嫁は勇者に厳しい・前編
前後編ー。
後編はなるべく早く…少々お待ちを!
魔王と勇者の歴史は繰り返す。
魔王が現れ、勇者が現れ倒すという繰返しを僕は何回見ただろう?
一度目は僕自身が勇者の旅の仲間であったが、
二度目以降は、一切関わりをもたないようにしてきた。
…それなのに。
煌びやかな白銀の鎧とマント、
ムカつくくらい騎士姿が似合いの金髪碧眼の男と…黒髪の子供。
嫌な予感しかしない組み合わせだ。
ふいに騎士姿の男が膝をつき胸に軽く手を当てる。
エスト国での一般的な騎士の礼だが、見下されてるようにしか感じない。
「お初にお目にかかります賢者殿、
私はエスト国で近衛隊長を務めさせていただきますグレン。
こちらの方は宮廷魔術師長が召喚された”勇者様”です。」
「お前が賢者?」
…潰してやろうか。
「わー、すっげえ爺さんを想像してたんだけど同い年ぐらいじゃん!
俺悠太!これからよろしくな!」
「帰れ。」
相手が何か言う前にさっさと扉を閉める。
かつて幼馴染の男が、女性に追い回された中での対処法の一つだ。
曰く、
『こちらの話を聞かないで行動する人間は、素早く距離を置くんだ!
出来れば間に扉か結界がベスト!裏口の確認も忘れるな!』
とかなり熱く力説していた。
「なんで閉めるんだよー!開けろー!」
「賢者殿!仮にも勇者様を閉め出すとは何事です!」
扉の外から鬱陶しい声が聞こえるが、扉を開ける気はない。
というか、早くあいつらどうにかしないと嫁が怖い。
「…いっそ家だけでなく、周りの森にも結界張った方がいいか?」
「同意するわ。」
「て、うわ!いつ間に起きてきたの!?」
うちの嫁は本当に気配がない…。
それにしても、今日は本当に雰囲気が沈み込んでる、かなり深く。
原因はやはりあの勇者かな…。
「あの黒髪ってさ…同郷?」
「結界維持してて、扉を開けても入ってこれないように。」
「…無理しないでね?」
嫁が無表情のまま扉を開ける。
扉を叩いていたらしい勇者の拳は結界で止まるが、
なかったら思いっきり嫁に当たっていたはず。
…やっぱり潰しておくべきだったかな?
「え…女の子?」
「女性…?賢者殿の弟子か何かですか?」
うちの嫁見て頬を染めんな。
その時僕は、昔幼馴染の女が言った、
『これだから男は。
…ちょっと綺麗だからって、怪しい女にデレデレしやがって。』
のセリフが脳裏によぎった。
ちなみに、
この後デレデレしてた幼馴染の男達は魔法で黒焦げにされてた。
唯一関心がなかった僕だけ無事だったんだが、
女性の本性が男などよりどれだけ恐ろしいか、はっきり認識できた思い出深い事柄だ。
「用件だけ告げてさっさと消えて。
そちらの要求を呑む気はつもりは一切ないから。」
そして僕の嫁は、やっぱり容赦ないのが標準だ。
まあ実際、要求は勇者の旅の同行で、僕は一度も要求呑んだことないし。
あいつが王だった頃は馬鹿な要求してくる奴はいなかったのに、子の代になった途端。
てーか、
その王になった子は、
子供の頃何度か遊んでやったのにね…本当に人間ってすぐ堕落する。
「な、なんだよそれ…別にお前に用事ないし。
それよりさっきの賢者出せよ!一緒に魔王退治に行くんだから!」
「行かないから。
そっちの勝手な都合で他人の予定決めないでくれる?」
「俺を召喚したのはこの世界の人間だろ!だったら俺に協力するのは当然だろう!」
「…はっ、召喚をしたのはエスト国の首脳陣じゃなくて?
少なくとも、エスト国民ですらない人間に何かを強要できるわけないでしょう?」
「ゆ、勇者は偉いんだから従えよ!」
「おめでたい頭ね。
歴代の勇者が持て囃されるのは魔王を倒した事実があるからよ?
それもピンキリ、馬鹿な勇者は後世で辛辣に評価されてるのが現実。」
顔を真っ赤にして震えながら口を閉じたり、開いたり。
件の勇者は、うまい反論が見つからないのか、まるで魚みたいな状態だ。
後ろの騎士なんぞ今にも抜刀しそうな眼で嫁を見てるし。
あ、抜いた、しかも結界忘れて切りかかってるし(笑)
それにしても、相変わらず嫁の”勇者”は辛い。
あれから大分経ったと思うのに一切癒えてないんだな…。