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第23話 深宙の静寂と星々の新生

第8部

しかし、

彼らの航海は過酷を極めていた。


数年前、

宙域全体を襲った予期せぬ

時空の歪みによって

航路を大きく逸脱し、

未知の超空洞宙域へと

迷い込んでしまったのである。


補給を可能とする

あらゆる拠点から遥かに離れ、

星々の重力航行も叶わぬ

暗黒の中で、

船団の主機関はついに

稼働限界を迎えていた。


「主機関、

 炉心温度の低下を抑制不能……

 予備電力、

 最終セクションへ切り替え。」


船団の旗艦をはじめ、

立ち往生した

各大型移住艦の艦橋では、

死を告げるかのような

低音のアラームが

力無く響いていた。


極低温の暗黒空間に晒(さら)された

船体の外壁には、

数センチメートルに及ぶ

星間物質の氷結層が

分厚くへばりつき、

船体そのものの金属構造を

徐々に脆化させている。


船内を巡っていた熱源と

循環エネルギーは底をつきかけ、

空気清浄システムも段階的に

機能を停止しつつあった。


極限の寒さと暗闇が支配する

船内の居住区画では、

数百万人の臣民たちが

互いの体温を

分け合うようにして

身を寄せ合っていた。


衰退していく明かりのなか、

彼らを率いる各船の艦長や、

現場の維持に努める副官たちは、

沈黙を守りながら

微かな予備電力の

インジケーターを見つめていた。


救助の通信を

外部へ送信するだけの

エネルギー出力すら

残されておらず、

通信が届く範囲に

他の艦隊が存在する望みも

皆無であった。


だが、

死の淵に立たされた

現場の臣民たちも、

指揮を執る艦長や副官たちも、

取り乱して

悲鳴をあげるような醜態を

見せることはなかった。


絶望的な状況にあっても

自らの役割を放棄することなく、

静かに運命を受け入れながら、

秩序を保ち、

不屈の静寂の中で

沈黙を守り続けていた。


その極寒と死の沈黙が

完全に宙域を支配し、

全システムの生命維持機能が

途絶えかけていた。


この宙域の救済も

覇王(レグナ)に委(ゆだ)ねられた。


漂流船団を

死の淵へと追い詰めていた

絶対零度の極低温属性は、

その光に触れた瞬間に

温かな熱エネルギーへと

瞬時に変換されていった。


船体を分厚く覆っていた

星間物質の氷結層は

即座に解き放たれ、

船内を循環する

清廉な空気と

純粋な稼働エネルギーへと

属性を変えて

船体内部へと浸透していく。


完全に沈黙していた

主機関の炉心には、

新緑のような力強い

生命力を宿したエネルギーが

満たされ、

静かに、しかし力強い

再始動の脈動を打ち始めた。


船内の暗闇を一新する

温かな明かりが次々と点灯し、

臣民たちの全身に、

生きる活力が力強く漲(みなぎ)っていく。


壊滅寸前であった環境維持装置は

正常な稼働音を取り戻し、

船団全体が

温かな生命の光で満たされていった。


絶望の淵から引き揚げられた

臣民たちは息を呑み、

自らの身体と

船体を包み込んだ温かな光の

温もりに胸を打たれた。


彼らは

歓声をあげることすら忘れ、

ただ胸に手を当てて

静かな安息の吐息を漏らした。


漂流船団の全システムは

完全に復元され、

船団は

自力での航行能力を取り戻して

新たな安住の地へと向けて

進路を整えた。


聖王(アーロン)は、

再び活力と光を取り戻した

船団の静かな旅立ちを

見届けたのち、

滑らかな軌跡を描きながら、

次なる巡察宙域へと向けて

静かに艦首を向けた。


◇


聖王アーロンは、

S-オムニスを通じて

覇王レグナへと厳(おごそ)かに命じた。


「しばらくの間、予に随行せよ」


「はっ。父上」


皇后(セレスティア)は、

本国アルカディアを

副官ルナとエレーナに任せる

指令を送り、

覇王(レグナ)は、

フェニックス銀河団を

S-オムニス以下の

サテライトシステムに委ねた。


絶対の絶対たる父の意を受け、

覇王レグナの旗艦 Asgard は、

聖王の旗艦 AG(アーロングラディウス)の

神聖なる航跡に並び立ち、

次なる巡察地である ε 銀河団・

外縁宙域へと滑り込んだ。


眼前に広がるのは、

白銀の絶望が渦巻く氷晶高雲宙域。


数光年にわたり漂う

超高密度の極低温微粒子が、

空間から

あらゆる熱運動を

根こそぎ奪い去り、

物質の分子配列そのものを

氷漬けにして凝固させていた。


白銀の雲に呑まれた航路では

物理法則すら凍りつき、

熱力学の脈動は完全に停止。


この地に点在する観測プラントや

補給ステーション群は、

厚さ数キロに達する

幾何学的な氷晶の甲冑に閉じ込められ、

心臓部である熱源主炉が

文字通り息絶えようとしていた。


ステーション内部の薄闇の中、

消失寸前の残存光に照らされる臣民たち。


隔壁を内側から締め上げる

強烈な冷気の圧迫と、

システムの死を告げる

不気味な明滅の中にあっても、

彼らは取り乱すことも、

声なき叫びをあげることもなかった。


誰一人として持ち場を離れず、

静謐な秩序の中で膝を突き合わせ、

絶望をただ耐え抜いていた。


その凍てつく死の世界を切り裂き、

旗艦 AG(アーロングラディウス)と旗艦 Asgard が

重厚なる光芒を曳いて

牙城を崩すように進出する。


聖王アーロンはS-オムニスを通じ、

威厳に満ちた声で言い渡した。

本日 19:30 に投稿します。


【セレスティア通信】


記録データ:第21条


対象宙域:超空洞宙域・極低温漂流帯


特記事項および処理記録:


超空洞宙域にて

機能停止状態にあった

開拓移住船団に対し、

アーロンの【全属性変換能】が

行使される。


極低温属性

およびエネルギー枯渇状態を、

完全なる熱エネルギー

および循環空気へ

再構築・転換完了。


漂流船団の主機関再始動と

生命維持環境の完全復旧を、

無言の救済をもって完遂。


他宙域のAsgard艦、ITS、

および副官

(ルキア、サンディ、

 ミレーヌ、ノエル、

 クリス、レイラ)の

巡幸本隊への随行・混入はなく、

本隊の完全独立運用を維持・記録。


全システム正常稼働中。



【セレスティア通信】(続)


ジュエダン:

「シルヴィア、エレーナ!

夜分遅くにごめんなさいね。

APGの三人同時通信を

試してみたくて、

二人の名前を選んで繋(つな)いじゃったの。」


シルヴィア:

「ジュエダン!

ふふ、謝ることなんてないわ。

エレーナともこうして

同時に顔を合わせて話せるなんて、

APGの機能は本当に素晴らしいわね。」


エレーナ:

「お声がけくださって嬉しいです、

ジュエダン様。

聖宮の執務室で

ルナと明日の日程を

確認し終えたばかりでしたので、

ちょうど二人と

お話ししたいと思っておりましたの。」


ジュエダン:

「よかった!

普段は宙域も離れているし、

立場上

どうしても凛(りん)と構えていなきゃ

いけないけれど……

この眼鏡を通している間は、

副官たちの目も気にせず、

こうして気の置けない仲として

笑い合えるのが何より救いになるわ。」


シルヴィア:

「本当にそうね。

私も ε 銀河団で

月影の歌を捧げる日々だけれど、

戦う女騎士として

第一線に立つジュエダンや、

どん底から這(は)い上がって

聖宮を力強く支えるエレーナの存在は、

いつも私の心の支えになっているのよ。」


エレーナ:

「シルヴィア様……

そんな風に仰(おっしゃ)っていただけるなんて。

かつて魔導の闇に囚(とら)われていた私を、

温かく迎えてくださったお二人には

感謝しかありません。

いま、こうして

誇り高きお二人と共に

歩めていることが、私の誇りですわ。」


ジュエダン:

「ちょっと二人とも、

しんみりさせないでよ!

胸が熱くなっちゃうじゃない。……

でも、本当にそうね。

明日からも

それぞれの場所で全力を尽くすために、

今夜はこうして

互いのぬくもりを分け合って、

ゆっくり休みましょう!」


シルヴィア:

「ええ、賛成よ。

お二人とも、穏やかで良い夜を。」


エレーナ:

「はい。

ジュエダン様、シルヴィア様、

どうぞ暖かくしてお休みくださいませ。」

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