕で何とか受け、もう一度、拳を突き出す。

 だが、友也も同時に拳を突き出しており、腕の長い友也の拳が先に僕の顔に届いた。

「痛ッ……!!」

 痛みと衝撃で後ろに体が大きく仰け反る。

 いつか感じたことのある、鉄の味。

 今の一撃で口の中が切れ、血が滲み出ていた。


 追撃は来ないとばかりに安心していた僕に、友也はさらに蹴りを繰り出す。

 反応が遅れた僕は、今度こそ脇腹にそれを受け、またも地面を転がった。

「あ……ぐう……げほっ、ごほっ……」

 息苦しい……上手く呼吸が出来ない。

 蹴られた横腹もジンジンとして、ものすごく痛い。

 涙が出そうなほどの痛みを、歯を食いしばりどうにか堪える。

 だが、すぐに立ち上がろうにも立ち上がれなかった。

 ダンゴムシの様に丸まって、どうにか痛みが引くのを待つ。

 今の僕には、友也が攻めてきたらどうするなんて悠長なことを考える暇もない。

 痛みにのた打ち回るのを我慢するので精いっぱいだった。

 傍から見ればなんとも無様な姿だろう。

 まるで、いじめられてた頃の僕みたいだ……

 やっぱり僕なんかじゃあ…………


「立てっ、亮!! こんなところで負けちまってもいいのか!?」

 僕を激励する竜二の声が聞こえた。

 そうだ、竜二は僕のために必死に戦ってくれたんだ……

 このくらいの痛みで音を上げてどうする……!!

 ズキズキと痛む体に鞭を打ち、何とか上体を地面から離す。

 力の入らなくなってきた腕で体を支え、足の裏でしっかりと地面を踏みしめる。

「ぐぅううう……」

 歯を噛みしめ、膝に力を込めた。

 全身の力を駆使することで何とか立ち上がることに成功する。

 情けないことに喧嘩慣れのしていない僕の体はすでに限界に近づいてきていた。

 だが、それは僕だけではない……

 見ると、友也も片膝を地面につき、立っていることもままならない様子だった。

 友也が竜二との連戦の直後でなければ僕はとっくに倒されてしまっていただろう。

 これは竜二が作ってくれた好機だ。

 僕だけでは0だった勝率が、今では五分にまでなっている。

 これなら友也に勝てるかもしれない……

 けど、僕が友也に勝ったら……どうなるんだ?

 僕が勝てば友也は昔の友也に戻ってくれるのだろうか……

 それとも僕の前からいなくなってしまうのだろうか……

 僕の思いは友也にちゃんと伝わっているのだろうか…………?


「……何を……はぁ、はぁ……突っ立てるんだ……亮。まだ勝負は終わってないぞ……」

 友也が僕を捉える眼光は一層鋭さを増していた。

 それだけ僕の事を敵視しているのだろう。

 満身創痍な体を引きずるように、友也が僕の方に向かってきた。

 それを見て僕も、重い腕を上げ、迎え撃つ準備を整える。


 もう終わらせよう……こんなこと……

 友也が何を思ってこんな行動に出たのかは分からない。

 けれどもこれ以上、僕達が争う理由なんてないはずだ。


「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……ふぅ……」

 一歩の間をおいて僕と友也が対峙する。

 顔や体には痣もでき、息ももう絶え絶え。

 僕達の体力も底を尽きかけ、足は棒の様になり立っているのが精一杯だった。

 残っているのは気持ちだけ……

 絶対に勝つという気持ちだけ……

 あとはもう互いの意地をぶつけ合うだけだ。


「うわああああっ!!」

「うおおおおおっ!!」

 足を踏ん張り、気合を拳に乗せて殴りあう。。

 体が興奮状態にあるせいか、痛みはあまり感じなかった。

 同時に弾け飛ぶ顔。

 後ろに仰け反る体を、必死で抑え込む。

 一度倒れてしまえば、もう立ち上がるこなんて出来ないからだ。

 我慢比べ。

 今の僕達がしていることはまさにそれだった。


『もう駄目だ』

『早く楽になりたい』

『もう倒れよう』

『自分はもう頑張った』

 

 次々と溢れ出る、弱い心に幾度も体が従いそうになる。

 けれども僕はそれを振り払う。

 負けたくなかった。

 友也に勝って、気持ちを伝えて、また三人で一緒に遊びたかった。

 もう誰かが居なくなってしまうのは嫌だった。


「うおおおおおっ!!」

「……ッ!!」

 刹那、友也の拳が僕の顎先を打ち抜いた。

 それが偶然だったのか、狙って打ったのかは定かではない。

 だが、これが僕にとって致命的な一撃となった。

 姿だけはしっかりと捉えていた友也の体がグニャグニャとその輪郭を失っていき、気付けば、背後の景色すらも絵の具をぶちまけたようにぐちゃぐちゃになっていた。

 踏ん張っていた足の感覚が消える。

 そしてそのまま僕はゆっくりと体ごと崩れ落ちていっ────


『お前だってやれば出来るんだぜ!』


 崩れ落ちる最中、僕の脳内である言葉が再生された。

 それは弱虫だった僕を……あきらめ癖の付いていた僕を変えてくれた言葉だった。

 そうだ……ここで僕が倒れたら……僕はまた一人になってしまう……

 そんなのは嫌だ……

 皆で一緒にいるって僕は決めたんだっ!!


「うわああああああああっ!!」

 その後、何が起こったのかはよくわからない。

 揺れる視界の中、感覚の薄れた体をがむしゃらに動かした。

 そして次の瞬間、ドサッと何かが倒れる音がした。

 視界がその輪郭を再び取り戻したとき、僕の目前には大の字に倒れている友也の姿があった。


「……勝った…………僕が……友也に勝った……?」

 実感のわかない勝利に初めは戸惑いを覚える。

「僕が勝ったんだ……」

 だが、それが事実だと理解すると体は正直なもので、歓喜に震えていた。

「やったよ竜二……僕が勝ったよ!!」

「ああ……ちゃんと見てたぜ……」

 そして僕は最後の力を振り絞り、竜二の両手を拘束していた縄を解く。

「やったな亮。お前の勝ちだ」

 それから自分で鎖を解いた竜二がニッコリと笑いながら僕にそう言ってくれた。

「おっと、大丈夫か?」

「うん……何とか……」

 まだフラ付く体を竜二に支えられる。

 体はもうボロボロだ。

 けれども僕は友也を倒して、竜二を助け出した。

 その事実がたまらなく嬉しかった。

 竜二と勝利を分かち合う。

 これで僕達の争いも決着がついたと思った。

 その時……


「……まだだ…………まだ俺は……負けちゃ…………いねぇ……」

 途切れ、途切れながらも、ハッキリと聞こえる戦いの意思が僕達の耳に届いた。

 それは、友也の声。

 苦悶に顔を歪めながら、友也は必死に立ち上がろうとしていた。

 立ち上がりかけては何度も手をつき、歩き出そうとしては何度も転んでいた。

 そんな友也の姿をこれ以上見るのがいたたまれなくなった僕は、友也に近づいて手を差し伸べた。

「もう……止めよう。また一緒に遊ぼうよ……ね?」

 だが、友也は僕の手を無言で払いのける。

「友也……」

「く……うぅ……」

 友也は何とか一人で立ち上がるが、少しでも風が吹けば倒れてしまいそうなほどに足が震えていた。

 そんな状態では、これ以上戦うことなんて出来ないであろうことは本人が一番わかっているはずだ。

 なのに……何でまだ立ち上がるんだ?

 戦おうとするんだ?

 往生際が悪いと言えばそれまでだが、それは友也も僕達に負けたくない理由があるからなんだろう。

 必死に僕達に立ち向かおうとする友也の姿を見ていると僕は胸が締め付けられるように痛かった。

 それほどまでに……そんなに辛い思いを一人でしてまで、友也は僕達と一緒にいることを拒むのか……?

 せっかく、また三人で一緒に居られるのに……

 それがとてつもなく悲しかった。


「何でだよ……何で友也は僕達から離れようとするんだ!? そんなの僕は嫌だよ! ずっと皆で一緒にいたいんだよ!!」

 僕を孤独から救ってくれたのは友也の方じゃないか?

 なのに何でそうやってまた僕を一人にさせようとするんだ!?

「もう一人になるのは嫌なんだ……だから僕はここにいたい……二人が居てくれれば他には何にもいらない。現実何てどうでもいい!! 嘘だとか偽りだとか、そんなこと僕にとってはもう関係ないんだよ!!」

 今まで抑えられてきた感情が次々と溢れだしていく。

「なのに、なんで僕の気持ちをわかってくれないんだっ!!」

 友也にぶつける様に僕は全ての気持ちを絞り出した。


「亮……」

 力ない足取りで、友也が僕に近づいてくる。

 そして………




「バカヤロォーーーッ!!!!」




 思い切り、僕を殴った。

 その一撃は今日受けた……いや、僕の人生の中で一番重く、そして一番痛かった。


「……れだって……」

 友也が絞り出すように声を発する。

「俺だってお前達とずっと一緒にいたいんだよっ!!」

 静寂をつんざくような友也の怒声。

「いいや、俺だけじゃない。竜二だってどんな気持ちでお前に味方したと思ってやがる! なのに自分一人が不幸になったつもりで甘ったれたこと言ってんじゃねぇっ!! お前に俺の気持ちがわかるか? 目の前に転がる命を見殺しにしてまで、お前を助けようとした俺の気持ちがっ!! 多くの人間が死ぬ運命を突き付けられた中で、お前だけは生き残れるんだ。それなのに……何が現実何てどうだっていいだ!! ふざけるのもいい加減にしろ!!」

「友……也……?」

「俺だってな、怖いんだよ。こんなところで終わりたくなんかねぇんだよ! いつまででもお前達と遊んでいたいに決まってんだろうが!! 俺の方がお前なんかよりもずっとずっと一緒にいたいと思ってるんだよぉっ!!」

 怒りに吠える友也の頬を一筋の涙がつたう。

「だからって現実から目を背けてはダメなんだ……いくらお前に嫌われたって構わない。お前が立ち止まって腐っていくのを見ているぐらいなら、俺はどんな手を使っても、お前を前に進めてやるよ。何度立ち止まったって、そのたびに俺は何度でもお前の尻を引っぱたいてやる。いや、蹴り飛ばしてやる!! くそ……なんでだよ…………なんで俺がお前達と離れ離れにならなきゃいけねぇんだよ…………くっそおおおおおぉっ!!」

 そしてボロボロと涙をこぼしながら友也は泣き崩れた。


「友也……」

 僕は長い間勘違いをしていた。

 友也はずっと僕のことを考えてくれていた……

 自分の残酷な運命を受け入れて、そのうえで僕のことを大切に思ってくれていたんだ。

 なのに僕はどうだ?

 目の前の辛い現実から目を背け、竜二に甘え、友也に頼り……

 結局僕は自分では何もしていない。

 ただ自分の置かれた境遇を嘆いていただけ……

 でも、それじゃあダメなんだ。

 友也は僕にそれを教えてくれた。

 辛い現実に向き合う勇気をくれた。

 友也だけじゃない、竜二だってそうだ。

 竜二は僕をずっとそばで支え続けてくれた。

 竜二が居なければ僕はとっくに辛い現実に押しつぶされてしまっていただろう。

 ……いつまでも二人に寄りかかっていてはいけないんだ。

 僕にだって僕のやらなければいけないことがあったんだ……


「今、やっと分かったよ。友也が伝えたかったことが……僕は、僕のするべきことをする。もう絶対に逃げたりはしない」

「亮……」

「だから友也も、いつもの友也のままでいて。いつもの……僕達と一緒にいたころの友也のままで……」

「……ああ」

 涙を拭って友也は笑った。


「そうか、亮はここを出ていくことにしたのか」

「竜二……ごめん。ずっと一緒に居ようって言ったのは僕の方なのに……僕の自分勝手に巻き込んで……」

「へっ、仮にも俺様に勝った男が、そんな情けねぇ顔するんじゃねぇよ。それが亮の決めたことなら俺様は文句ねぇさ」

「ありがとう」


 そして、ついに僕達の別れの時が訪れた。

「これでお別れだな、亮」

「この世界はお前が見ている夢のようなものだ。お前がここを出ようと強く念じればきっと元の世界に戻れる」

「うん……」

 分かってはいても、どうしても悲しみは溢れてくる。

 泣いてはダメだと自分に言い聞かせ、必死で涙を堪えた。

 そんな僕を見かねてか友也はいつもの様に無邪気な笑顔を見せ、竜二は僕の背中に活を入れてくれた。

「大丈夫だ。お前は強くなった。俺を信じろ亮、お前だってやれば出来るんだ」

「うん」

 別れの時くらいは、頼もしい僕の姿を見せようと思い、無理やり口角を上げ、笑顔を作った。

 ここからは僕一人でもやっていけることを二人に示さなければいけない。

 もう、これ以上二人に心配を掛けるわけにはいかないんだ。


「お前は俺様が認めた男だ。これからも、しっかりやれよ」

「忘れるな、俺も竜二もずっとお前の親友だ」

「ありがとう」

 そうして二人は消えていった。


「さようなら。竜二、友也」

 目をつむり、言われた通りに僕はこの世界から出ることを心の底から強く望んだ。

 すると、次第に周りの空間が輪郭を失ったように崩れ始めていった。

 これで、この僕の弱さを具現化したような偽りの世界とはおさらばだ……

 このとき、僕の中には、すでに一つの決意が芽生えていた。

 それは僕の全てを捧げても良いと思えるほどに僕にとって壮大な願いだった。

 そう、僕の本当の闘いはここから始まるんだ──────

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