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5月12日 (土)

「ふああああぁぁ……」

 大きなアクビを一つする。

 昨夜は緊張して、なかなか寝付くことが出来なかった。

 時刻を確認するとちょうど7時。

 約束の時間に遅れないためにさっさと支度を済ませることにした。

 顔を洗って、私服に着替える。

 別に変じゃないよね……?

 普段から服やオシャレには特に気を遣っていない僕だが、さすがに今日は気になってしまう。

 と言っても別にジャラジャラとアクセサリーを身にまとったりするわけではない。

 どこに行っても恥ずかしくないであろう程度のカジュアルな服装にした。


 ニュースを見ると今日も天気は晴れ。

 とりあえず雨の心配はないようなので一安心だ。


 ニュースは、なおも続いていく。

『続いてのニュースです。先日起こった国際線の爆発が何者かのテロによるものだと判明しました。警察側によると犯人グループの目星はついているものの以前行方は掴めてお──────』

 テレビを消して準備をする。

 歯を磨いて、身だしなみを正す。

 忘れ物がないかも念入りにチェック。

「よし、準備オッケー」

 約束には少々早い時間だが、先に家を出て美咲さんを待つことにした。


 外は天気予報の通り雲一つない青空。

 まさに絶好のお出かけ日和。

 う~ん、まだちょっと眠いな……

 そんな事を考えながら白河さんを待っていると目の前の扉から本人が登場した。

「おはようございます!」

 開口一番に元気に挨拶をしてくる白河さん。

 しかし僕は、挨拶を返すことを忘れ、呆然と立ち尽くしてしまう。

 さっきまでの眠気が吹き飛んでしまうような彼女の姿に僕は完全に目を奪われていたのだ。


 白を基調とした服装に膝まで伸びたスカート。

 けっして華美ではない清潔感漂うオシャレな服装。

 髪も普段とは少し形の違うリボンで結われていた。

 それが白河さんの可憐なイメージを一層際立たせている。

 よく見ると顔も薄く化粧をしているようだった。

 呼吸すらも忘れていることに気付き僕は我に返る。

「お、おはよう」

「もしかして待たせちゃいましたか?」

「ううん、僕も今さっき出てきたところだよ」

「それなら良かったです。フフ、今日の神谷君の服、とてもカッコいいですよ!」

「そ、そうかな?」

「はい!」

「白河さんの服もとっても似合ってるよ」

 照れ隠しのために僕もそう言い返した。

 まあ、もちろん本音だけど……

「ありがとうございます。今日は頑張っておめかししてみました。普段はお化粧とかあまりしないんですけどね」

 白河さんならば普段通りでも何も問題ないと思ったが、そこは女の子、男の僕以上に身だしなみに気を遣うのだろう。


「でも、今日はせっかくの神谷君と『デート』の日ですからね」

 『デート』その言葉を聞いて初めて気付いた。

 学校でも一緒に行動しいる事が多いから今の今までその言葉が出てこなかったが、男女が休日に約束をして二人で遊びに行く。

 それもデートスポットととして人気のあるデスティニーランドに僕から誘ったのだ。

 普通に考えたらこれはデートと思われても不思議なことではない。


 昨夜の緊張が、ぶり返すかのように僕を覆っていく。

「では、行きましょうか」

「う、うん。そうだね」

 ぎこちないながらも何とか返事をする。

 こうして幸先の不安な僕の初めてのデートが始まった────


 僕達が向かうデスティニーランドはいわゆるテーマパークだ。

 敷地も広く、様々な種類のアトラクションもあり大人子供関係無く人気がある。

 カップルのデートスポットとしてもよくテレビで特集されている。

 僕も昔、親に連れて行ってもらったことがあった。

 仕事熱心な親が時間を作って連れて行ってくれた場所。

 今でもその時の記憶ははっきりと残っていた。


 青篠駅から電車を乗り継ぐこと約一時間。

 目的地であるデスティニーランドにたどり着いた。

 チケットを割引券を使って購入し、正面ゲートから中に入っていく。

「はわ~、テレビでしか見たことないですけど実際に来てみると本当に広いですね」

 ゲートを抜けてすぐに白河さんは感嘆の声を上げた。

 休日ということもあってか、広場にも人の姿が多く見られる。

「今でも増築されたりしているみたいだからね」

 若干の緊張はあるものの、今では普段通りに白河さんと接することが出来た。


「何か乗ってみたいのとかある?」

 言ってアトラクションのパンフレットを渡す。

「んーっとですね……」

 白河さんは、しばし熟考したあと

「これに乗ってみたいです!!」

 一つのアトラクションを指差した。

「…………」

 僕はそれを見て絶句し、同時に何故こうなることを予想しなかったのかと、自分の浅はかさを深く後悔することになった。


「う゛わわわわぁぁぁぁぁっっっ!!」

「きゃああああああっ!!」

 地上80メートルの高さに達したジェットコースターが一気に急降下する。

「うわあっうわあああああっっ!!」

 その後も減速することを知らないコースターは、上下左右縦横無尽にレールの上を走り抜けていった────


「はぁ……はぁ……」

 開始早々死を予感した。

 実をいうと僕はこういう遊園地の絶叫マシーンが大の苦手なのだ。

「あー、楽しかったですね!」

 息も絶え絶えな僕とは違い、白河さんは晴れやかな笑顔。

「そ、そう……だね……ハハ、ハ……」

「次はあれに乗ってみましょう!!」

「……うん」

 あれぇ、おかしいな……

 昨夜のシミュレーションとだいぶ違うぞ……

 コーヒーカップにメリーゴーランド。

 僕のシミュレーションでは今頃そんな可愛いアトラクションに乗っているはずだったのに……

 何で僕はこんなところにいるんだ……?

 座席に座ったまま高さ60メートル地点へ上げられる。

 デスティニーランドの景色を一望できる特等席。

 けれども僕にとっては、直前に来る恐怖を待つ断頭台でしかなかった。


 ふわりと体から重力の感覚が消える。

 気休め程度にセットした髪が一気に逆立ち、僕達は座席ごと地面に向かって急降下した。

「うおわああああああっっ!」

 そしてまた上昇し、急降下、この過程をひたすらに繰り返していく。

「うわあっ! うわああああっっ!!」

「きゃあああああっ! サイコーですぅっ!!」

 僕にとっての地獄は白河さんにとっての天国のようで、彼女は最高にハイになっていた。


「はぁ……はぁ……」

「次はあれに乗ってみましょう! その次はあれでっ!!」

 あれ……白河さんのキャラが変わっている……?

「さあっ、行きますよ! 神谷君!」

 どうやら僕は白河さんの新たな扉をこじ開けてしまったみたいだ。

 こんなにも白河さんの100%の笑顔が見れることは僕にとって最大の幸福である。

 けれどもそれを見るためには絶叫マシーンに乗り続けなければならない。

 それが僕にっとては最大の不幸だった。

 まさしく天国と地獄。

 この空間にファンタジーアトラクションなどが入り込む余地はなく、その後も絶叫マシーンのオンパレードは続いていった────


「んーーっ! 楽しかったですね」

「ハハ……満足してもらえたようで……良かった……よ……」

 何度か生死を分ける川を渡る幻覚を見たが、何とか乗り切ることが出来た。

「少し疲れてるみたいですけど大丈夫ですか?」

「ちょっと休憩させてもらえると……ありがたいかな……」

「じゃあ一端、休憩にしましょうか。一通り乗り終えましたし」

 絶叫系だけはね……


 自分が生きていることに感謝し、近くにあったベンチに腰掛ける。

「今日は本当に楽しいです!」

「そんなにはしゃいでる白河さんを見るのって何か新鮮だよ」

 白河さんは普段から明るいが行動自体はおとなしめだ。

「ご、ごめんなさい。私、両親にもこういうところに連れてきてもらったことが無かったので……つい、はしゃいじゃって」

 そういえば白河さんの両親も海外で働いているんだっけ。

 きっと仕事が忙しくてあまり遊んでもらえなかったのだろう。

 似たような経験を持つ僕も白河さんがはしゃいでしまう気持ちがわかるような気がした。


「いいんだよ。せっかく来たんだし、今日はいっぱい楽しまないとね」

「はい、それでですね。私から一つ提案があるんですけど、今日はせっかくのデートなのですから……」

「ビシッ!」と人差し指を立てながら言う。

「う、うん……」

 デートを意識させられるとやはり気恥ずかしい。

「お互い他人行儀みたいになるのは止めませんか?」

「例えば?」

「例えば……下の名前で呼びあう、とか良いと思うんですけど」

「白河さんじゃなくて、み、美咲さんって呼べってこと?」


 名前呼び。

 男の友也や竜二ならば抵抗はないが、これが異性となると話が別だ。


「うーん、まだ遠慮がちですね。ここは思い切って呼び捨てにしてみましょう! はいっ、どうぞ」

「どうぞって言われても……み、美咲……さん」

「さん付けになってますよ。もう一回」

 女の子に免疫のない僕にとって、いきなりの名前呼び捨ては非常にハードルの高いことであった。

「み、美咲……やっぱりいきなり呼び捨ては恥ずかしいよ。最初は美咲さんで……」

「そうですか……でもそうですね。焦ることはありません。少しずつでも前に進めばいいんですから」

 少し残念そうだが、すぐにいつもの笑顔を取り戻す。

「これからもよろしくお願いしますね、亮君」

 照れる僕に対し美咲さんは何の抵抗もなく下の名前で呼んできた。

 これでは異常に照れてる僕の方がバカみたいだ……


「あ……」

「グゥ~」と一段落したところで僕のお腹が鳴った。

「フフフ、そろそろお昼にしますか?」

「そうしようか」

「実は私、お弁当を作って来たんです!」

 ジャーンとお披露目する様に美咲さんが二段重ねの弁当箱を持っていたバッグの中から取り出す。

 少し歩いた先に、広めの芝生があったので、僕達はそこでお弁当を食べることにした。

 用意周到な美咲さんは律儀に下に引くシートも持って来てくれていた。

 シートに座ってお弁当の蓋を開けると、一段目にはおにぎりが、二段目には卵焼きや唐揚げなどの定番のおかずが入っている。


「いただきます」

 おにぎりを一つ取って食べてみる。

 たかがおにぎり、だがされどおにぎり、絶妙な塩加減の米と具の鮭、そしてまだパリパリとしている海苔。

 これらの神器が合わさったおにぎりは腹ペコの僕にとって至高の一品に感じられた。

「うん! すごく、美味しいよ」

「ありがとうございます。早起きして作ったかいがありました」

 他にもおにぎりの具は昆布、鮭、梅なと色々な種類があり、僕は夢中になって食べていく。

 ふと、前を見ると箸に摘まれた卵焼きがあった。

 まさかこれは……と思っていると、

「はい、亮君。あーんです!」

 予想は的中。

「い、いいよ、自分で食べるから……」

「デートでは、これくらい普通ですよ。ほら」

 美咲さんの視線の先には他のカップルが芝生の上で膝枕をしていた。

「というわけで、はい、あ~~ん!」

 このままだと永遠にやっていそうなので僕は照れながらも渋々口を開ける。

「あーん」

 口の中に卵焼きが入ってくる。

 味は相変わらず文句なしだ。

「フフッ、可愛い顔してますよ、亮君」

「か、からかわないでよ」

 色めき立つ僕をからかうように美咲さんはどこか妖艶な笑みを浮かべていた。

 今日は主導権を握られっぱなしだと思いながらも、僕は美咲さんに逆らうことが出来ず、からかわれるままにお弁当を食べていった────


 お昼ご飯も食べ終え、再び遊ぶことにする。

「次はあれに乗りましょう!」

 美咲さんが指定したものは、やっぱというか、予想通り絶叫マシーンだった。

 まさか絶叫系しか乗らないつもりなのか?

 だが、それを僕が直接指摘すれば、また美咲さんがシュンとしてしまうかもしれない。

 でもこのままじゃ、僕の体の方がもたないよ……

 美咲さんに気付かれないように何か手を打たなければ……

 考えを巡らせていると、あるものが目に入ってきた。

「ねぇ、今度はあそこに行ってみない?」

 僕の指さした先、そこは……

「おばけ屋敷……ですか?」

 そう、お化け屋敷だ。

「うん」

「私、おばけとかニガテなんですけど……」

 映画を見に行ったときもホラー系が苦手と言っていたのを思い出す。

「大丈夫だよ。ここのおばけ屋敷はあんまり怖くないらしいから」

「ほ、本当ですか?」

 僕は何も言わずに首を縦に振る。

 だが、そんなことは、もちろんウソだ。

 このおばけ屋敷は最近リニューアルされてかなり怖くなったと前に友也に聞い た。

 これは僕のちょっとしたお返しだった。


 そう、ちょっとしたお返しのつもりだったのだが……

「きゃああああああっ!! り、亮君……わ、私もうダメですぅ……グスッ……」

 予想以上に効果は抜群だったようだ。

 美咲さんが怯えるのは予想通りとはいえ、このお化け屋敷、実際に入ってみると話に聞いた以上の怖さだった。

 ドラキュラやらゾンビやら、次々に現れるお化けは本物かと疑うほどの出来。

 それが何の前触れもなく目の前に出てくるものだから、こっちの心臓はたまったものではない。

 友也のホラー好きに付き合わされ、ある程度耐性が出来ていた僕でもちょっと怖い。

「き、きゃあああっっ!!」

 あまりの恐怖に耐えかねたのか美咲さんが僕の腕にしがみ付いてきた。

 同時に腕に何かが当たる……

 この感触は……この腕にあたる二つの柔らかい感触は……まさか……

 間違いなく当たっていた、二つの意味で当たっていた。

 僕の予想、そして美咲さんの……胸が……


 マシュマロのように柔らかく、ほどよい弾力。

 そして着やせするタイプなのか、意外と大きいという嬉しい誤算。

「いやぁああああああっ!」

 新たなお化け登場に美咲さんのしがみつく力がさらに強くなる。

 必然的に胸も強く押しあてられる。

 いや、これは腕が挟まれてると言ってもいい。

 だがここで緊急事態の発生。

 マズイ……

 僕のピラミッドが急ピッチで建造されそうになっていた。

 落ち着け、落ち着くんだ亮!!

「きゃあああああっっ!」

 ダメだああぁぁぁぁ!

 この後、僕はお化けよりも自分の本能と闘いながら、終始前屈みでおばけ屋敷を回ったのであった……


「グスッ、亮君酷いです。ウソつきです……」

「ごめん、まさかあそこまで怖いとは僕も思わなくて……」

 おばけ屋敷を出てから美咲さんはしばらくべそをかいていた。

「本当にごめん……後は美咲さんの好きな乗り物でいいからさ」

「本当ですか? グスッ……」

「うん、本当だよ」

「じゃあ許してあげます……」

 この後、僕は地獄を見ることになるだろう。

 しかし後悔などなかった。

 左腕に残る感触を思い出しながら、僕は後ろを振り向く。

 ありがとう、そしてさようなら、おばけ屋敷。

 僕は今日のことを忘れない……永遠に……

 僕は無意識のうちにお化け屋敷に向かって敬礼をしていた。

 その後はもちろんメリーゴーランドやコーヒーカップなど可愛い乗り物などに乗るわけもなく終始絶叫系だった────


 美咲さんが満足しきったころには、晴天の青空はすでに茜色の夕焼け染まっていた。

「じゃあ最後はあれですね」

 美咲さんが指を差した先には、大きな観覧車。

 この観覧車はデスティニーランドのシンボルの一つである。

 目を見張るのは何と言ってもその大きさ、なんと一周するのに15分以上掛かるのだ。

「遊園地の締めと言ったらやっぱり観覧車ですよ」

 最後まで絶叫系だと思っていた僕は安堵の息を漏らす。

「じゃあ乗ろうか」

「はい!」


 そうして僕達は観覧車に乗り込んだ。

 観覧車が静かな音を立てて、ゆっくりと回り出す。

 美咲さんは僕の向かいではなく隣に座っている。

 おばけ屋敷では腕のことでいっぱいいっぱいで気が付かったが、すぐ隣に座っている美咲さんからはシャンプーのいい香り漂ってきた。

 ドクンッ……ドクンッ……と心臓の鼓動が速くなってくるのを自分でも感じる。

 あまりの緊張に何を話せばいいのか分からなくなってしまった。

 横にいる美咲さんは外の景色に夢中になっているようだ。

 時が止まってしまったような空間とは裏腹に観覧車は僕達を載せる回り続けていく。


 そしてゴンドラが頂上に差し掛かってきた頃。

「ほらっ亮君、見てください!」

 ずっと外を見ていた美咲さんがこちらを振り向いて僕にそう言ってきた。

 その声に促されるままに僕も後ろから外の景色を覗きこむ。

「うわぁ……」

 窓の外では沈みかけていた夕陽が真っ赤な淡い光を放っていた。

 その光に照らされた地上の世界が茜色に一色に染まっている。

 なんとも神秘的な光景だった。

 いつも見ているビル群の光景がこんなに美しく見えるとは、絵にも書けない美しさとはこういうことなのかもしれない。

「綺麗ですね」

「うん」

 いつまで見ていても飽きない光景だった。


 夢中になって外を眺めている美咲さんを横目で見る。

 そこには穢れなく、そして静かに微笑んでいる顔があった。

 その儚くも穢れない顔を見ていると胸の奥が締め付けられるような感じがした。


「亮君?」

 僕の視線に気付いたのか、こちらを向いた美咲さんと視線が合う。

 吸い込まれてしまいそうなほど透き通った瞳から僕は目が離せなかった。

 美咲さんも僕の目をずっと見ている。

 見つめあったまま、どれ程の時間が流れただろうか?

 僕にはこの数分が、とても長く感じられた。


 ふいに美咲さんが窓に手を掛けている僕の手に自らの手を重ねてきた。

 心臓の鼓動が一段と速くなり、自分の顔に熱を帯びていくのがわかった。

 それにともない美咲さんの頬も赤く染まっていく。

「亮君」

 憂いを秘めた瞳で名前を呼ばれる。

「美咲さん」

 僕の口からも彼女の名前がポツリとこぼれた。

 ドクンッ……ドクンッ……

 美咲さんにも聞こえているのではないかというほどの鼓動。

「美咲さん……」

「亮君……」

 再びお互いの名前を呼びあう。

 そして顔を向け合ったまま、美咲さんがゆっくりと目を閉じる。

 僕は吸い込まれるようにゆっくりと顔を近づけていき…………


 瞬間、「ガシャンッ!」という音に驚き、僕達二人は音がした方を振り向いた。

「はい、お疲れ様でしたー」

 それは、係員さんがゴンドラのドアを開ける音だった。

 いつの間にかゴンドラが一周してしまっていたようだ。

 観覧車から降りた僕達は、その場に立ち尽くす。

 何ともいえない気恥ずかしい雰囲気が僕達を取り巻いている。


「帰ろうか」

「はい」

 けれどももう気まずくはなかった。

 どちらからというわけでもなく自然に手を繋いで歩き出す。

「今日は楽しかったね」

「はい。本当に……」

「明日、二人に今日デスティニーランドに行ったことを話したらきっと羨ましがるよ」

「フフ、そうですね」

 何ともいえない充実感に満たされながら僕達は家路に就いたのだった──────

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