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第9話「試される絆(っきずな)」

第6部 

ジュエダンが担当する

銀河団CL J1001+0220では……。



銀河団総会で築かれた

相互支援の仕組みは、

発足からまもなく、

いきなりの試練に見舞われていた。


評議会事務局が本格的に稼働を始めて、

まだ

数ヶ月しか経っていない頃のことだった。


「監督官殿。……

 銀河団の外縁部で、

 巨大な超新星爆発の予兆が

 観測されました」


天体観測部門の報告に、

ジュエダンは険しい表情を浮かべた。


「規模は?」


「爆発の規模そのものも

 尋常ではありませんが、

 問題はその位置です。……

 爆発の余波が、

 隣接する七つの銀河の居住可能宙域を、

 直撃する恐れがあります」


「時間は?」


「……早ければ、三ヶ月」


会議場に、緊張が走った。


総会で立ち上げたばかりの

評議会事務局が、

すぐさま緊急対応に動き出す。


事務局長が、

青ざめた表情で

資料を確認しながら続けた。


「これは、

 我々が想定していた

 どの災害シナリオよりも、

 遥かに切迫した事態です」


「七つの銀河、

 それぞれの避難民の数は?」


「合わせて、数千億に及びます。……

 とても、

 当該銀河だけで

 受け入れ先を確保できる規模では

 ありません」


評議会の議長を務める首長が、

静かに口を開いた。


「これこそ、

 我らが築いたばかりの仕組みを、

 試す時ではないでしょうか?」


ジュエダンは、静かに頷いた。


「はい。……

 総会で定めた相互支援の理念、

 その最初の試金石になります」


彼女は、

直ちに銀河団全域の首長へ向け、

緊急の支援要請を発した。


夜を徹して準備された要請文には、

彼女自身の言葉で、

事態の切迫さが丁寧に綴(つづ)られていた。


「七つの銀河の民を、

 一時的に受け入れられる銀河は、

 どれほどありますか?」


応答は、予想を上回る速さで返ってきた。


「我が銀河、

 五千億人分の受け入れ余地があります」


「我が銀河も、

 居住区の増設を、直ちに始めます」


かつて

「見込みなし」と評されていた

銀河の首長までもが、

真っ先に手を挙げていた。


「我らも、かつて助けられた身です。……

 今度は、

 我らが手を差し伸べる番でしょう」


その言葉に、ジュエダンは、

深く胸を打たれていた。


かつて

誰にも見向きもされなかった

この銀河群が、今や誰よりも早く、

他者に手を差し伸べる側に立っている――

その変化そのものが、何よりの証(あかし)だった。


「感謝します。……

 この銀河団が、

 本当に一つの家になりつつあるのだと、

 実感します」


だが、受け入れ先の確保だけでは、

問題は解決しなかった。


数千億の民を、

限られた時間で安全に移送する、

輸送計画そのものが、

新たな難題として立ちはだかっていた。


輸送を担う技師団長が、

険(けわ)しい表情で報告する。


「監督官殿。……

 通常の航路では、とても三ヶ月以内に、

 全員の移送は終わりません」


「代替となる航路は?」


「幾つか候補はありますが、

 いずれも

 未整備の宙域を通ることになります。

 ……安全性の検証だけでも、

 相当な時間を要するかと、……」


ジュエダンは、静かに拳を握った。


「時間をかけている余裕はない。……

 検証と並行して、

 実際の輸送準備も進めましょう。

 危険が判明すれば、

 その時点で航路を切り替える」


「同時進行、ということですか。……

 リスクはありますが、……」


「リスクのない道など、

 この状況にはありません。……

 だが、何もせず座して待つよりは、

 遥かにましでしょう」


「レグナ様に、応援を要請します。……

 アスガルドとITS、両方の輸送能力も、

 お借りできないか。……」


通信を受けたレグナは、

間を置かず応じた。


「二隻だけでは、

 数千億の輸送には足りん。……

 だが、俺の方でも、

 聖国全域の輸送船団に、

 応援要請をかけよう」


「ありがとうございます」


「礼はいい。……

 こういう時のための、繋(つな)がりだろう」


聖宮では、アーロンが、

この報せを受け、静かに目を細めていた。


「試練は、

 思ったよりも早く訪れたか。……

 だが、悪いことばかりではない」


セレスティアが、静かに続けた。


「かつて見捨てられた銀河が、

 真っ先に手を差し伸べた。……

 ジュエダン様の蒔(ま)いた種が、

 もう芽吹いているのですね」


編纂(へんさん)生の一人が、静かに問うた。


「聖王様。……

 この輸送計画、間に合うのでしょうか?」


「分からぬ」


聖王(アーロン)は、正直に答えた。


「だが、間に合わせようとする者たちの

 姿こそが、この庭園の真価だ。……

 結果だけでなく、

 その過程も、丁寧に記(しる)せ」


「プロセスを記録に、ですね?」


「ああ」


アーロンは、静かに頷いた。


「編纂(へんさん)科にも、この光景を、

 余さず書き留めさせよう。……

 理念が、絵空事ではなかったという、

 何よりの証(あかし)だ」


輸送計画の全容が固まるまで、

なお幾つもの調整が必要だった。


だが、銀河団という一つの家が、

初めての大きな試練に、

共に立ち向かい始めていることだけは、

誰の目にも明らかだった。


聖宮の劇場では、

演奏家たちの議論に

総合監修の職員が、

間に入りかけたところで、

アーロンが静かに手を上げた。


「速さを合わせる必要はない。……

 互いの拍の合間に、

 呼吸を合わせる間を

 作ってみてはどうだ?」


二人は顔を見合わせ、しばし試すように、

互いの旋律を交互に奏でてみた。


やがて、片方の拍が終わる瞬間に、

もう片方が静かに滑り込むような、

新しい呼吸が生まれていく。


「……なるほど。

 競(きそ)うのではなく、

 譲り合う間合いを作ればよいのですね」

明朝 7:30 に投稿します。

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